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2009.12.27

長期優良銘柄は短期投資に向かない

私の株式投資歴は10年を超えますが、そのなかで最大の反省といえば、短期投資と長期投資の区別が中途半端だったことになります。その反省から、少し前から、長期投資は現物口座で、短期投資は(現物口座に現金を担保したうえで)信用口座で、明確に分離しておこなうことにしました。短期では、損益と期限を常に明らかにしていることが金利負担を差し引いても意味があると考えました。そのあたりのことをつらつら書いてみます。今となってはアタリマエのことを書いているだけですが。

短期投資と長期投資とでは、どちらが良いか?私の答えは「意味のない質問だ」です。「陸上競技で、短距離走と長距離走のどちらがよいか」という質問に似ています。ただ、言えることは、100メートル走で成績が良くなかったからといって、そのまま42キロを走り続けても、うまくいくはずがないということです。短期投資をずるずる長くしても長期投資で成功するはずがありません。

 まず、短期投資と長期投資の定義をします。

【短期投資とはキャピタルゲイン狙い投資。長期投資とはインカムゲイン投資のこと】

 短期投資が、キャピタルゲイン(株価値上がり益)狙いであることは異論がないと思います。
 しかし、長期投資がインカムゲイン(配当)狙いと書くと、違和感を感じる人もいるかもしれません。しかし、私にとって長期投資のキャピタルゲインとは、インカムゲインの増分を現在価値に置き直したものです。

 株とは何でしょう。理論的には、企業の部分所有権のことですが、ゴーイングコンサーンであって、解散でもしない限り純資産全部が株主に分配されることはありません。「配当を受け取る権利」としたほうが実態に合っていると思います。また、なぜ利益の全てを配当に回さないかと言えば、将来配当のために内部再投資するからです。そして、株価とは、今年の配当や将来の配当の総合計を現在価値に置き直したものだ、ということになります。

 私の株式投資の目標は、株の配当だけで優雅に暮らすことです。実物資産を買うのは別にして、銀行預金や債券を大量保有することはないと思います(老後除く)。株で値上がり益、現金を手に入れても、それで、また、株を買うだけ。保有銘柄が代わるだけで、キャピタルゲインは、現金を得る手段ではなく別の株を入手する手段です(老後除く)。
 そして、株価とは配当の総和だと考えると、その値上がり益とは、本来は分割払いである配当を、一括前受取すること(任意年金の一括受取のイメージ?)。つまり、私の長期投資の目的は、将来に大きな配当を出せる株を、安いうちに買っておくこと、です。
 そういう意味で、ケースによっては値上がり益を得るかもしれませんが、それはインカムゲインの一形態ということになります。

 不動産業に例えるなら、短期投資は「土地転がし」、長期投資は「賃貸料収入は所有物件を増やすことに注ぎ込む。賃料メインでも、もっといい物件があれば、乗り換えることもある」そういうイメージ(ROEが賃料利回り)。

 ここが、短期投資と長期投資の、本質的な違いだと思います。
 
 例えば、不動産投資をしようとして長期で賃貸収入が見込める物件を探しているときに、相場が上がれば短期で売り飛ばしてやろう、なんて考えて物件を見ていたら、結局、どっちつかずの物件に手を出してしまわないでしょうか。株式投資もそれと同じではないでしょうか。

【短期投資は割安株投資。長期投資は成長株投資】

 短期投資の考えかたは、理論株価と現実株価の差に着目し、現実株価の方が割安なときに、理論株価のほうにさや寄せされるだろうと考えて差益を狙うことです。理論株価を考えるときに、PERやPBRあるいはPEGなどに着目するとファンダメンタル派と呼ばれ、移動平均線に着目するとテクニカル派とか呼ばれます。
 割安さの解消が早ければ早いほどいいですから、割安株投資は、本質的に、短期投資です。市場は短期では間違えますが、長期では正しいですから、割安状態で長期保有となれば、失敗投資ということになります。

