シンプレクス・テクノロジー
4回めの投稿です。一昨年秋に発表された第2次中期計画で、3年間は成長を抑制して新規事業立ち上げを図る、としたシンプレクス・テクノロジーでしたが、その後の経過は、
順調ですね。特に新規事業の立ち上げに成功しました(と言えると思います)。
まず、第二次中期事業計画を振り返ります。
(07年3月期)→(12年3月期)
安定収益売上比率 25.5% → 42%
売上高営業利益率 23.9% → 30%
エンジニア体制 280人 → 650人
営業利益 16.1億 → 50億
上記の安定収益とは、後述する累積型ビジネスのことです。
前半の10年3月期までは売上高100〜120億円、営業利益25〜30億円、売上高営業利益率24%が目標値。その後、収穫期に入り、12年3月期には売上高150億円〜200億円。営業利益50〜60億円。営業利益率30%となる予定です。
で、その後、前半3年計画の1年目の決算が終わったところですが、売上高の推移(カッコ内は売上総利益率)です。単位は百万円です。
- | 06.3 | 07.3 | 08.3 |
SIインテグ | 2,920(37%) | 4,013(36%) | 4,686(47%) |
保守 | 844(59%) | 1,101(49%) | 1,283(60%) |
UMS導入 | 332(40%) | 491(40%) | 342(-8%) |
UMSサービス | 209(41%) | 623(58%) | 1,119(56%) |
その他 | 459(10%) | 512(13%) | 696(13%) |
総計 | 4,765(39%) | 6,742(39%) | 8,128(45%) |
SIが元来の事業、UMSが新規事業ですが、そのうちSIインテグレーション事業とUMS導入事業が《売切り型ビジネス》、保守事業とUMSサービス事業が《累積型事業》ということになるかと思います。(拙稿「売切り型ビジネス、累積型ビジネス」参照)で、注目すべきは、累積型ビジネスの伸びと利益率の高さです。良いです。UMS導入事業が落ち込んだ数字ですが、これは研究開発色の強い案件を戦略的に受注したためだそうです。
UMS(サービス)月額売上高の推移は、
07.3 0.7億円/月
07.9 0.9億円弱/月
08.3 1.1億円弱/月
09.3 1.8億円/月(予定〜08.5時点の契約済案件から計上)
さらに、努力目標として、2億円/月を目指すということです。もっとも、半年前の資料の努力目標は、今期、全然達成できていませんので、まあ、文字通り努力目標だと受け止めておきます。
で、08.3期の全体の決算ですが、
売上高が、81億円会社予想に対して81.2億円(前年比20.6%UP)
経常利益が、18.5億円予想に対して20.7億円(前年比28.9%UP)
新規事業へ経営資源を振り向けるため受注をコントロールするとのことでしたので、売上高は予想どおりなのですが、経常利益は2億円も上積みされています。一部に費用から資産への振替(20.3期の売上原価から無形固定資産への振替が50百万円)という会計的要因もありましたが総じて予算のコントロールができており、更に経費削減できたということなんでしょう(私の決算ウオッチ経験からですが、ソフト会社の場合、結構、不採算案件とかが出てきたりして、予算コントロールがうまくいかないケースが多いんですよね)。
で、次の表は、注目すべきをピックアップしてみました。
- | 06.3 | 07.3 | 08.3 |
給与賞与手当 | 209 | 280 | 349 |
採用教育費 | 49 | 57 | 150 |
研究開発費 | 63 | 137 | 364 |
従業員数 | 144 | 160 | 192 |
一人当り経常利益 | 7.9 | 10.1 | 10.8 |
ソフト企業の場合、研究開発費は将来費用の前倒しに他ならないわけですが、先行投資である人への投資も、ばっちり金をかけています。そのうえでの経費削減効果です。
では、ROEを分解してみます。
ROEは、売上高純利益率 x 総資産回転率 x 財務レバレッジ、です。
下記式の、
第1項の売上高純利益率は、純利益/売上高、
第2項の総資産回転率は、売上高/総資産、
