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2009.12.06

セルシス

2回目の投稿です。先日、発表された21年10月期決算で、売上は会社予想を若干下回った2,695百万円で着地しました。前期からは10%ほどのアップです。

 今のセルシスは、種蒔きの時期であって、刈取りの数字に一喜一憂する必要はないと思うので、簡単に見てみます。
 あえて気になったことをあげるとすれば、売掛金が、2Qの485百万円から4Qの785百万円へと、約3億円も急増したことでしょうか。売上の伸びをはるかに超えるスピードです。前年同期にはそういう傾向はありませんでしたので季節的要因ではなさそうです。
 こういった場合の理由としては、
 第1に、事業構成の変化により現金循環パターンも変化する。
 第2に、取引先からの入金が遅れている。
 第3に、普通にすれば次の年度に売上があがるものを、無理やり、あるいは頑張って、年度内に売上計上してしまう。
 というようなことが考えられますが、

 急増速度が速すぎるので、第1ではなさそうです。
 20年度末に84百万円あった受注残高が、21年度末には8百万円しかないので、第3のパターンの可能性もありますが、4Qの生産金額には無理がありませんので、はっきりしたことはわかりません。どちらにしても、22年度の売上に悪い影響を与える可能性があることは頭に入れておきます。

 次の表の左側が決算書上の四半期ごとの売上。右が、売掛金増減を加味した現金入金ベースの売上です。

-売上高現金売上高(前受)
20.1Q509632(+199)
20.2Q593534(△39)
20.3Q624600(△47)
20.4Q717658(△76)
21.1Q609608(△39)
21.2Q609629(△3)
21.3Q690591(+1)
21.4Q785585(+3)

 カッコ内は外書きで前受金です。20.1Qに大口を1年間分ぐらい受けている印象なので特殊要因かなと思い外書きにしました。それを除くと、単純に売上推移を見ていった限りでは、順調に伸びている印象でしたが、現金ベースに変更すると減速しています。キャッシュフローでも、同様の傾向が確認できますが、「費用がかさんだため」と言い訳が出来ない分、現金売上減少は深刻な感じです。決算数字をぱっと見だだけより、実際の内容は悪そうです。(前回、ようやく収支及びCFが良くなったと書いたのに逆もどりです)

 それと、事業ごとで見る前に、セルシスの従業員について見てみます。
20.10末 139名(107名)
21.01末 139名(96名)
21.04末 122名(61名)
21.07末 122名(44名)

 カッコ書きは外書きで臨時従業員で、いかにも仕事が減ってきているという印象です(コンテンツ制作事業?)。それ以外に、正社員までやめています。それも一般管理費の人件費が大幅に減っています。気になります。21.10末はまだ、有報がでていないのでわかりませんが、前年度末は、平均勤続年数が2.5年です。短くはないですか。20末の決算短信の「対処すべき課題」の1番目に、「人材の確保及び育成」とあって

 当社は、急速な技術革新への対応と継続的な研究開発等が事業拡大には不可欠であり、このような環 境や変化に対応し、適切にニーズに合ったサービスを提供することが可能な体制を構築していくことが 重要であると認識しております。

 そのために、優秀な人材の確保と育成は事業発展のための根幹と考え、適時必要な戦力となる社員の 採用を行い、育成していくことにより、業容拡大への源泉としてまいります。また、四半期ごとに人事 評価を実施するなど、人事制度面からも社員が能力を発揮するためのモチベーションを高める施策を行 ってまいります

 とあります。この1年は、この課題に応えられたといえるのでしょうか。

 では、事業別に見てみます。
 各四半期ごとの売上で、カッコ内は資産計上前の売上総利益(つまりCFに近い)です。前年度は、事業構成が違っていますので、四半期ごとの数字がありません。通年です。

-電子書籍クリエーターコンテンツ
20.1-41,505(838)381(86)558(71)
21.1Q419(232)102(△39)88(△11)
21.2Q427(196)97(△40)84(16)
21.3Q498(265)117(△33)74(6)
21.4Q596(373)132(△44)55(△7)

