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2009.09.18

iPhoneとガラパゴス携帯

10年少し前、アップルはiMac(初代スケルトンタイプ)というパソコンを発表しました。それは、当時は必須と考えられていたフロッピーディスクドライブがついておらず、SCSIもシリアルポートもありませんでした。ただ、USBポートがついていました。USBは、当時は、様々な旧規格を使用し続けるユーザーが多かったため、なかなか普及が進んでいませんでした。そこで、アップルは、USBを一挙に普及させるために他の旧規格を思い切って切り捨てたのでした。

 当時のユーザーに取ってみれば、それは不便を強いるものでした。しかし、それは「パソコンの未来は複雑で多すぎる規格に振り回されるようなものであってはならない」という、アップルの意思の現れでした。
 ほどなくして、日本のソーテックという会社から、iMacもどきのパソコンが発売されました。それは、あんな規格もこんな規格もついている、という(iMacを意識した)拡張性の高さを謳い文句にしていました。私独特の意地悪な言い方をすれば、《ユーザーにパソコンの未来を指し示すパソコン》と《ユーザーに媚びるパソコン》の双方が、店頭に並んだのでした。

 10年が経って、アップルの《iPhone》と、日本のいわゆる《ガラパゴス携帯》の関係が、これに二重写しになって見えます。
 iPhoneに不満がないわけではありませんが、これはユーザーに《モバイルインターネットの未来》を夢見させる道具です。
 iPhoneはこれから、どのように発展するのだろうとわくわくさせてくれます。
 そのことを反映して、Mac(パソコン)とiPhone(携帯)が融合された(?)、iPadと名付けられたアップルタブレットの噂が次々とネット上をにぎわしています。
 一方、確かに液晶は奇麗になったし、カメラの画素数は多くなったし、デザインがコロコロ変わる、けれど、機能がごてごて付いているだけの携帯電話、それが日本のガラパゴス携帯です。誰も、ドコモの次の携帯電話はどんなものだろうと、わくわくして噂しあうことはありません。

 《ガラパゴス(=世界から隔離された閉じこもった世界で独自の進化を遂げている)》と揶揄されるときに、「日本という殻に閉じこもっている」と「携帯電話という殻に閉じこもっている」という2つの意味があります。前者はまだ「日本の世界最先端の消費者に磨かれている」という点で、まだ、ましだと思います。深刻なのは後者です。
 アップルが携帯に乗り出してきたのは、何も新事業を始めたわけではありません。パソコンと携帯の垣根が無くなっていくのは自然の成り行きだったのです。10年以上も前に、ワープロ市場がパソコン市場に融合していくことも気がつかず、いつまでも閉じた市場が存続すると信じて独自にワープロ専用機を進化させ「日本のワープロ専用機は最先端だ」と滅んでいった、あの状況が繰り返されるのでしょうか。

 これこそ、「現場一流、経営三流」といわれる日本社会の現状を如実にあらわしているかのようです。

 世界各国のNo.1キャリアとしか決して組まなかったアップルですが、ドコモとは交渉がうまくいかず、結局、ソフトバンクと手を組むことになりました。そのことによる初期販売機会損失は、相当のものだと思います。しかし、伝えられる交渉経過を読んだりすると、長い目で見ると、ソフトバンクでよかったとなりそうな気持がします。
 ドコモという企業は、電電公社の役所的DNAをしっかりと守り続けている企業だとつくづく思います。

 どんなに、メーカーの技術者が一流でも、こういうキャリアが船頭である限り、報われることは少ないでしょう。ごくごく普通に考えて、キャリア毎に機種ごとに、いちいち仕様を変更し、合わさなければならないガラパゴス携帯に、労力を投入して、どれだけ報われるのでしょうか。私のような素人でさえ徒労のほどがわかります。
 日本の《ものづくり技術者》も《デザイナー》も《クリエイター》も、世界に誇る最先端かつ一流の人材なのかもしれませんが、経営が三流であれば、消耗され疲弊するだけです。

