イー・ギャランティ
2回めの投稿です。今週は、イー・ギャランティの大口再委託先であるAIGの破綻騒動があって、思ってもいないリスクを意識させられました。こういうことは、滅多に起こらないことと思いますが。最近の株価下落は、それ以外に何か悪いニュースを織り込んでいるのかなあと勘ぐってしまいます。
さて、今回はもう少し頻繁に起こりうるリスクを見ていきます。
この企業は、保証残高を積み上げていくというビジネスモデルのため、業績が安定的に伸びていくという利点があります。
保証残高の推移ですが。
平成19年3月 617億円
平成20年3月 778億円
平成20年6月 867億円
前期は、年間を通して26%増でしたが、今四半期は3か月で、既に11%増となっています。順調ですね。
ただ、これがイコール収益と直結するというわけではありません。保証残高に保証率を乗じたもの(マイナス再委託料など)が、収益なので、保証率の変化が、収益悪化要因にならないとも限りません。
決算短信のリスク欄には、
(1)当社の収益構造について
(略)しかしながら継続的に保証履行が多発するような景気悪化時には、顧客の保証に対するニーズも高まることから、経済情勢を踏まえ、顧客からの保証料に価格転嫁をしますが、価格転嫁が十分に進まない場合には、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。
という部分があります。
ということで、業務に流れが今ひとつわかっていないこともあり、保証率の変化に関わる部分につき、IRにメールで問い合わせてみました。(以下、原文そのまま)
問1 御社の業務の流れ(例えば、事業法人向け保証サービスの売掛金保証)は原則的に下記のような形で理解してよいですか。
1 顧客より申込み受付
↓
2 御社による分析
↓
3 分析結果を元に再委託先と再委託料【x%】交渉、交渉成立
↓
4 顧客に見積もり金額【x%+α】提示
↓
5 契約成立
答1 業務の流れとしては、1 再委託先からの保証枠の購入
↓
2 顧客より申込み受付
↓
3 当社による審査
↓
4 見積もり【x%+α】提示
↓
5 契約成立
↓
6 再委託先への再委託1において、先に原価に当る枠を購入します。(許容量100の保証枠を買うというイメージ)4において、100のうち10を使用することとし、使用する分だけを原価とし、その原価及びこれに【+α】したものを売上として計上しております。売上総利益率は概ね50%となるように顧客への価格提示を行っております。
その場合に、再委託先への支払保証料【x%】と顧客からの保証料【x%+α】との差額【+α】が、御社の収益部分だとして、御社のビジネスは累積型ですので、保証料総額が減ずる可能性は低いと思いますが、【+α】部分の低下が御社の業績悪化要因となるのではないかと思い、以下、質問させていただくものです。
問2 1件の顧客に対しては、原則的に1件の再委託先ですか。それとも、分散を図るために複数ですか。
答2 1件の顧客に対しては、分散を図るため複数の委託先に委託しております。
問3 再委託先探しは、複数の金融機関に対して、入札あるいは見積合わせの最安値提示等で決定していますか。それとも。こちらから、再委託金額を先に決定して提示していますか。
答3 問1でご説明いたしましたが、業務の流れとして、再委託先が決定してから、リスクの引受けを行っておりますので、原価は予め決定しております。
問4 顧客より申込み受付があったものの、再委託先が見つからないことが原因で契約が不成立となったものは、どの程度の割合で発生していますか。全案件の「1割以下」とか「5割以上」とか、おおまかな数字で結構です。
答4 これまでご説明させて頂きましたように、当社は再委託先が決定した状態で顧客からリスクを引き受けております。 リスクの引受けに当っては、当社内で一定の基準を設けて審査を行っており、基準を満たさない場合は、一切引受けを行わない、もしくは、基準を満たさないものでも、高額の保証料であれば引受けるという方法をとっております。 また、完全に当社の審査のみで委託できる再委託先もあり、再委託先が見つからないことによる契約不成立ということは基本的にはございません。
問5 契約更新は、(自動更新はあるとしても)1年ごとと考えてよいですか。それとも、複数年は保証料を変更しないというような契約もあるのですか。
答5 契約は基本的に自動更新で行っておりますが、保証料率や、保証対象先の見直しは毎年行っております。
問6 契約更新の際に、顧客あるいは再委託先の一方から、金額変更の申し出があり認めざるを得ない場合には、【+α】部分を変動(通常は減少)させることで対応していますか。それとも、その度に価格転嫁交渉をしていますか。どちらもありうる場合には、どちらが主か、教えてください。
答6 再委託先からは金額変更の申し出を受けるというよりは、年一回の契約時に毎年再委託料率が決定されますので、それに応じて顧客に対しての保証料率を上下させます。 従いまして、年一回の価格交渉の際に概ね50%の売上総利益率を確保すべく、価格転嫁を行うのが主という回答になろうかと存じます。
問7 顧客および再委託先から保証料変更の申し出がないのに関わらず。御社のほうから、【+α】部分を増幅させるような変動保証料変更を申し出ることはありますか(例えば、分析精度向上による再委託料の再計算など)。
答7 ご質問のようなケースとしましては、複数回にわたって事故を起すような顧客に対しては、料率を上げて対応いたしますので、+α部分は増幅することになります。
問8 再委託先との価格転嫁交渉不成立あるいは先方の都合により、再委託契約更新がなされなかった場合に、新たな再委託先を探すことになると思うのですが、見つからなかった場合には、顧客との契約は終了となるのですか。実際に、そのようなケースはしばしば発生していますか。