 繰り返し書きますが、割安状態で長期保有となれば、それは失敗投資です。

 こういうことです。
 短期投資は、株価を常に意識する投資であり、長期投資は、株価は関係ない投資(配当原資である将来利益を意識する投資)ということです。バフェット氏が、「市場が10年閉まっていても関係ない」といったのと同じ意味だと考えています。インカムゲインに対して意識がない人が長期投資をしても、絶対にうまくいかないと思います。もっとも、購入価格は安いほうがいいに決まっていますけど。

 長期投資とは、将来の配当が大きければ大きいほどよい、配当余力の成長に着目した投資です(文末に補足1)。純資産あたりの利益が高いほど、魅力的な成長ということになります。つまり、ROEこそが、最大の指標です。

 まとめると、PERやPBRを重視する短期投資と、ROEを重視する長期投資は、考えかたから、まったく別物です。

【市場との勝負】

 売りと買いが両方揃って売買は成立します。自分が買ったときには他市場参加者は売っており、自分が売ったときには買っています。株式投資は、株式市場との「どちらが正しいか」の勝負です。

 短期投資の場合に、自分なりの理論価格を出して、市場価格と比べて、高い安いと判断し、割安なら買います。つまり、「市場は間違っている」と考えているわけです。そして、多くの場合に、間違っているのは市場ではなく自分のほうです。それでも短期投資で戦うからには、自分は、いつまでも市場を出し抜け続けられるといった自信が必要です。そして、少数派であることと、市場を敵に回すことは、まったく違うのです。

 しかし、実際には理論株価なんて、だれにもわかりません。価格算出に組み込むべき要素が多すぎるからです。それなら、ファンダメンタルよりもテクニカルのほうが、まだ、合理性があると思います。

 短期投資は面白いですが、難しい。資産形成にはリスクが高すぎます。
 長期投資は退屈ですが、確実です。「良い企業」という一つの視点だけでいいのですから。
 もっとも長期投資でも、もっと良い銘柄があれば当然に乗り換えます。最初の目論見が間違っていることもあります。ですから、長期投資イコール放置ではなく、常にいろんな銘柄との比較検討したほうがいいにきまっています。

 長期投資は「成長にかける」といっても、市場は成長を織り込んでいる、って、よく言われますね。いいえ、市場は成長を十分に織り込むことはありません
 なぜなら、市場は、《不透明性》をもっとも嫌います、過剰なまでに。将来はどんな場合でも不透明なものであり、市場価格も不透明さを反映しています。ですから、5年後、10年後、の成長を、株価が完全に織り込んでいることなど、ありえないのです。この、市場の持つ《臆病》という弱点を突くのが、長期投資です。まあ、企業の成長は、予想以上だったり、以下だったりしますが、平均的なものであった場合に、時間が進むだけで不透明性は解消されていき、株価に反映されていくのです。

 私は以前は、「この株の理論株価はいくらぐらいで現在の価格から何%歪みがあって」みたいな計算をしていたことがあります。まあ、銘柄をよりよく分析するためには、役には立ちましたが、そんな理論株価が妥当なことなんて、ほとんどありえません(将来の不透明性をどのぐらいに織り込むかで随分変化する)。長期投資の場合には、将来イメージがそれなりの根拠を持って描ければ、ぐらいで良いと思います。

 繰り返しますが、自分より株式市場のほうが賢い場合がほとんどです。その株式市場に勝つためには、株式市場の弱点《過剰反応という癖》を突くしかありません。例えば(明らかにファンダメンタルではなく需給原因による)暴落時に買う。あるいは、バブリーなときに売る。つまり、株式市場の唯一の弱点である《臆病》つまり過剰反応という癖につけ込む方法です。
 しかし、もっと良い方法は、市場と戦わないことです。つまり、市場とは売買の場。売買しなければいいのです。インカムゲイン狙いの投資では、市場と争う必要はありません。