 さて、後ろの方から見てみます。
 コンテンツ制作事業については、予想370百万円に対して、21売上実績303百万円と低調です。そのわりには、損益はまあまあです。ここは、外注も多いので、売上が減っても損失が大きく膨らむという感じではないみたいです。
 この事業については、決算短信上で、

 同事業の売上高減少は、携帯電子書籍市場拡大には、より多くのコンテンツの流通が重要であるという方策のもと、当社でもモバイルコンテンツ制作を積極的に受託してまいりましたが、コンテンツプロバイダーやコンテンツ制作会社における制作体制が整備される等、当社が制作業務を積極的に行う必要がない環境が整ったことによります。

 と書いてあり、来期からは事業自体が他事業に吸収されるとのことです。あれあれ、前年度に、モバイル事業に含めていたモバイルコンテンツ受託制作業務を吸収して陣容拡大したのではなかったでしたっけ。たった1年で、また事業区分変更ですか。先見性に疑問符が。先述した人員減少も、関連してくるんでしょう。まあ、利益率も低いですし、いいですけど(あっさり)。

 次が、クリエーターサポート事業で、予想530百万円に対して、450百万円と未到達。
 同じくクリエーター向け制作ツールを提供しているワコムでも、21年1月から3月ぐらいが一番、悪化していましたが、同じような感じです。2Qが底で、売上は上向きになってきています。この1年は、世界的大不況の影響を一番大きく受けた時期です。ライバルに客を取られたというわけでもなく、市場が縮小しているわけでもなく、景気循環に従っているだけのことで、将来に向けて、大きく問題視することはないと思います。
 上の表では、資産計上前の売上総利益で損失が出続けていますが、ここは、制作したものを一旦資産計上して3年位かけて費用化していく事業なので、それを勘案すると、21年度は、2億円ぐらいの総利益だと思います。ただ、ここは、資産振替前の数字で、できれば黒字化しておいてもらえれば安心できるなというのもあります。というのはソフト会計の、外部から見たわからなさがあるからで、

 具体的には無形固定資産の「ソフトウエア仮勘定」が膨らんじゃったな、という印象があります。従業員の行った作業のうち、次年度以降に所属させることが適切ではないかという費用については、費用から資産に振替るんですが、これは当然、次年度以降に費用に戻るわけで、今後の費用増加要因になります。
 サイボウズなんか、以前は、資産振替しすぎと監査法人に指摘され、下方修正を繰り返していた記憶がありますが、実際のところ、小さな組織で従業員が、どの日にどの仕事をしていたかなんて、厳密に区別できるものなのでしょうか。例えば、将来の製品にかかる研究開発をしている従業員が、既存製品のクレームに対応して既存製品のプログラム修正作業をしたり、あっちをしたり、こっちをしたり、ではないのかな、と思うのですが、どうなんでしょう。つまり、やろうと思えば、費用の先送りもできるわけで。

 パッケージソフトの制作費は、ほとんどが固定です。制作してしまったら、あとは回収するだけで、変動費は、CDへのプレスとか、紙のパッケージとか、まあ、微々たるものです。つまり、売れれば売れるほど、利益率は格段に向上します。発売3年ぐらいまでは、原価に費用を計上しますが、それ以降は、ほとんど原価が要りません。実際には、それまでにバージョンアップがありますが、最初のバージョン1を制作するのと、それ以降の修正とでは、かかる手間が大違いです。ということで、一般には「薄利多売」という言葉がありますが、パッケージソフト販売の場合には、「多売」すれば、少々、価格は安くても「多利」なのです。そういうわけで、ソフトは、シェアを取ってスタンダードになってしまえば、ものすごく美味しいです。もっとも、多少の機能追加ぐらいでは仕事も少なく、従業員が余ってしまうので、次の新しい仕事に取りかからなければならないことになります。
 そういうことも含めて、一般的に言って固定資産のソフトウエアが、事業拡大のスピード以上に増え続ける企業は、投資不適格です。

