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2009.11.07

たばこ税は、懲罰税か

今年も恒例のたばこ税の増税論議が始まりました。kizasiで注目してみると、多くのブログ上では、「なぜ、喫煙派は、これほどまで肩身の狭い思いをしなければならないのだろう」とか「なんでも欧米を真似れば良いというものではない」とか、喫煙派からの反対意見が圧倒的に多数派となっています。

 国立がんセンターの後藤公彦氏は、煙草の適正価格を《社会コスト=経済メリット》を満たす価格として、一箱600円(1990年)が適正価格という数字を出しています。
 具体的には、タバコ産業は総額2.8兆円のメリットを生み出したとし、内訳として、税金納付1.9兆円、タバコ産業賃金、内部留保0.4兆円、経済波及効果による他産業での賃金支払い0.2兆円、他産業での内部留保0.3兆円。一方、社会的コストは医療費3.2兆円、喪失国民所得2兆円、消防・清掃費用0.2兆円、その他0.2兆円、合計5.6兆円、だそうです。
 これに対して、関西学院大学経済学部の河野正道教授は、この数字を基にしながらも、経済学の視点からは考えかたに疑問があるとし、《適正価格とは、経済メリットと社会コストの差を最大にする価格》であるとして、外部不経済を除いたとしても、1400円が妥当価格であるとしています。

 上の試算の他にも、(財)医療経済研究機構の 2001 年度調査報告書「たばこ税増税の効果・影響等 に関する調査研究」によれば、喫煙による経済的損失は、 7.3兆 円。
 また、2006 年度厚生労働省科学研究費補助金循環器疾患等生活習慣病対策総 合事業「喫煙と禁煙の経済的影響」の報告書によれば、社会的損失 の合計は約4.9兆円と試算されています。
(どちらも、平成20年3月の日本学術会議の資料から)

 5兆円弱から、7兆円強と、幅はありますが、どうみても、タバコによる経済的損失がタバコ税収を、大きく上回っていることは、確かなようです。
 
  
 さて、税金の話しに移りますが、現在、1箱300円商品の場合、国たばこ税71.04円、たばこ特別税16.40円、地方たばこ税87.44円です。
 これを、1箱300円から、上の1400円に引上げ、差額900円を国税にするとします。すると、国の増収額は、単純計算で15兆円弱となります。
 一方、消費税は、毎年10兆円前後で安定的に推移しています。これは、5%相当ですから、1%あたり2兆円となります。
 つまり、たばこ税増収期待値の15兆円は、消費税を7%強も引上げたのと同様となります。

 もちろん、単純計算どおりにいくはずもありません。
 また「たばこ税を引き上げると、喫煙者が減り、かえって税収が減るぞ」という意見もあります。それは、前回の増税が、財務省の期待に反して減収の結果となったことを根拠としています。しかし、それは、1本あたり、たった0.8円という増税であり、ほとんど参考になりません。
 煙草増税が減収とならないことについては、前掲論文でも証明されているほか、循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業の「各種禁煙対策の経済影響 に関する研究」でも以下のように完全に否定されています。それによると、

 値上げ後の喫煙継続率はもっとも厳しい推定値を採用すれば 48.7%であり、もっともゆ るい推定値を採用すれば 74.1%と試算された。これによりたばこ 1 箱 1000 円に値上げ後の たばこ税収額は5兆3570億円から8兆1510億円となり、3兆2千億円から5兆9千億円の 増収になることが試算された。

 この計算では、最大、消費税3%分の増収です。

 もっとも、仮に減収となったとしても社会コストも減るのですから、結構なことだと思います。

 おそらく、9割の喫煙者は、マナーを守って喫煙していると思います。しかし、残り1割のために、私の喫煙者に対する印象は、非常に悪いです。
 毎日、出勤のために、駅のホームで列車を待ちます。並んでいると、禁煙のはずなのに、煙草をつける人がいます。私は、風向きが突然に変わり煙草の煙を不意に吸わされるのを避けるために、列車待ちの列から外れざるを得ません。
 職場に向かい、人ごみのなかを歩いていると、煙草に火をつけたまま、手をぶらぶらとしてあるいている人がいます。信号待ちの横断歩道の前で、無神経に煙草をぷかぷか吸っている人がいます。思わず、手に持っている傘で背中を突いてやろうか、という衝動を感じないではありません。罰則の有る無しに関わらず、道路など公共の場所での喫煙は、失礼きわまりないと思います。
 

