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2009.08.27

イー・ギャランティ

3回目の投稿です。イー・ギャランティについては、「今の事業をそのまま規模を拡大していくだけで十分です」といえるほど対象市場が広すぎるので、定期的に数字を確認するだけで、書くことは少ないのですが、今期1Qで気になる数字が出ました。四半期の営業CFが赤字だったのです。

 まず、保証残高の推移から見ていきます。(カッコ内は連結対象のクレジット・クリエイション1号合同会社によるもの。いわゆる自己投資分です)。
 
 平成20年6月 867億円(0円)
 平成20年9月 945億円(8億円)
 平成20年12月 991億円(15億円)
 平成21年3月 937億円(17億円)
 平成21年6月 908億円(26億円)
 
 おやおや、20.12をピークに下がり続けています。
 8.10の日経(夕)では、「同時にリスクの高い案件については保守料率を引き上げた。結果的に更新してもらえなかった顧客もあったが」とあります。保証残高が減っても、保証料率があがって、結果として売上高が増えるのならそれでいいわけですが。たしかに、実際、売上高は増えています。
 
 売上高を個別に見ていきます。下の「売上」とあるのは「売上高課金方式」のことです。売上が小さければ保証料が小さく、売上が拡大していけば保証料も増えていきます。新規事業を始める企業とかに向いている《攻めの保証》と言えます。「限度」というのは「限度額課金方式」で、相対的には《守りの保証》といえるかもしれません。(以下、21-1Qというのは21年3月期1Qという意味で実際は20年6月。単位は百万円。)
 
 

- 売上 限度 個別 金融向け
21-1Q 118 292 130 26
21-2Q 145 346 138 35
21-3Q 152 399 147 26
21-4Q 134 417 155 39
22-1Q 118 443 155 33

 主力である「限度額課金方式」は、激しく伸びています。対前年同期比50%を超えています。素晴らしい。成長企業といっても、人員は限られているのですから、審査が甘かったりしたら、後で大きなしっぺ返しがきます(←贅沢な心配)。巡航速度を守ることが大切だと思います。これ以上の伸びを期待してはいけません。
 「個別」も「金融機関向け」も順調です。しかし、「売上高課金方式」は、伸び悩んでいます。これは、どちらかというと、景気拡大期向けのサービスと言えるかもしれません。
 
 で、最初に書いた「保証残高」ですが、これは例えば、平成21年6月末に、保証先が全てデフォルトになったときに、どれだけ代位弁済しなければならないか、という数字です。売上高課金方式の分については、毎月の売上高の報告を受けた後に保証債務として認識することになります。ですから、売上高課金方式の伸び悩みが、債務保証残高の伸び悩みの一因となっていることは間違いありません。しかし、それだけなら、前受金は伸びているはずです(前受金に滞留しているはずですから)。確認してみましょう。
 

- 前受金残高 売上高 前受金増加額
21-1Q 1,244 567 602
21-2Q 1,337 663 756
21-3Q 1,450 726 839
21-4Q 1,650 747 947
22-1Q 1,500 750 600

 顧客は、年度末に前受金1年分を支払うことが多いので、1Qは例年、少ないのです。それにしても、前年同期とほぼ同額とは少なすぎるのではないか。
 
 そうそう、営業CF(税引前)の状況です。数字が小さく影響がほとんどない科目は省略しました。以下は、金額が大きい科目だけです。「前受払金」とは「前受金」と「前払金」を合わせました(性質的に一体のものですから)。

- 未収入金 前受払金 営CF(税前)
21-1Q 26 57 186
21-2Q △73 59 152
21-3Q △22 178 326
21-4Q 86 117 333
22-1Q △115 △131 △110

 未収入金というのは、再委託先の保証履行について一時的に立替払い、スルーするだけの金で、けっこう変動は大きいですが、損益には直接関係しません(大きすぎると別の心配も出てきますが)。それを除けば収支トントンです。
 少しは安心しましたが、前受金のペースダウンは気になります。
 