 最後に、電子書籍サポート事業。当初予想1,871百万円に対して、1,941百万円と、28%アップで想定以上の伸び。決算資料には、何故か、事業ごとの利益が記載されていませんが、ほとんどの利益をこの事業で稼いでいます。利益率もかなり高いですね。しかし、この利益率については、売れるコンテンツを作るか、売れないコンテンツを作るか、で、大きく変わってきます。販売されているコンテンツを、1人しか買わなくても、100万人が買っても、費用は殆ど変わりません。
 本当は、ビューワ利用料と、それ以外の収益の別を知りたいのですが、資料では「第15期第3Qのビューワ利用料を1とした場合の利用料の進捗度」などという、表記になっています。知りたいのは、金額なんですが、何か理由があるんでしょうか。

 総合的に考えると、世界的大不況のなかで、多くを望むほうが間違っています。業績的には、こんなものと思います。電子書籍サポート事業が、不況知らずに好調なのは評価すべきです。それが、どのぐらいユーザーの増加によるものなのかどうか、知りたいところです。

 あとは、おまけに、あれこれと。
 資料には、ファイル数の推移も載っています(何故か業界全体)が、正直、ファイル数なんか、あまり関係がないと思います。売れるコンテンツは、物凄く売れるし、人気の無いコンテンツは、売れない。また、新作は売れるが、少し古くなると売れないで放置される。それが実態ではないでしょうか。
 また、私もいろいろとコンテンツを買ってみましたが、ランキングや評価システムが整備されていないままでコンテンツだけ増えても、ユーザーはつまらないコンテンツをつかまされる確率が高くなるだけです。濃いユーザーは別にして、一般ユーザーは、ファイル数については、とりあえず少数精鋭のほうが、ありがたいです。今は、少数の濃いユーザーに多くのコンテンツを売るよりも、多数の初心者ユーザーに質の高いコンテンツを気に入ってもらって、裾野を広げる方が大切なのではないかと思います。
 そういうわけで、ファイル数が増え続けても、ユーザー数が限定的だと売上が分散されるだけ。それが乱造だと逆効果です。

 もう一つ、セルシス採用サイト数が、900を超えたというIRもありましたが、サイト数の増加も同様です。
 例えば、私は、本を注文するのにアマゾンしか使いません。他にも多くのネットショップはあるかと思いますが、品揃えの豊富な利便性の高いサイトがひとつあれば十分です。もし、この本を買うのはこのサイトでしか扱っておらず、あの本を買うのはあっちのサイトで、となれば不便極まりません。サイト数の増加なんて、どこまで評価すべきものか、と。


 私は、前回、投稿してから4ヶ月、ドコモそしてiPhoneをとおして利用者となりましたが、小さい画面で長編は読みたくないな、というのが実感です。しっかり読むなら、やっぱり紙です。本格的普及は、ハードの進化を待たなければなりません。繰り返しますが、今は種蒔きです。
 私は、iPhoneで、ゲームもしますが、最初は大作ゲームもインストールしましたが、結局、単純ゲームの頻度が高いです。それと同じことです。

 思いつきですが、
 例えば、私は読売新聞の4コマ漫画の「コボちゃん」を毎日読んでいます。しかし、朝は時間がないので忘れたりもします。それが、携帯配信されたら読むと思います。そういう、通勤途上とか、ちょっとした時間に、さっと読めるコンテンツの方が、広く普及すると思います。もちろん、4コマ漫画にお金を払うかな、という難問もありますので、収益モデルも考えなければなりませんが。それと、4コマ漫画なら、セルシスの技術も要らんような気もしますが。
 まあ、4コマ漫画のことは、思いつきにすぎませんが、敷居を下げることが必要だと思います。そして、携帯向きのコンテンツが必要です。

 「実は“下り坂”のジャパン・アニメ~騒いでいたのは関係ない人たちだけ」によると、日本の漫画市場5,000億円に対し、米国は175億円(08年)、フランスは57億円(07年)、また、アニメ市場(DVD販売など)は、日本の3,000億円弱(関連市場含めて)に対して、北米市場は316億円(07年)、フランスは25億円(08年)。よく、マスコミが取り上げるように、日本ポップ文化が、世界で熱く受け入れられているのは、実は、ごくごく一部の濃いユーザーだけ。
 
