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2008.08.07

PBRとパフォーマンス

今回は簡単な算数の問題です。単なる計算結果ですので、割安重視派であろうが成長重視派であろうが、誰が計算しても結果は同じになります。

 PERは、何かと興味深い指標です。一言で言うと「市場の評価」だと思います。今どき、クリック一つでスクリーニングできる時代なのに、「PERが低いのは市場から忘れられているからにすぎない」などと仰る投資家はいないと思いますが、市場から忘れられている、というのも一つの評価でしょう。そのPERが同一水準の銘柄どうしであれば、市場の評価も同じようなものどうし、という見方もできると思います。
 その「市場の評価」を同じ条件にして、もう一つの割安性指標であるPBRの異なる銘柄どうしのパフォーマンスを比較してみようと考えました。
 まず、次の問題を解いてください。

【問題】

 2つの銘柄があります。

 資産割高株A(PBR 5.0)と資産割安株B(PBR 0.5)です。両方とも、PER 10とし、以上の条件が10年間変わらないとします。仮に、両方とも、当初の株価が1,000円とすると、10年後の株価はいくらになるでしょうか?

 なお、計算を簡単にするために、配当はゼロ、PBR等の計算上の「純資産」は年度初めの数字を使うとします。増資とかの臨時要因は、なしとします。

【回答】

 PERとかPBRとは、株式投資の初歩知識ですので、ほとんどの人は簡単に答えが出せると思います。そうでない人は、これを機会に覚えてはどうでしょうか。

 10年後の株価は、実績PER10で計算すると、

資産割高株Aは、38,443円
資産割安株Bは、1,551円

 資産割高株Aは、資産割安株Bに比べて25倍のパフォーマンスでした。机上の計算にすぎませんから、誰が計算しても結果は同じになります。

【結論】

 PER等の条件が一緒の場合に、PBRが高い銘柄ほど株価パフォーマンスが期待できるという公式が導かれます。

 私は、PBRは銘柄選択の要因には、ほとんどなりません。定性要因が大切ですから、こんなものは数字遊びにすぎません。ですから、高PBR株を推奨しているわけではありません。ただ、何故か、定性的要因を軽視して、「数字重視だ」と低PBR銘柄を選択する人が多いので、あえて数字で表現してみました。

【解説】

PBR=株価 / 純資産(資本)
PER=株価 / 利益
ROE=利益 / 純資産(資本)
ですので、

PBR = PER x ROE です。

 PERが一定とすると、PBRが上昇しただけROEは上昇します。完全に正比例の関係です。ROEは、株式市況や市場の評価と関連しない企業の「頑張り指数」ですが、ROEが下がれば、PBRも低くなります。
 資産割高株AのPBRは5.0ですから、PERの10で割ると、ROEは50%。同様に、資産割安株BはPBR0.5をPER10で割り、ROE5%。

 スタート時点の株価は、1,000円ですから、A、BともにPER10なので利益は、100円。純資産は、Aが200円でBが2,000円となります。

 これに、ROEを乗じると、配当ゼロですから、1年後の純資産は、Aが300円でBが2,100円となります。2年目の利益は、Aが150円でBが105円。3年目の利益は、Aが225円でBが110円。このように10年間分を計算すると、10年後の利益は、Aが3,844円でBが155円となりますので、PER10を乗じると、上記の答えとなります。

 どう考えても、PER等の条件が一緒の場合に、PBRが高い銘柄(この場合は資産割高株A)を買ったほうがいいと思います。低PBR株を好んで集めている投資家がいますが、ちょっと理解できません。私は、ときどき、エクセルにいろんな指標を入れて、将来の株価とか計算したりしますが、こういうことを普通にしていれば、当然に、この程度のことは体感的にわかるはずです。低PBR株コレクターは、この程度のシュミレーションもしていないのでしょうか。

 おそらく、低PBR株コレクターは、企業を「モノ」としか見ていないのです。ですから、モノは安く手に入るほうがいいという感覚なのだと思います。しかし、私にとって大切なのは、そこから生まれる「収益」です。

 しかし、例えば、料理店の価値は、料理器具や食材などモノの総和でしょうか。いいえ、料理人の腕次第で良くも悪くもなります。投資の観点から言えば、「安い食材で高い料理」を出して収益を上げる料理店が良いのであって、「高い食材で高い料理」は当たり前。「高い食材なのに収益が上げられない」なんて、悪しき料理店でしかありません。「高い食材を保有している」から良い料理店なのでしょうか。いや、良い料理店かどうかなんて興味がないのでしょう。「この店を取り壊して土地を売却すれば金になるぞ」みたいな解散価値しか興味がないのです。低PBR株が急騰することがありますが、そのほとんどは、ハゲタカが現れるなどして、経営陣を刷新するとか、そういう動きが表面化し、収益向上期待が出てきた場合です。へたくそな料理人が、良い料理人に交代するのであれば、私も投資を考えます。そうでなければ、好き好んで、へたくそな料理人の店ばかりを収集するのは、いったい、どんな投資法なんだろうと思います。