第3項の財務レバレッジは、総資産/株主持分、
ちなみに、貸借対照表上の数字は、当年度と前年度の数字を足して2で割っていますので、四季報とかの数字とは異なります。
18.3期=11.1% x 1.38回 x 1.45倍 = ROE28.2%
19.3期=13.6% x 1.36回 x 1.64倍 = ROE30.3%
20.3期=15.1% x 1.21回 x 1.78倍 = ROE32.5%
現在はUMS事業立ち上げのため、受注を抑制し、研究開発コストをかけているという位置づけなんです。素晴らしい数字です。
第1項の利益率が高まっているのは、累積型ビジネスの比率が高まっていることに加えて、第2回の投稿で書いたシンプレクス・ライブラリーの効果もあるのでしょうね。
第2項の回転率が少しですが落ちているのは、第3項の財務レバレッジが高まっているのと対になっています。UMSサービス事業のために前受金などが負債に計上され総資産額が増えたほか、なぜか、フリーキャッシュフローは黒字なのに、長期借入金が3億円も増えていたりするのです。これは、ちょっと疑問です。一方で、前年度は自己株式購入を5.8億円していますが(さらに、今年度に入ってからも10.9億円の自己株買いをしています)。
しかし、総資産回転率とは、有限な経営資源を、どれだけ早く循環して使っているか、という指標だと思いますが、そもそも、ソフトウエアというのは有限ではないと思うのです。シンプレクス・ライブラリーなんか、何度でも使えるわけですし。UMS事業なんか、さらに、そうです。ジャストプランニングもそうなんですが、ソフトウエアのレンタルで利益を生み出すなんて、回転率が上がりやすい構造であるとは思います。
そうそう、ソフト企業の場合には、経費が損益計算書に移ることなく貸借対照表に残っている場合がありますので、キャッシュフローは要チェックでした。
- | 06.3 | 07.3 | 08.3 |
営業CF | 766 | 1,546 | 2,003 |
投資CF | △175 | △1,371 | △1,089 |
投資CFが増えているときは、投資有価証券取得(ビジネスブレイン太田昭和とか、マネーパートナーズの株も少しですが持っています。)が大きいです。
ところで、126百万円のソフトウエア資産。小さくて良いです。貸借対照表の《資産》は、将来の《費用》のことです。資産が少なければ、将来の費用も少ないのです(拙稿「損益と営業循環」参照)。問題なさそうです。
では、ここからは今後の見通しについて見てみます。これに関連して、決算説明会での質疑応答から抜粋します。
事業展開上のリスクに関する質問?Q3.
事業展開上のリスクとして把握している事項について教えてください。A3.
エンジニアリソースの枯渇を最大の経営課題として捉えています。当社では金融とITに精通した質の高いエンジニアが少数精鋭でプロジェクトを進行しています。こうした高い稼動率体制が利益率を押し上げている大きな要因である一方、大型案件受注が好調の中におけるエンジニアリソースの確保は最重要戦略の一つです。
こうしたエンジニアリソースの問題を踏まえ、さらなる成長を支える新戦略こそが、当社が今後注力していくUMS事業なのです。
(略)Q5.
エンジニアリソースの確保を目的としたM&Aは検討しているのでしょうか。A5.
近年活況なソフトウェア業界では、各社とも多くの引き合いを背景として業績を伸ばしています。そのため、ここ数年間は業界全体においてエンジニアリソースが逼迫するという状況が続いており、しばらくはこうした状況が続くものとみております。
ただし今後数年のうちには、金融再編に伴うシステム開発が一段落することなどを受けて、業界全体の業績が低迷する局面がくるものと当社では捉えています。当社ではそうした局面を人材確保のチャンスと捉え、中途採用をはじめとして、質の高い人材の確保を目的としたM&Aを積極的に検討していく見通しです。
(5/14 2008年3月期アナリスト・機関投資家向け決算説明会 )
ふむふむ、将来のM&Aに備えるのならば、内部留保が積み重なっていても仕方がないですね(実際は積み重なっているとは言えませんが)。もしかして、情報企画も、将来のM&A狙いの内部留保では?