 上記の、1400円には、そういう外部不経済が、全く算入されていません。周りの人の不快感と引き換えに、自分だけ快楽を得る、それが喫煙です。ですから、お金の問題ではないと、主張したいですが、少なくとも「社会にかけたコストぐらいは相当分を自分で払ってください」。

 ところで、花王のエコナが発がん性物質が入っているとのことで、リコールになりました。その一方で、(都会に住んでいる限り受動喫煙リスクから逃れる術のない)煙草は、堂々と販売されています。不思議です。

 厚生労働省の「受動喫煙防止対策のあり方に関する検討会報告書(2009.3.24)」では、次のような現状認識を示し、たばこ税増税も課題の一つであるとしています。

 受動喫煙が死亡、疾病及び障害を引き起こすことは科学的に明らかであり、国際機関や米英をはじめとする諸外国における公的な総括報告において、以下が報告されている。
1 受動喫煙は、ヒトに対して発がん性がある化学物質や有害大気汚染物質への曝露である。
2 受動喫煙の煙中には、ニコチンや一酸化炭素など様々な有害化学物質が含まれており、特にヒトへの発がん性がある化学物質であるベンゾピレン、ニトロソアミン等も含まれている。
3 受動喫煙は、乳幼児突然死症候群、子どもの呼吸器感染症や喘息発作の誘発など呼吸器疾患の原因となる。特に親の喫煙によって、子どもの咳・たんなどの呼吸器症状や呼吸機能の発達に悪影響が及ぶ。
4 受動喫煙によって、血管内皮細胞の障害や血栓形成促進の作用が認められ、冠状動脈疾患の原因となる。
5 受動喫煙によって、急性の循環器への悪影響がある。

また、受動喫煙を防止するため公共的な空間での喫煙を規制した国や地域から、規制後、急性心筋梗塞等の重篤な心疾患の発生が減少したとの報告が相次いでなされている。

 喫煙者の2人に1人は、喫煙由来の病気で死にますが、受動喫煙者の20人に1人も、受動喫煙が原因で早死に至るそうです。 
「分煙」では効果がないということなので、輸入煙草も含めて「煙草が安く手に入る」という現実を代えることでしか、動かないと考えます。

 最後に、増税への反論が、今日の日経新聞朝刊に載っていました。

 葉タバコ農家などは、「大幅増税で粗悪品が出回れば、喫煙者の健康が損なわれる」と主張。

 すごい論理だ。

 日本医師会では、煙草税増税を求める署名を集めています。ここまで読まれた方は、こちらへ

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コメント

いつもながら、緻密な数字を伴う論旨なので読み応えがあります。公認会計士の資格などお持ちなのではないかと思料させます。
たばこに関する議論は痛快で、正直私はかつて勤めていた職場で、たばこ吸ってるやつの頭から袋をかぶせて首のところでしばってやろうかと思った覚えがあります。
吸ってもいいんですけどね。吐き出さなければ。おっと、まだ副流煙があったな。
セルシスがどうやら思惑による相場は一段落したようで、これからは実績がどうなるかですね。10月決算とその後の予想を注目しています。
携帯をしのぐブックビューアーがキンドルやそれをしのぐ端末として普及してくるのか。セルシスがそれに乗れるのか、あるいはマイナーに追いやられるのか。
絶対大丈夫とは思いませんけど、どうなるか楽しみではあります。
そうした物の候補たるものを任天堂あたりは出しうるのではないかと思うのですが。iphoneに対抗するしてもDSiの画面を大きくする程度のアイデアしかないとすればちょっと残念です。

