それぞれの売買戦略
よく、《割安株》投資が《成長株》投資に勝っている根拠として、全体の株をそれぞれにグループ化し、平均パフォーマンスを比較するという説明がなされます。それが割安株投資優位の根拠とされることが多いですが、結果には意外です。単に思い込みの主観と「客観的データ」が食い違うからではありません。
よく、年末に年間最高パフォーマンス銘柄ベスト30とかを見て、「ああ、これを買っておけば良かったなあ」なんて感慨に耽りますが、そこに登場する銘柄は、成長株ばかりです。「個別に見た客観的データ」と「集合で見た客観的データ」が異なるのです。理由は簡単。ずっと下のほう、年間最悪パフォーマンス銘柄ベスト30には、負け組の成長期待株銘柄がずらっと並んでいます。
上のほうから下のほうまでずらっと並んでいる成長株の平均と、中ぐらいでまとまっている割安株の平均を比べても、あまり意味がないのではないでしょうか。さらに、売買戦略が異なるものを同一に比較できません。
ですから、以下、《割安成熟株》投資と《成長株》投資のどちらが優位などと論ずるつもりはありません。売買戦略という面から、《割安成熟株》と《成長株》の違いを考えてみます。大雑把な話しですので、イメージとしてとらえてください。
《割安成熟株》というのは、業績がそれなりに安定しています。ですから、極端な負け組や極端な勝ち組は生まれません。そのため、ベストの戦略は、《分散リバランス型》かもしれません。
具体的な例として、東京電力と関西電力の2つからなるポートフォリオを想定します(わかりやすくするため2つにしただけで、実際にはもっと多いほうがいいと思います)。
東京電力50:関西電力50
ここから、東京電力の株価が上昇し、関西電力が下落したとします。バランスが崩れます。
東京電力60:関西電力40
ここで、必要なのはリバランス。つまり、東京電力を10売り、関西電力を10買います。その結果。
東京電力50:関西電力50
このように、バランスを維持していくことが、最適戦略です。ドルコスト法なんかも、こうした考えに基づいていますね。
テクニカル的に言うと、平均線より下がったものを買え、ですかね。一方、《成長株》の売買戦略は異なります。正反対です。上に突き抜けたものを買え、なんでしょうか(テクニカルのことはあまり知りません。こんな単純なものではないと思いますが)。成長株といっても、業界事情はいろいろと思いますので、以下は、モンキー型ではなく、ゴリラ型を想定して書きます。
成長株投資においては、負け組は下手すれば倒産です。勝ち組は、うまくいけば、90年代のインテル、シスコ、マイクロソフトのように何十倍、何百倍ものパフォーマンスをたたき出します。これを平均化すれば馬鹿馬鹿しいですから、負け組が負けとわかった時点で、勝ち組に乗り換えるのです。
「大不況に勝つ」の中で、著者の松川行雄氏は、それが株式投資の「勝利の方程式」であるとしています。松川氏は、クラウゼヴィッツの「戦争論」を持ち出してきます。プロシアの将校クラウゼヴィッツは、かつてのフランス皇帝ナポレオンが、何故、あれほど強かったのかを徹底的に分析した結果、結論を出します。それは、小さな負けは重ねても良い、勝てるところで徹底的に圧勝する、ということです。具体的に書きます。
左戦線、中央戦線、右戦線、の3局面で戦っているとします。
今のところ、左戦線は戦況不利、中央戦線は互角、右戦線は有利とします。どこに、追加兵力を注ぎ込むべきでしょうか。クラウゼヴィッツは、有利に戦いを進めている右戦線だとします。さらに、手薄な左戦線、中央戦線から、さらに兵力を割くべきだとします。そして、
【兵力の集中】→【一点完全突破】→【各個撃破】。これが、勝利の方程式であるとしています。
この本で書かれていることは面白いなと思いましたが(全面的に賛同しているわけではないです)、私は、経済戦争は国民国家間戦争というより、戦国時代に似ていると思います。多くの弱小日和見集団がいて、勝ち組になりそうな企業に擦り寄ってくるので、勝ち組は、どんどん強くなっていきます。
これを、例えば、架空の会社、ブルーレイ社 vs HD DVD社(架空の企業名にすぎません。仮にブルーレイ社が最終的に勝ち組とします)で書いてみれば、次のとおりになります。まず、どちらが勝つのかわからないので、同じような分量を買ってみます。