 この業界でオピニオンリーダーの一人である湯川鶴章氏は、最近、こう書いています。

 わたしも「日本のケータイ産業は世界の最先端を走っている。iPhone、グーグルフォン、恐るるに足らず」と長い間考えていた。
 しかし最近は考えが変わってきた。そう遠くない将来に米国勢のモバイル機器の技術が日本の携帯電話産業を席巻するのではないか、と思うようになってきた。  そう思うようになったのは、自分自身iPhoneを購入して、iPhoneのアプリ市場であるApp Storeでいろいろなアプリを購入するようになってからである。(略)
 iPhoneの本当のすごさはアプリ市場にある。6万5000個もあるといわれるアプリの中から気に入ったものをダウンロードすることでiPhoneを自由自在に機能拡充させることが可能、ということがiPhoneの最大の魅力なのだ。(略)
 先日都内で開かれたテクノロジー系の見本市で、拡張現実(AR)と呼ばれる種類の最新技術を使った画期 的なケータイアプリを見つけたが、開発者によるとiPhoneとグーグルフォン向けにしか開発する予定はないという。同じアプリを作るのなら、ユーザーが 多いアプリ市場向けに作りたいと考えるのは当たり前のことだろう。
「湯川鶴章 ビジネスマンのためのITトレンド それホントに買いですか?(2009.8.11)」

 私は以前、アップルが、その売上の30%を徴収することをぼったくりのように書きましたが、撤回します。私の投資先であるセルシスの取締役である野田友慈氏は、MacFan9月号で次のように述べています。

 「アップストア課金では、コンテンツ一つ一つがアップルにおける審査の対象となり、配信スケジュールが組みづらいという点はあります。ただ、独自で課金システムを構築するコストを考えるとずいぶん手軽です。」

 「ずいぶん手軽」というところがポイントだと思います。
 「ずいぶん手軽」は、開発者だけではなく、ユーザーにとってもそうです。実際、たいていの場合、アップルが審査しないで自由配信だと、ユーザーは(セキュリティとか)危なくて買えないと思います。まあ、総じてリーズナブルだと考えていいみたいです。

 話しを元に戻しますが、

 前回紹介した「iPhone 3G Wiki」さんの「なぜ、AppStoreが最適解なのか?」から一部を紹介します。

 

 短期的な視野における開発では、その新機種のためだけのリソース投下が行われ、(基礎部分を別として)UIなどは熟考や慎重なユーザビリティテストを経ることなく決定され、ユーザーのフィードバックがその機種に対して反映されることもほぼありません。なぜなら短期的な開発モデルにおいては、新機種が発売される頃にはチームはすでに次の新機種開発に取り掛かっており、立ち止まり振り返ることなど許されないからです。
 よく日本のケータイ電話でもアップデートはあるのだといわれますが、そのほとんどが使用上支障を来たす機能のバグフィックス目的であり、少なくとも1つの機種に対して新機能が100もつくほどの大規模アップデートが行われたり、小規模改善を含むアップデートが年数回も継続して行われることは決してないでしょう。iPhoneでは、2007年発売のOriginal iPhoneから3世代の間、液晶サイズやボディサイズなどが固定されていますが、このことが、逆にハードウェア差異以外でのOSやアプリの互換性を生み出しています。最新であるOS3.0はOriginal iPhoneでも適用可能ですから、ユーザーは買い換えることなく魅力ある新機能を使うことができますし、AppStoreのアプリやゲームを体験することも可能です。
 さほど機能が変わらないのに、次々とガワだけを変化させ使い捨てられる携帯。その機能追加は本当にユーザーエクスペリエンスを変化させるものなのか?使い慣れた過去の携帯電話機に反映させることはできないのか?なぜ反映できる仕組みにしないのか?買い替えを促すためだけに機能開発が行われていないのか?長期的な視点に立って利用者が長く快適に使えるデザインや機能設計になっているのか?

 

 是非、全文を読んでください。

 機能がどうとか性能がどうとか、そういう問題ではないのです。短期間で消費され、使い捨てられていく、そのような道具を作らされることに、一流の人材が消費されていく、それが《ガラパゴス携帯》の姿です。


 ちなみに、先日7月30日のドコモの決算説明会で、経営陣から「iPhoneをあきらめない」発言がありました。何を考えているのでしょう?