 個人投資家は、プロとがっぷり四つで戦っても絶対に勝てないと思います。ただ、短期成績で判断されずにじっくりと戦えることだけが、個人投資家の強みです。その強みを生かさずに、四半期成績に一喜一憂してどうするの、と思います。

【短期投資は悪い株を、長期投資は良い株を買う】

 今回は、短期投資と長期投資の違いを際立たせたくて、触れませんでしたが、中期投資というのもあると思います。短期投資が《割安性》に、長期投資が《良い企業》に、投資するとすれば、中期投資は《景気循環》に投資するというイメージです。株式市場と勝負せず、出来るだけ追随する《いわゆる順張り》なので、市場と勝負するという緊張がなくてすみます。しかし、下手をすると、ただの《裏目じじい》になりかねません。それと、中期投資は、PERが高いときに買う、低くなれば売る、という意味で《割安性》投資ではありませんが、それ以外は、短期投資の範疇だと思います。

 トヨタは昨年度、上場以来始めて赤字を出したそうです(何十年も黒字っぱなし)。あるいは、この世界的大不況でも、景気敏感株であるのに黒字をキープしている企業もあります。素晴らしいことですが、こういう企業は、短期投資には向きません。短期投資の醍醐味は、悪い数字から良い数字へ急回復を反映して株価急上昇にあるからです。過去の数字が悪ければ悪いほど、右肩上がりのグラフが描けるのです。株購入時点では、赤字がベストです。また、平均して売上高利益率は低ければ低いほどいいことになります。売上高が少し上昇するだけで、利益は急上昇します。

 一方、長期投資では、赤字が出ると不安でたまらなくなります。どんなに事業環境が悪くても、それでも黒字が出せる企業であれば、長期保有に何の心配もありません。売上高利益率は高いほどいいです。総資産回転率やレバレッジは、そうそう変化するものではありませんので、利益率が高いところで安定していれば、ROEも大きな変化はなく安定します。


 「一発屋」株ほど、短期投資妙味があります。短期投資株の美点は、長期投資株の欠点です。つまり、短期投資向きの株は長期投資向きではないし、その逆も真なりです。
 
 けっして、長期投資は、短期投資の延長ではありません。逆です。
 短期で成果のでない株を、ずるずると長期で持つ。これが最悪の投資。

 数年前、マンションデベロッパーへの投資が、《割安成長株投資》と称されて、一部の個人投資家の間で流行ったことがあります。《不況期に仕入れ、好況期に売る》というビジネスモデルは売れないと悲惨なことになります。そして、ほとんどのマンデベは、市況を読み切れない。当事者の経営者ですら読み切れないのに、素人投資家が読めるはずがない。しかし、何故か、株式市場はしっかりと読んでいて、結局、市場のほうが正しかったのでした。
 そのとき最人気のフージャースは、長期保有では悲惨な事になっていますが、その後、今年3月の安値から軽く10倍以上の上昇になっていますから、短期銘柄としては素晴らしいパフォーマンスになっています。短期向きか長期向きか見極めができてタイミング投資できていれば、この銘柄を追いかけていた投資家は、素晴らしい成績をあげていたことでしょう。

 マンションデベロッパー銘柄人気を冷ややかに見ていた私も、不動産流動化銘柄では、同じ失敗を私がしてしまいました。長期保有型銘柄ではないことは、わかっていたはずだったのですが。
 短期投資(中期投資含む)は、銘柄選択以上に、売り時が大事ですが、難しすぎます。
 不動産流動化銘柄については、後から振り返れば、わかります。「目標とする経営指標」の後半に書いたとおり、18年10月がそうだったのです。しかし、おんなじ事がもう一度あったとしても、私は間違える可能性が高いと思います。経営者ですら市況を読めなかったのだから。