 09.7.2付株式新聞によると「今も新規問い合わせが例年の倍以上のペースで増えている」との談。おかしいなあ、と思い当たりました。
 メディアやIRで取り上げられるのは、「中小企業からの問い合わせが増え続けている」みたいな片側のニュースばかり。もしかして、リスク引受先である再委託先(金融機関等)が増えていないのではないか。
 
 そこで、その仮定についてIRにメールで問い合わせてみました。(以下、原文そのまま)
 
 - - - - - - - - - - 
質問
新聞記事等によると、御社のサービスに対する新規問い合わせが増えているということで喜んでいます。しかし、顧客が増えても、再委託先も増えなければ、取引は成立しません。金融危機の影響でリスク商品に対する敬遠が起こっているのではないかと心配していますが、再委託先による受け入れ枠の推移は、どのような状況なのですか。

回答: 受け入れ枠の推移については非開示情報となりますが、リスク移転先の引受ニーズは現在でも高く、以前と同様、当社が引受けるリスク自体の拡大が課題となっております。

 私の予想は外れでした。顧客も再委託先も拡大しており、事業環境は心配がないと。
   上文では「御社」と書きましたが、こういうときは「貴社」と書くことを後で知りました(恥ずかしい)。それでは、もう一つ。
 「前受金」は、いずれ「売上」に振り替えられるものとばかり思い込んでいましたが、顧客の状況に変化があると返却もありうるわけです(保証対象の企業が倒れてしまったので、それ以降の保証が必要なくなったとか)。そのあたりの状況は、非常に気になります。

 - - - - - - - - - - 
質問
 今年度第1四半期の貸借対照表上の「前受金」は1,500百万円なので3か月前(前年度末)の1,650百万円より150百万円減少しています。
 しかし、売上に振り替えた分が750百万円ありますので、新規受け入れ分として600百万円となります。
 前年度第1四半期の同じ数字は602百万円でしたので、前年度同期とほぼ横ばいとなります。御社の業務上、顧客は1年更新の場合が多いので、これでは今四半期は、新規受け入れが、ほとんどないという計算になります。その認識でよいのでしょうか。それとも、受け入れは増えたが、売上に計上することなく顧客に返還するもの(倒産等による売掛予定金の消滅など)も多数出たということでしょうか。その理由は何でしょうか。

回答:  前受金は新規及び既存顧客による受入れ分を合計したものになります。
 当社は前期よりリスクポートフォリオの入れ替えを積極的にすすめており、結果として既存顧客の契約更改数が減少いたしました。
 新規契約につきましては、販売チャネルの拡大や、経済環境の不安定な状況から、問合せが大幅に増加しております。一方で引き続き審査力を強化し、優良なリスク引受けに努めております。

 主な理由として、新規顧客は増加したが、既存顧客の契約更改数が減少したということですか。「ただ、契約企業の取引先が倒産してしまうケースが増えると保証残高も減少する。顧客選別の重要度も高まっているため、前3月期に審査手法を改めた(前掲株式新聞記事)」とありました。

 いただいた回答に、「当社が引受けるリスク自体の拡大が課題」とありました。
 「今は引き受けられていないリスク」には、今の審査体制、審査基準によりもれてしまうリスク、だけではなく、処理能力のためもれてしまうリスクもありのかもしれません。限られた人員では、数の限定、顧客を選択せざるを得ない部分もあると思います。
 人員と言えば、従業員数が年度末には80人でしたが、この6月末には90人に増えています。最近のIRのあちこちで「リスクポートフォリオの優良化を着実に進めています」「大企業向け」「メガバンクからの紹介」みたいな表現がでてくる背景を想像してみました。しょうがないとします。

 次に、昨年の投稿時に、始まりかけていた、いわゆる「自己投資」について、見ていきます。
 イー・ギャランティの自己投資は、連結対象のクレジット・クリエイション1号合同会社でおこなっています。
 