ブルーレイ社50:HD DVD社50
しかし、次第にブルーレイ社が勝ち組であることが明らかになってきます。もちろん、株価にも現れてきます。
ブルーレイ社60:HD DVD社40
ここで、HD DVD社を買って、リバランスするべきでしょうか。否。HD DVD社の株価は長期下落をたどるはずです。ですから、HD DVD社を叩き売り、全部をブルーレイ社に乗り換えるのが、正しい戦略というわけです。
ブルーレイ社100:HD DVD社0
これが、勝ち組に乗れ、です。
つまり、《割安成熟株》と《成長株》では、売買戦略が正反対なのです。成長株投資では、平均リバランス戦略は、「死への道」だからです。
ちなみに、分散ポートフォリオがダメだとか1銘柄集中せよといっているのではありません。自分の判断が間違っている可能性は常にあるので、分散ポートフォリオは絶対に必要だと思います。投資法のイメージの話しです。
しかし、この投資法は、いつ、勝ち組と負け組が入れ替わるかわからない《モンキー株》には向いていません。いったん勝ち組となれば、長く君臨できる《ゴリラ株》にこそ向いた投資法です(拙稿「ゴリラとチンプとモンキー」参照)。
ゴリラ企業の長寿の理由は、拙稿「ゴリラ企業の破壊力」に書いたとおりですが、市場そのものが、ゴリラ企業を標準として秩序が作り上げられていくために、誰もがゴリラ企業の衰退を望まないことです。ブルーレイ社を標準として受け入れたからこそ、市場の発展が見込まれるのに、今から混乱が蒸し返されることなど、誰も望みません。
「ゴリラゲーム〜株式投資の黄金律」では、
ゴリラ候補から脱落した企業の株を売って手に入れた資金は、ゴリラ候補として勝ち残っている企業に直ちに再投資する。
さらに、
ゴリラは長期保有し、交代の脅威が現実のものになるまでは、決して売らない。
と、書いています。
ゴリラ株投資の短所は、ゴリラ株と認定できる銘柄が極めて少ないことです。
ゴリラ株投資の長所、それは、90年代のゴリラである、インテル、シスコ、マイクロソフトが最も端的な事例ですが失敗例がほとんどないことです。相場変動や業績変動に伴う株価乱高下はありえますが、勝ち組から負け組に転落するような極端な変化は、ほとんどないと思います。あるとすれば、市場そのものの衰退です。
また、勝ち組である期間が長続きするため、ゴリラ化を見極めてから投資開始しても、それなりにパフォーマンスが期待できること、があげられます。ゴリラの地位に衰退の兆しが現れれば売ればいいだけです。そのときに最高値から株価が下落していたとしても、それまでの蓄積がありますから。
繰り返しますが、ゴリラになる企業を《予想》する投資法ではありません。ゴリラ候補は、せいぜい打診買い位、ゴリラになったことが決まってから、はじめて本格買いをします。
ちなみに、ゴリラ株投資は、最高のパフォーマンスをあげる投資法ではありません。高いリスクと引き換えなら、もっともっとパフォーマンスをあげる投資法は、他にあると思います(青田買いとか)。私自身は、少し、リスクをとる投資法に偏りすぎていたと思っています。
ゴリラ株投資は、どちらかというと、安心重視の投資法です。しかし、パフォーマンスも、悪くはありません 。
03年から04年にiPodの販売が百万台を突破したときのアップルを買い、 04年に上場時のグーグルを買い、 06年にDSの快進撃あるいはWiiの勝利が確定したときの任天堂を買った場合の、その後のパフォーマンスは、ご存知のとおり。
ただ、何故買えなかったかと言えば、そのいずれもが、当時としては「割高だから買えないなあ。もう少し下がらないかなあ」だったのです。拙稿「任天堂」に書きましたが、私は、アップルの株価が今の10分の1であったときに、割高だから売ろうか、と思い悩んだことを思い出します。
数値化できない優位性こそ、ゴリラ企業のパワーですが、それを計算に入れないと、見かけは割高になるのは当たり前です。
安心料をケッチっては、いけないと思います。
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