 悪口ばかり書いてきましたので、最後に、低PBR株投資の魅力について書きます(笑)。
 
 以下は、鈴木一之氏の「有望株の選び方」より抜粋。

 

 PBRを使ったバリュー株投資では、投資対象に値する銘柄を選ぶ際に1つだけ裏技とも呼ぶことのできる独特の視点があります。その企業がかつて華々しく輝いた時代を持っている優良企業,名門企業であるという条件です。(略)
 若者の憧れの的で就職希望者が大挙して押し寄せていた名門企業。それが大企業病に冒され社内が硬直化して、今や産業構造の変化に取り残されて業容が大きく傾いてしまった会社。投資家からも見放され見る影もなく埋もれてしまった会社。そういう企業であればあるほど、ひとたび立て直しを決意した時の逆境バネがより強く働きます。
 このような企業には、かつての黄金時代に築いたブランドや信用力が有形無形の財産として備わっています。技術の蓄積は申し分なく、くすぶってはいますが、社員の中には優秀な人材が多くそろっています。復活を熱望している根強いファン(ユーザー)も数多くいるはずです。そのような会社が往年の成功体験やプライドをかなぐり捨てて、人員整理、工場閉鎖などの生産規模の縮小を断行し、経営のプロセスを抜本的に変えてまで業容の立て直しを図ると決意したとします。社員の中でも「これが成功しないと明日はない」という危機感が広がっているため、それが改革のスピードをさらに加速させます。(P138)

 
 いわゆるターンアラウンド投資です。
 前回の投稿「続々・少数派のススメ」でも書きましたが、これこそ投資の醍醐味だと思います。
 
 
 
 □ 過去のバリュー投資至上主義批判シリーズ □
 資産バリュー(のみ)株
 負債の多い割安株
 不動産転売屋の財務諸表
 銘柄をみる流れ
 売切り型ビジネス、累積型ビジネス
 バリュー投資至上主義を批判する
 低PER相場に慣れっこに

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コメント

大変勉強になり、ありがとうございます。
資産ではなく事業を割安な価格で買うということですね。

 Uesugiさん、こんにちわ。
 上記の文章は、けっしてPBRの意義を否定しているわけではないのですが、(しているか)。
 まあ、企業をモノとしてみるのは抵抗ありますね。

バリュー投資に警鐘を鳴らす記事を見つけました。
わたしも最近バリュー投資の勉強を始めましたが、勉強すれば勉強するほど、投資の難しさを感じました。
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カリスマ運用者の挫折=ニューヨーク・伴百江(08/8/8)