 クレジット・クリエイション1号合同会社というのは、イー・ギャランティ(の匿名組合)4.1億円、伊藤忠3.9億円の合計8億円の出資で設立されました。
 以下は、伊藤忠のIRですが、

 クレジット・クリエイション1号合同会社のスキーム  イー・ギャランティは、顧客との保証契約やCDS契約により引き受けた信用リスクを伊藤忠キャピタル証券とCDS契約を締結することにより、伊藤忠キャピタル証券に移転します。伊藤忠キャピタル証券は自社でもCDS契約によるリスク引受けを行い、イー・ギャランティと同社が引受けた信用リスクをクレジット・クリエイション1号合同会社とCDS契約を行うことにより、クレジット・クリエイション1号合同会社にリスクを移転します。このクレジット・クリエイション1号合同会社は、TAKMAキャピタル株式会社(私の注;現在はITCインベストメントパートナーズ)と投資一任契約を締結し、TAKMAキャピタルがクレジット・クリエイション1号合同会社のCDS契約に係る投資判断等をいたします。今回のスキームでは、クレジット・クリエイション1号合同会社はリスク引受け残高ベースで200億円規模を目指します。  今回、TAKMAキャピタルの外部調査機関の企業評点をベースにした信用リスクの評価モデルとイー・ギャランティのこれまで行ってきた保証サービスで培ったノウハウを用いて、伊藤忠商事グループはCDS契約の引受けを行います。(国内中堅・中小企業の信用リスク流動化スキームの構築について(2008年6月27日)

   

 伊藤忠キャピタル証券は伊藤忠の100%子会社、ITCインベストメントパートナーズは伊藤忠の97.9%子会社です。
   クレジット・クリエイション1号合同会社の業務は、上記IRのとおりCDS契約によるリスク引受のみ限定されているそうです。
 もし、この合同会社が、大幅な損失を抱えて破綻したらどうなるでしょうか。イー・ギャランティの出資は有限責任ですから、出資者としての損失は出資額(現時点では4.1億円)を上回ることはありません。
 また、イー・ギャランティと合同会社の間には伊藤忠キャピタル証券が入るため、直接の取引はありません。そのため、合同会社の債務不履行は、まず、伊藤忠キャピタル証券に影響を与えます。そして、万が一、伊藤忠キャピタル証券が債務不履行をおこしたときに始めて、イー・ギャランティが損失を背負うことになります。
 従来のスキームでも、再委託先が債務不履行をおこしたならば、イー・ギャランティが損失を背負うことになっていました(再委託先は大手ばかりなので、その可能性は相当に低いと考えられます)。今回の合同会社のスキームも、自己投資と言いつつ、出資分以上の損失を負う可能性は、従来とあまり変わらない程度に低いと考えても良いと思います。

  では、始まったばかりとはいえ、この合同会社が儲かっているかどうかを見てみます。決算書の連結と個別を差し引いたらいいわけです。あるいは、貸借対照表の「少数株主」の額から類推します。今はマイナス、額はわずかですので気にするほどではありませんが、定期的にチェックする必要があります。

  ちなみに債務保証履行引当の推移は次のとおり。

 平成20年9月   72千円
 平成20年12月 1,449千円
 平成21年3月  5,027千円
 平成21年6月  12,542千円

   イー・ギャランティの有報に「投資組合出資をおこなう企業を広く募り」と書いてあります。つまり、合同会社の位置づけは自己投資という意味だけではなく、再委託先側を拡大していくために(というか「再委託」という形態では相手方も限定される)、それ自体を金融商品として売り込んでいきたいのだと思います。伊藤忠キャピタル証券やITCインベストメントパートナーズが絡んでいるのは、その意味もあるのでしょう。