 もう一度書きます。
 短期投資とは、低いところから高いところへ急上昇するのを狙う投資ですから、購入時は《ダメ株状態》であるほどいいのです。高ROE企業で短期投資を狙うなんて、全くナンセンスです。
 一方、長期投資は、高いところで安定している企業がベストです。

 もっとも良いのは、ダメダメ企業が、高ROE安定企業に変身することです。そのときは、短期投資と長期投資の両方のメリットを享受できます。アップルのように。

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コメント

成長株について質問させてください。

・成長株なら無配の方が宜しいのでは?
配当するよりも事業への投資効果があるのなら配当するべきではないと思うんです。逆に闇雲に配当する企業というのは成長面で諦めたのかと考えています。配当性向にもよりますけど。

・キャッシュカウ銘柄は成長で長期向き?
衰退産業で残存者利益を受けている銘柄の場合、高ROE、高配当というケースがありますけどこれを成長株として見るのはやや無理があろうかと思います。市場規模の成長無くして企業の成長は望めないと考えているのですが如何でしょうか。

・経営者へのリスク
経営陣でたやすく企業というのは変わりやすくなると思います。この点も長期投資の欠点(運命?)だと私は思っているのですが如何でしょうか。信越化学が日本電産より伸びが足りない要因も多分そいうことなのではないかと邪推してます。

Mc.Nさん、こんにちわ。

>成長株なら無配の方が宜しいのでは?

 そうですね。言葉足らずでしたが、今、社会人現役の私は配当は要らないです。欲しいのは、将来の配当生活。ですから、「実際のキャッシュの配当」ではなく「配当余力の成長」に着目する投資という意味で考えています。
 いつかは私も給与生活をやめることになりますし、株式市場が半永久的に低迷し続けるリスクを考えると、そのときに配当は大きな意味を持ちます。「利益の成長」とか「FCFの成長」という表現では、弱いと思ったので。

 極端なことを書けば、永久に無配当なままで財務諸表上の利益だけが成長している銘柄なんて、保有するのが心配でなりません。今は無配でも、将来に配当があるだろうという期待があるから投資できます。最後の保証は配当ということになります。
 老後を迎えて現金が必要なときに、「市場は間違っている。この株の本源的価値は高いはずだ」なんて嘆いていてもしょうがありません。

>・キャッシュカウ銘柄は成長で長期向き?

 自己投資案件がないから配当性向が高い株は、まったく魅力がないです。配当余力が大きく成長していく銘柄が、成長株だと思っています。

>・経営者へのリスク

 経営者もファンダメンタル要素の一部と思いますが、「経営者の交代」がリスク要因という意味ですか?ある程度の組織なら、次世代のリーダーを育てている企業風土みたいなものもファンダメンタル要素ということになるんでしょうね。
 そういう意味で、個人依存が高い銘柄は、リスクが高いと思います。ただし、その個人が健在なうちは大丈夫です。

なるほど。大体イメージが掴めました。
日本株で市況に大きく左右されずに高ROEを維持できる銘柄というのはナカナカ少ないですね。ゆきおんさんの定義だと私の投資先は中期投資型になりそうです =)。

強いて銘柄を挙げろと言われるとどの辺ですかね。GOOGやMSFTはもう成長期から離れていると思うんですよ。PGやKFTをイメージしました。日本株だとテルモ、ユニ・チャームあたりですかね。

個人的には中期計画を出さない銘柄には長期投資できないってのはありますね。中期目標が無いのは経営者として会社の目標を指し示していない訳で、投資家にも使用人にとっても宜しくないと考えてます。

>ゆきおんさんの定義だと私の投資先は中期投資型になりそうです =)。

 業績の底付近で買い、ピークで売る、
 現在は良い企業ではなく、
 現状が悪ければ悪いほど、ピークとのギャップが大きければ大きいほど良い、という投資法になるかと。
 株式投資の中では、難しいけど一番面白い、とは思います。

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