 米資産運用業界のカリスマとして君臨してきたレッグ・メイソン社のビル・ミラー氏(53)が窮地に陥っている。ミラー氏の持ち味は、企業の収益力や財務内容に比べて株価が割安な銘柄を発掘し、長期保有で利益を狙う「バリュー投資」。1990年から2005年まで15年続けてS&P500種株価指数のパフォーマンスを上回ったことで知られるが、06年以降の成績は急激に悪化している。
 同氏が運用する「レッグ・メイソン・バリュー・プリム」の昨年1年間の総収益率はマイナス6.7%。今年はさらに悪化し、年初から7月末までにマイナス29.3%に落ち込んだ。これはS&P500を16.6ポイント下回っている。米投信調査会社モーニング・スターによると、バリュー投資をうたった株式投信の中で最悪の成績となった。投資家の資金流出も加速し、昨年末に170億ドルだった運用資産は、6月末には97億ドルに減少した。
 カリスマに何が起こったのか。モーニング・スターのアナリスト、グレッグ・カールソン氏はミラー氏が運用戦略で4つの過ちをおかしたと分析する。
 (1)「金融機関が直面する問題を軽視」
 3月末時点で、金融株が資産全体の22%を占める。保有額の多い10銘柄のうち、フレディマックは年初から8月7日までに82.3%も下げた。ほかにもアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)、シティグループ、メリルリンチなど、サブプライム危機の打撃を受けて急落した銘柄を保有している。
 (2)「住宅バブル崩壊を軽視」
 05年に住宅建設株が大きく下落した後で買いを入れたが、裏目に出た。その後も株価は回復せず、むしろサブプライム危機で下落は加速した。
 (3)「エネルギー株を敬遠」
 同ファンドは設立以来、ほとんどエネルギー株に投資してこなかった。原油が高騰を始めた後もその戦略を転換していない。
 (4)「少数銘柄に投資資金が集中」
 同ファンドの保有銘柄数は36。運用額が90億ドルを超える大型ファンドにしては分散度が低い。保有銘柄上位25社のうち、年初から3月末までに株価騰落率がプラスになったのはIBMだけだ。
 ミラー氏は90年代から金融、ハイテク、小売株などを好む一方、原油や銅などの商品関連銘柄を敬遠しがちだった。これは今も変わらない。「低インフレ下の90年代にはそれが奏功したが、今や足を引っ張っている」とモーニング・スターのアナリスト、ラッセル・キネル氏は解説する。同氏は、皮肉を込めてミラー氏を「信念の人」と呼んでいる。
 この1~2年、運用不振に苦しむバリュー投資のファンドマネジャーはミラー氏だけではない。米投信調査会社リッパーによると、年初から7月末までの大型バリュー株ファンドの平均収益率はマイナス14%。株式投信全体(マイナス11.6%)より悪かった。
 「バリュー投資家たちは嘆いています。今の相場はニュースの見出しにばかり反応して、バリュエーションは意味をなさなくなった、と」。ミラー氏は7月末、顧客にあてた書簡でこう訴えた。バリュー投資家は自分たちを「バリュー投資支持グループ」と呼んで、同情しあっているという。その中には元祖カリスマ投資家のウォーレン・バフェット氏も含まれている。バフェット氏は「今の試練を乗り越えるのには時間がかかるかもしれないが、株価がもっと下がればもっと値ごろ感が出てくる」と仲間を励ましたという。
 しかし逆風下で、ミラー氏の信念も揺らいでいるようだ。「金融株は歴史的な割安圏で買い場なのか、それとも不良資産償却は来年まで続くのか。エネルギー株は上がり過ぎなのか、最近の価格反落は一時的な調整なのか。コンセンサスがつかみづらい状況」と書簡で認めている。
 現実は厳しい。ミラー氏のおかげで高い運用収益を享受してきた投資家も、成績が悪化すると愛想を尽かす。マサチューセッツ州年金基金は今月6日、ミラー氏が所属するレッグ・メイソンへの運用委託を打ち切った。約6億ドルが引き揚げられるという。

 文章から、このファンドの説明によると、長期保有であって、1990年から2005年まで15年続けてS&P500種株価指数のパフォーマンスを上回っていながら、06年、07年の2年間の成績で酷評されるなんて可哀想です。
 運用者からすれば、「俺の評価は、2日間でもなく、2か月間でもなく、2年間でもない。20年で評価してくれ」と言いたいでしょうね。
 しかし、他人のお金を運用するなんてものは、そういう厳しい世界なんだと思います。

 その点、個人の運用では、投資の目的、目標、期待するリターンと許容するリスク、に沿ってすればいいだけですから、気が楽です。あれこれ惑わされないことだと思います。
 「就職したい企業の株を買え」と良く言われますが、あれこれ惑う人は、就職してからも、「この会社で良かったんだろうか」と何回も転職を繰り返すような人に似ていると思います。

 ちなみに、過去の投稿を読んでいただければわかりますが、私自身は、《バリュー投資批判派》のほうです。

私は株投資の経験がまだ少なくて、理解が正しいかどうかわからないのですが、株投資のタイプは大きく以下の二つに分けます。

1)テクニカル分析:株価チャートとニュース・うわさに注目し、チャートの動きを予測する。企業価値に関心はない。
デイトレイはこのタイプの代表的なやり方。

2)バリュー投資:企業価値の分析に注力、マーケットに過小評価された株を買う。株価チャートの短期予測をしない。
資本価値の割安株を狙うのはバリュー投資のひとつですが、事業価値の割安株と将来大きく成長できる成長株なども立派なバリュー投資だと思う。

ユキオさんは企業分析についてすばらしい知見をもって、立派なバリュー投資家と思います。バリュー投資批判派というよりも、企業価値を正しく評価できないやり方を批判しているのではありませんか。

 一般的には、Uesugiさんの書かれた投資法は、ファンダメンタル投資と呼ばれることが多く、バリュー投資は、もっと狭義の意味で使われることが多いと思いますが、まあ、広義では、Uesugiさんの言われるとおりだと思います。
 私自身、素人投資家にすぎませんが、お互い頑張りましょう。

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