   最後に、最近出たIRを。

  イー・ギャランティ、中小の売掛手形を流動化  売掛金保証サービスのイー・ギャランティは顧客の中堅・中小企業が持つ売掛手形を流動化するサービスを9月から始める。イー・ギャランティの保証が付いた売掛手形を提携するリース会社などに買い取ってもらう。買い取る側にとってはイー・ギャランティの保証があるため回収不能リスクがない。中小・中堅企業にとっては売掛手形を早期に現金化できる利点がある。  第1弾として東京センチュリーリースと提携する。同社はイー・ギャランティの保証が付いた中堅・中小企業の持つ売掛手形について、額面より3%程度割り引いて買い取る。売掛手形の支払期日になると、東京センチュリーリースは売掛手形の振出先から額面の金額を受け取る。振出先が経営破綻した場合はイー・ギャランティが保証する。(09.8.19日経新聞)

 約束された一定の料率で、いつでも手形買取が実行されるという点において、一種のコミットメントライン契約のような役割が期待できるスキームであります。  当スキームにより、当社はリスク回避を目的とした保証ではなく、新たに資金化を目的としたリスクファイナンスとしての保証を提供することができ、リスク資産の優良化を図ることが可能となります。また、お客様にとっては、必要な時にいつでも一定の料率で、かつ低コストで手形を資金化できるという利点があり、、他方、提携金融機関にとっては当社の保証がついた手形買取となるため、リスクを軽減できるという利点があります。(保証付手形買取ネットワーク構築に関するお知らせ

 昨今、金融機関の貸し渋りと言われながら、《信用保証協会の保証》が付くことで、金融機関は手のひらを返して満面の笑みで融資をしてくれることを思い出しました。
 
 まとめ。数字的には、気にはなるのですが、理由は納得できるものです。売上の伸びが、最低限、右肩上がりであれば、よしとします。
 再度、書きますが、今の体制で、もし、債務保証残高が前年度比100%アップとかになったら、私はむしろ質の低下が心配です。目先のことより、10年後の経常利益100億円に向けて、体制を整えていくことが大切です。それを考えると、リスクを抑えつつ、非常に良い展開だと思います。

  □ これまでの投稿 □

1回目 2007.9.13
2回目 2008.9.20

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コメント

ゆきをんさん

こんにちは。

毎度、詳細な財務分析大変参考になります。今回、保証額が減ったのは、再保証の委託先が見つからないわけではない(むしろ逆)という点と、自己出資引受分もリスクは再保障並に限定されているという点が特に、大変、参考になりました。

仰るとおり、この会社は保証残高を上げたいなら、リスクの許容ラインを下げる(成長性の代価に事業リスクは上昇する)だけですので、保証額の変動に一喜一憂するのは、あまり本質的でないと思います。私も『売上・利益』について、黄金律である年2割以上の成長は望みません(毎年2割成長でも10年後にはとんでもないことになります)。

むしろ、売上リスクのマーケットメイカーとして、今のように業務提携先を増やし窓口を広くすることにより、優良リスクを取捨選択して評価受託できる強固な土台を作り、販売(再委託)することを保守的過ぎるくらいにしっかりやって、財務的健全性と安定成長性をバランスよく併せ持つことが、成功の鍵だと思います。

私は、イーギャラは、生まれながらにして大企業になることが約束された稀有な会社だと思っています。

  tousizさん、こんにちわ。
 今のイー・ギャランティに注文を付けることは、ほとんどありませんが、
 強いていえば、キャッシュ保有が多いので、効率的な運用をお願いします、ということぐらいでしょうか。
 売上計上まで預かっているお金と考えれば、使いにくいのかもしれませんが。

煮え湯を飲まされました
この企業は、社会情勢がデフォルト懸念に染まると、自社防衛のためだけに『お宅の●●に対する債権の保証をしていますが、●●は倒産リスクがあるから保証料を返すのでもう保証はしません』ということを平気でやる企業です
しかも契約期間内に
更にその判断基準が債務者の信用度ではなく、保証残高の多寡によってです
信じられますか?自分勝手も良いところ!

リスクヘッジのために保証してもらってたのに、保証受託企業(イー・ギャランティ)が大いなるリスクを孕んでいるなんて本末転倒も良いところ!
こんな企業を信じたらいつ足元をすくわれるかわかりませんよ

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