答8 再委託先がリスクを引受けられなくなれば、当社も顧客からリスクを引受けることは難しくなりますが、問4の回答にて申し上げたとおり、当社の審査で再委託できる再委託先もございます。 従いまして、再委託先が引受けを拒否した場合でも、社内審査の結果が引受け可能であれば引受けることができ、引受け不可であれば、顧客との契約の更改もできないということになります。
問9 御社ホームページ上の事業紹介のページに、「当社保証サービスは未回収リスクを保証するだけではなく、当社が保証対象である取引先の信用状況を常にモニタリングしていることから最新の情報を得ることもできます。」と書いてありますが、「モニタリング」とは具体的に、どのような行動をしているのですか。
答9 当社は約8年間にわたり集積された情報を持っておりますが、それに加えて常に新しい情報を入手しておりますので、ある企業に対する信用不安情報が入ってくれば、その企業と取引のある顧客に対して情報提供を行うといったことを保証サービスの一環として行っております。 従いまして「モニタリング」とは、顧客の保証対象先についての情報を入手し、当社のシステム上で管理することというご回答になろうかと存じます。
ありがとうございました。
大まかで、原価率50%は、キープできる仕組みのようです。事故(代位弁済)が増えるほど、リスクなしで収益が増えるというのがというのが良いですね。タイムラグのリスクは残ると思いますが、これ以上の突っ込み質問は、次回に回したいと思います。
ということで、前受金の推移を見ていきます。
前受金とは、顧客からの保証料収入は前受金という形で、12か月前払いで受け取っておき、毎月、売上に振り代わるのですね。ということは、前受金の推移を見ておけば、今後の売上高が予想できるというわけです。
ただ、前受金が、そっくり12か月以内に売上に振り代わるとは限りません。イー・ギャランティのサービスには、限度額課金方式と売上高課金方式があって、後者の場合には、12か月予測で前受金を受け取っておき、実績に応じて、毎月、収益としますので、前受金の振替終了が、12か月より早くなることも遅くなることもあります。
前年度の実績によりますと、
事業法人向け保証サービス
包括保証(売上高課金方式) 420百万円
包括保証(限度額課金方式) 901百万円
個別保証 513百万円
金融法人向け保証サービス 95百万円
という具合になっています。
- | 前受金残高 | 売上高 | 前受金増加額 |
19-4Q | 940 | - | - |
20-1Q | 842 | 433 | 335 |
20-2Q | 863 | 469 | 490 |
20-3Q | 978 | 497 | 612 |
20-4Q | 1,209 | 531 | 762 |
21-1Q | 1,244 | 567 | 602 |
上場前の資料がない部分もあります。単位は百万円です。
21年1Qは、一見、前四半期に比べて、前受金の増加の勢いが落ちているように見えますが、業務上、季節性があるので、比較するのなら、対前年同期比がふさわしいと思います。
で、21年1Qを20年1Qと比較しますと、前受金増加率は80%増加となっています。かなり、順調でいいと思います。
では、ROEを分解してみます。
ROEは、売上高純利益率 x 総資産回転率 x 財務レバレッジ、です。
下記式の、
第1項の売上高純利益率は、純利益/売上高、
第2項の総資産回転率は、売上高/総資産、
第3項の財務レバレッジは、総資産/株主持分、
3つを掛け合わせて、分子と分母を消していくと、純利益/株主持分、すなわち、ROEになります。ちなみに、貸借対照表上の数字は、当年度と前年度の数字を足して2で割っていますので、四季報とかの数字とは異なります。上場が最近なので、2年分です。
19.3期=11.6% x 0.67回 x 1.76倍 = ROE13.7%
20.3期=9.6% x 0.69回 x 1.87倍 = ROE12.4%
意外に低いですね。19.3期は法人税をほとんど支払っていないので、利益率はさらに4割引ぐらいが実力です。
利益率についてですが、原価は、上述インタビューのとおり、5割ぐらいで今後も推移しそう。で、販管費比率(対売上)ですが、
18.3 34.2%(28名〜従業員)
19.3 35.6%(42名)
20.3 36.8%(64名)
21.3 35.4%(?名) ←会社予想
人員採用の拡大を考えると、いい数字ではないでしょうか。この辺が落ち着いてくると、利益率は向上すると思います。が、それでも、もともと固定経費が少ないので、損益計算書上の頑張りだけでは、ROEの20%超えは、遠いです。
まあ、わたし的には、ROE15%ぐらいは超えていないと、投資対象としたくないのですが.....。
一番の原因は、第2項の回転率です。固定資産も必要でないし、商品在庫もいらないし、売掛金もほとんどない、もっと高回転が可能なはずです。理由は、現金の滞留し過ぎです。1Qについていえば、総資産31億円のうち、現金預金が22億円、国債5億円。前受金の12億円、年間の販管費7億円、と数字を並べてみると、やっぱり多すぎです。
時価総額26億円ですから自社株買いでもすれば、非常に株主還元になりますが。
そうそう、順序が逆で最後になりましたが、決算短信上の「目標とする経営指標」です。
(略)したがって目標とする経営指標の第一に保証残高を掲げ、次に顧客の拡大に伴う売上総利益の拡大に努めていく所存です。
とにかく、規模拡大ということですね。利益率とか、そういったものは、後から考えると。置かれた状況を考えると、それでいいと思います。新事業も始まったことですし、収益構造もかなり変わるかもしれません。
その新事業。サブプライム問題の盛り上がりにより最近、マスコミなどでも注目を浴びつつあるクレジット・デフォルト・スワップですが、イー・ギャランティは、この7月から取扱を開始しました。興味深いところですが、もう少し勉強しなければ。
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