喫煙権が存在するなら、それと同時に嫌煙権も発生するわけで、喫煙者にはそのことを理解してほしい。
要は周りに非喫煙者がいないところで吸ってくれということなんだけど、こう言うとなぜかヒステリー扱いされるからたちが悪い。

元喫煙者で現非喫煙者です。
なので、喫煙者の気持ちもわかりますし、非喫煙者の気持ちもわかります。しかし、たばこはやはり毒です。しかも中毒性の。
1箱1000円論者です。1000円に根拠はありませんが、この程度まで引き上げるべきです。
1箱1000円にするとどうなるか。
・低所得者層は、タバコをやめる(≒やめざるを得ない)結果、医療費の削減にもなる。
・中学生高校生はタバコを吸わない。(≒小遣いでは買えない)未成年の常習化を防止できる。
・1000円でもタバコを吸う人は、ステータスになる(タバコ呑みが肩身が狭い思いをしなくていい)となると、タバコのマナーも向上する(自覚する)。
タバコ屋さん、タバコをつくる農家は困るかもしれません。
でも、人に健康の毒を売って生計をたてることはいいことではないことを自覚すべきです。別の業態、作物に転換すべきです。

喫煙が体や社会に悪いと言うなら、税収は無くなるが、たばこの販売及び喫煙を大麻や覚せい剤などと同じく法令で禁止すべきである。
峰崎直樹財務副大臣が「たばこは健康に良くないという観点」で増税するといっているのは、ばら撒き財源確保のための詭弁である。
喫煙の健康被害などが明らかとなった現在においては、課税の対象から禁止の対象に変えるべきである。
健康保険料などの負担が減る。吸殻のポイ捨てによる道路などの不快な汚れもなくなる。
たばこ税を上げても効果は限られるが、喫煙者を減らすには、税額は欧州より高い1箱千円以上が妥当。
国が半数を保有するJT株式を売却して埋蔵金を確保しつつ、JTを完全民営化すべき 。
日本共産党の市田忠義は、喫煙権もある、と言ったとか。そのうち、大麻権や覚せい剤権があると言い出すのだろうか。

【少し、不適切なコメントを書いてしまいました。削除しました。すみません】
 

まず、ありがちな「たばこ禁止論」はナンセンス。
宗教上の理由も無しに世界中で日本でだけ禁止はありえないので、やはり増税が妥当だと思う。

そして、たばこ税は懲罰税と言っていいのではないか。
肯定的な意味で。
非喫煙者は誰しも少なからず他人の喫煙で嫌な思いをした経験を持っているので、規制強化を求める声が強まっていくのは自然の流れだ。
ゴミ屋敷の主を問題視する話と同じで、当人がどれだけ正当性を主張しても、社会が許さなくなれば公によって強制手段が発動されるのも必然であろう。
結局、歩きたばこなどを憚らない悪質な喫煙者が良識的な喫煙者を懲罰の巻き添えにする形だ。

それにしてもJTは政権交代の可能性は考えなかったのだろうか。
民主党政権に代われば、遠からず大増税に向かうことはわかり切っていたはず。
自主的に100円くらい値上げして飲食店の分煙を補助したり喫煙所の拡充などに充てていれば、懲罰の度合い、事業へのダメージも軽減されただろうに。

自分も煙草は禁止にする必要は無いと思う。
自分の体には自己所有権があるから、煙草でガンになるリスクを承知しつつ、それでも煙草を吸うのは本人の自由だ。

ただし他人に了解無しに副流煙を吸わせるのは、他人の自己所有権を侵害するからやってはいけない。
家か喫煙所で吸えばいいし、それ以外の場所で他人がいる場合は、吸っていいかどうかを周りに確認すべき。
いたってシンプルな話なのに、なぜか嫌煙権を主張するとファビョる奴がいるのは全く理解できん。

http://kikko.cocolog-nifty.com/kikko/2007/03/post_238e.html
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090625

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