ともかく、日本の金融機関は、ディーリングシステムなどフロントへの投資が欧米より貧弱で、需要はまだまだありそうとのことなんですが、だとしても、システム投資というのは波があるわけです。シンプレクスもSI事業がまだ6割を占めていますから、増収増益が永遠に続くということは、ありえないわけで、落ち込んだときにどうするか。「当社ではそうした局面を人材確保のチャンスと捉え」さらに、次の需要拡大局面へつなげることができる企業なら、頼もしいです。業界が落ち込んだときには、連れて株価は低迷するとは思いますが。
さて、21.3期ですが、
売上高105億円(前年比29.2%UP)、経常利益が25億円(前年比20.5%UP)の予定です。サブプライム問題の影響で、金融機関のシステム投資が減退するとの見方もあります。期初時点での受注残高から見た予算達成率は53.4%で、昨年度の48.1%を上回っていますが、受注残高には、少しだけ注意しておく必要があるかもしれません。また、大型案件の大証FXシステムは、今年度の売上となるか、来年度となるか微妙です。
少し長いですけど、企業紹介もかねていますので、同案件のプレスリリースを紹介します。
1.受注の背景 現在、外国為替証拠金取引の取引量は、個人投資家を中心として増加を続けており、今後も更に拡大していくことが予想されています。一方で、価格決定プロセスにおいて高い透明性を有し、取引相手の信用リスクを排除することのできる公設の取引所に、外国為替証拠金取引を上場させることを求める機運が高まりをみせています。加えて、2007年9月に施行された金融商品取引法により、証券取引所において証券以外の金融商品の取扱いも可能となりました。 このような状況の下、大阪証券取引所では、裾野の広い投資家に外国為替商品に関する投資手段・ヘッジ手段の新たな選択肢を提供することで、投資家の利便性を向上させることを目的として、取引所外国為替証拠金取引市場の創設を決定しました。 シンプレクスは、金融機関の収益業務をサポートするシステム開発およびサービス業務を通して、為替を含むほぼすべての金融商品に対応したシステム・ソリューションを大手金融機関中心に提供しています。 シンプレクスは、2002 年から外国為替証拠金取引システム・ソリューションを金融機関に向けて提供しており、コスモ証券、スター為替、大和証券、ひまわり証券、マネーパートナーズ、ユニマット山丸証券など、業界大手の外国為替証拠金取引業者(以下:FX 業者)を中心に、相対取引(OTC)(*3)システム、及び「くりっく 365」(*4)に対応した取引システムを提供しています。今回、こうしたシンプレクスの豊富な導入実績と高い技術力が大阪証券取引所に評価され、当該案件の受注内定に至りました。 また、シンプレクスでは、コンサルティングから、システム開発、運用・保守まで、すべて自社内で担当しています。そのため、すべてのフェーズにおいて機動性の高いサポート体制を実現できることに加え、システム稼動後も、シンプレクスが24 時間/365 日体制でシステムの安定稼動をサポートすることで、大阪証券取引所のシステム保守負担を軽減する点が高く評価されました。UMS導入事業からUMSサービス事業に引き継がれますので、これは、末永く安定収益となりそうですね。
ここからは余談モードですけど、
私は、FXは良く知らなかったのですが、円高円安を予想するゲームと思っていました。しかし、橘玲氏の「黄金の扉を開ける賢者の海外投資術」によると、むしろ、円ドル金利差に更にレバレッジを掛けるという使い方が人気なのですね。
さらに、橘氏の著書には、いつも眼から鱗がぽろぽろなのですが、《大富豪は勤労収入がないので、債権と株式に2分(大富豪は初めから莫大な不動産資産を持っている)したポートフォリオで良いが、サラリーマンは勤労収入がある。500万円のサラリーがあるのなら、1億円の債権(5%金利)と考えることができる。だから、レバレッジを掛けて1億円の海外株式を所有することが適性配分である》
との主張には、びっくりしました。納得しかねるところもないではないですが、わかります。確かに、住宅ローン(高いレバレッジ)でマイホームを買った人が更にREITを所有するなんてバランスが悪いですよね。
□ これまでの投稿 □
1回目 2006.8.18
2回目 2006.11.17
3回目 2007.01.06
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