(追記) 余談ですが、私は初代iMacについては、(志はかうが)今ひとつ質の低いパソコンだったと思っています。iBookもそうです。かつて、Macと言えば、OSは素晴らしいが、ハードはWindows機がうらやましいという時代がありました。しかし、年月が進み、現在のiMacそしてMacBookは、Mac歴が長い私から見ても、機能美という言葉が似合う良いパソコンです。
 一方、ソーテックは、経営難に陥りオンキョーの支配下に。ブランドとしては残っていましたが、そのブランドも消えるというニュースが最近、流れました。


 

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コメント

つい先日,妻にiPOD touchを買ってあげました.
少し触ろうと思って手にしたら手放せない面白さでした.
デフォルトの状態でこれですから,自分でカスタマイズを始めると無茶苦茶ハマりそうです^^;

はじめまして。
最初読ませていただいたのは私も投資しているセルシスの詳細な財務分析に舌を巻いて以来ですが、その後もiphoneについての記述などわくわくしながら読ませていただいています。
私も今はようやくiphoneユーザーで、そのわくわく感は遠い昔中古のappleII plusをえいやっと思い切って買って以来で、appleIIの最大の魅力もサードパーティ製ソフトの厚みだったことを経験していれば、iphoneの本当の強みもApp storeの充実後にわかってくる、というのは予想できましたね。
しかしそうしたソフトの充実がなぜ起きるのか、ご記載を読ませていただくと非常によくわかります。
iphoneの発売当初、専門家らしい連中がボロクソに言っているのを見聞きし、そういう人たちも意外にわかってないのではないか、と感じましたが。
iphone発売当初、感激してかなり安く買ったソフトバンク株は、そうした声にいまいち自信が持てず早めに手放してしましましたが。もっと自信持ってホールドしてもよかったなと思っています。
現在、セルシスの他に、こちらとtousizさんの記事で勉強させていただきイーギャランティ株も買えました。
これからも楽しみに読ませていただきます。
ありがとうございます。

本文と関係なくてすいませんが、
亀井静香のモラトリアム法案が通れば
イーギャランティの事業にも影響が出そうですが、
どうでしょうか?

夏維さん、
kobat57さん、はじめまして。
リンク先の湯川鶴章氏は書いていますが、ソフトバンクから借りてレビュー記事を書いたけど、自分で所有して始めて、iPhoneの価値がわかったと。
店頭で触った位では《購入したときから、どんどん陳腐化していく携帯》と《アプリ追加やアップグレードにより進化していくiPhone》の差がわかりません。
以後、よろしくお願いします。

諭吉さん、こんにちわ。
本文と関係ないので、簡単に私の感想を書くと、
亀井さんのとんでもない政策が、そのまま実現するとは思いません。もし、何らかの形で実現すると短期的影響はあるかもしれませんが、長期投資の私には関係ありません。

私もMacPlusからパソコンの道に入ったので
ひとこと。(笑

操作性なんです。使いやすさというか。
それが、アップデートの度に洗練されていく。
(まっ。試される機能とかもあるけど)

私は、PHSの可能性を信じてたんですが(爆笑
(いや、ほんと初期の頃は利点も多々あったんです。)
6月にiPhone3GSを手にして
アップルのすごさを改めて感じました。

機能的には、ある部分を見ると日本が先に開発していたり
するのに(GPS関連)
しかし、それを実用とし広める力のなさ。
そして
今頃になってシャープが小型のモバイルパソコンを発売して
いるという感覚のなさ。
(Ubuntuを採用するのは、素敵ですが)

経営者が本当に使っているのか?。
そこにもポイントがあると思います。

ららさん、どうもです。
私は、Centris610が最初のMacなので、後輩になります。
それ以来、自宅用は、ずっとMacです。

職場では、ずっとWindowsですが、
フォントが汚すぎるし、
人間工学(?)に反する使いにくさ(例えば、「スタートメニュー」は左下にあって、マウスを押し続けたままプルアップします。不自然な手の動きを強いられます。普通、上から下でしょう?)だし、
マイクロソフトは、金持ちのくせに、ユーザーインターフェイスを何にも考えてないなあ、とおもいます。

まあ、インスタント珈琲とレギュラーの違いが気にならない人がいるように、UIが全然、気にならない人にとっては、シェアの高いWindowsのほうがいいと思いますが、
パソコンは非人間的だと、日々、感じている人については、iPhoneからMacへと導かれて欲しいと願います。

 気になっていた、MSについて、参考になるのでリンク。

http://satoshi.blogs.com/life/2009/09/windows-mobile.html
「Windows Mobileに「全力投球」を決めたMicrosoftの厳しい戦い(Life is beautiful)」

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