 この記事が日経オンラインに載った日、次の日と、セルシスの株価は暴落し、20万円を割り込みました。それ以降、回復していません。まあ、この記事の妥当性も、どうかな、と思わないではありません。が、そういう見方もあるということで、この記事では、以下のように指摘しています。

 筆者たちが研究会を通じてこうした事実をご呈示しても「日本のコンテンツというものは大したもの」なのだ、「産業になっていない」のはまだ世界がわかってくれないからさ、と胸を張る、まさに前首相のような企業の部長さんがたに複数お目にかかりました。(略)

 この時感じたのは「おれたちは世界でも先端の技術に走りすぎちゃって孤立しちゃったからさあ、『ガラパゴス』って呼ばれてるんだ。アハハ」と笑っている携帯メーカーの担当者とどこか根っこで共通していないか、ということです。「携帯分野はニッポンがずっと世界の先端を走っていたわけ。トップランナーを走ってきたわけ。それで市場が飽和したってしょうがないよ。国内ではこれ以上儲からない、海外では北欧や韓国企業にやられてるって言われたって、ニッポンを便利で快適な国にしたのは僕達だよ」と、あるメーカーの課長さんから言われたこともあります。

 いつから私たちは、みずからを「カッコイイ」と自称し、「世界がわかってくれない」とうそぶくようになったのでしょうか。

 携帯コミックは、国民的娯楽に発展する可能性もあるのに、下手すれば、濃いユーザー対象のニッチ市場にとどまり、近い将来、キャズムにぶち当たると思います。そうなりませんように。

  □ これまでの投稿 □

1回目 2009.08.01

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コメント

いつも読ませていただいています。
きわめて緻密に分析されているところへコメント付けるのは恐れ多いですがお許しください。
私がセルシスを買ったとき、単純にケータイをベースにしたマンガビューアをほぼ独占していることがすごいと思い、最後に買ったのは6万円台で、その水準では資産的にも割安に思えました。
そしてその当時は、なんとなく電子書籍がさかんになればそのビューア全体がセルシスの市場になるのではないか、と夢が描けたんですよね。マンガだけでなく電子書籍全般にさまざまな会社と提携して、デファクトスタンダードになれる気配ありましたし。
しかし私にとって、やはりわからなくなってしまったのはアマゾンのキンドル、グーグルの書籍配信などといった少し前までまさかの思いもよらなかった事業、サービスが本格化し始めたことでした。
もちろんセルシスがそれらの上でもマンガのフォーマットとして採用される可能性も十分あり、そうなったらそれこそすごいことになると思いますけど。私自身が見通せないので、残念ながらあきらめました。むしろ確実性ではイーギャランティの存在が大きくなってきたこともありますが。(それもこちらで勉強させていただきました。ありがとうございます)
現在のセルシスの株価、15万以下という水準は、現在の利益水準からフェアバリューに近い、割高ではないと考えます。しかし新規に投資するにはさらに10%以上ディスカウントされたところを待ちたいと思っています。
そうならず飛んで行っていまったらそれまでですね。
ところで、アップルが計画しているというプレートも電子書籍を意識したものになりそうで、楽しみにしています。
ぼくが生まれて初めて買った株はナスダックのアップルコンピュータで、投資というよりアップルファンでアニュアルレポートが欲しかったからでした。
回路図まで付いてるアップルIIが大好きで。初めて日本にできたアップルジャパンに就職希望の手紙出したり。
Mac はほとんど買いませんでしたが、iphoneはApple II以来のわくわくさせてくれるマシンです。プレートにも期待しています。

kobat57 さん、こんにちわ。
先日、Amazonのkindleの実物を始めて見ましたが、液晶とは大きく違い、眼にも負担が軽そうな感じで、技術の進歩を実感しました。
電子コミック市場は、まだまだハードの発達により大きく変化すると思います。当面、市場の拡大が先決であって、ライバルが云々という心配は、今はいらないのではないかと思いますが、どうなんでしょうか。

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