ワタミ
2回目の投稿です。渡邊社長の「もう、国には頼らない。経営力が社会を変える!」を読みました。注目点は多いのですが、新事業の「施設介護」にふれた部分を少し引用します。
入居費は先払い。月々の利用料金も、入居されたお客様の年金その他で確実に支払えるという前提がある。そうなると30年からの長期契約が可能となる。しかも支払いが安定しているので、その間、6%から8%の利回りが確定できる。実に優良な投資先です。(略)投下資本利益率から見ても、老人ホームは非常に優秀です。たとえばワタミの外食ビジネスにおいては、本部費を除いた店鋪ベースで、投下資本利益率40%(投資回転率が年間2回転,営業利益率が20%)というのを基本にしてきました。これ自体、非常に高い数字なのですが、介護ビジネスにおいては、今や平均して50%前後の数字が出ています。(略)
ただし、超優良ビジネスに成長するまでには、乗り越えなければならない大きなハードルがありました。このビジネス、損益分岐点が非常に高いのです。(略)
ですから、このビジネスの損益分岐点を超えるためには、70%以上の入居率が必須条件です。70%の入居率を確保してしまえば、家賃自体は固定費なので、あとは全部利益になる。しかも、一人ひとりの潜在利益率は高いので、固定費を超える利益を出した瞬間に、利益の幅がものすごく大きくなるというわけです。(略)
ほとんどの老人ホームが赤字に陥っているのは、入居率が50〜60%だからです。50〜60%と80〜90%とでは、天と地の違いです。(P190)
ワタミの場合は、入居率95%以上なので、「天と地」の「天」に属するわけでね。と、ここで疑問。 同業はどうなのかな、と思い、同業社を確認。
グッドウイル資料(2007.4)によると、高齢者向け住宅の居室数ランキングは、
グッドウイル系 7,047(主にニチイ学館へ)
メッセージ 6,583
ベネッセ 5,400
ベストライフ(非上場) 5,235
メディカジャパン 3,245
(ちなみに、ワタミは1,300)
メッセージの決算資料を見ると、こちらも93%。このメッセージという企業は、入居一時金を廃止するという強気の戦略で、気になっています(このため、今期あたりは一時的に業績の伸びが低下しますが、《売切り型ビジネス》から《累積型ビジネス》への転換でもあり、他企業が追随するのか、できるのか、注目です)。
ベネッセは、入居率の表示はありませんでしたが、開設6か月で、80%に達するという表現。
光ハイツ・ヴェラス(メディカジャパンの施設介護部門担当持分法適用会社)という企業も、入居率90%以上。
渡邊社長の表現を借りると、大手はみんな「天と地」の「天」。上場するほど経営力があれば、「天」に入れるのか。経営力のない「地」の施設は、これから身売りがどんどんと出てくるだろうなあ、と感想。
もしかして、と思い、上記企業の決算を調べてみると(19年3月期:単位は億円)、
- | 売上高 | 営業利益 |
ベネッセ | 320(17%UP) | 25(33%UP) |
メッセージ | 200(37%UP) | 31(79%UP) |
ワタミ | 67(47%UP) | 12(394%UP) |
光ハイツ・ヴェラス | 26(37%UP) | 3(64%UP) |
ベネッセコーポレーションとワタミは、施設介護部門のみの数字です。
ちなみに、立ち上げたばかりのメディカルシステムネットワークの同事業も、出だしは好調です。
コムスン問題で、マスメディアから何度も何度も刷り込まれていた「福祉は儲からない」というイメージがひっくり返りました。通所介護や訪問介護とは違って、施設介護は完全なる「成長市場」ではないですか。
もっとも、「介護」というと福祉施設というイメージですが、各企業のページを見ると、どちらかというと、自由度の高い「医療サービス付き高齢者専用賃貸住宅」という感じです。多種多様なニーズがあるとは思うのですが、単純化すると、介護保険に多くを依存する「介護型」よりも「自立型」のほうが、需要が多く市場も広いようです。
さらに、建物を先に建設して、後から回収するというビジネスモデルなので、マンデベと同様に、負債が相当に多いのかなと思いましたが、「預かり金」とかの名目で、形式的な負債は多いものの、有利子負債は、どの企業もそれほど多くありません。キャッシュフロー計算書を見ても、それほど悪くありません。
ワタミの場合には、
老人ホームをつくるためにはまず土地、建物が必要ですが、これを全部自己資金で取得していたのでは、借金の返済だけで首が回らなくなります。
ところがありがたいことに、今、日本の不動産マーケットでは、企業の福利厚生見直しの風潮などもあって、社員寮や保養所などを売却する動きがあります。そこで、こうした不動産物件を手に入れて、老人ホームに改装することを考えました。
しかも、私たちはこれを借金ゼロでやっているのです。なぜ、そんなことが可能かといえば、ワタミのホームは現在、すべてファンドと組んだ投資型のビジネスになっているからです。(前述書)
メッセージの会社説明会資料によると、日本は、欧米並みを標準とするならば、約100万人分の高齢者住宅が不足しているとのこと。文化が違うので、そこまで不足しているのかな、とは思いますが、需給バランスが、「不足」側に大きく傾いているとは思います。
考えてみれば、高齢化率は上昇する一方です。
これから増えてくるお年寄りというのは、
「まだまだ元気で、介護のお世話なんか必要ない」
「けれども、いざというときには心配」
「子供たちの負担にはなりたくない」
「老後も楽しく過ごしたい」
「自立型」の入居者さまにとって、ここは老人ホームじゃなくてホテルの一種なんですね。シーツは毎日取り替えてくれる。檜風呂にゆっくり一人で入ることができる。食事もおいしい。しかも自分の思うように調理してくれる。「この味、ちょっと濃いめにして」とか、「この麺はちょっと堅くゆでて」ということまで聞いてくれる。老人ホームじゃなくホテルだと考えたらもう帰る必要がなくなったということなのです。介護の必要のない方々も、やはり安心を欲しています。(前掲著P195)
たしかに、こういうニーズが増えてくることは容易に想像できます。
さらに、パナホームが次のようなIR。
パナホーム株式会社(本社:大阪府豊中市、社長:上田 勉)は、住宅業界で初めて、医療や介護サービスを備えた多機能型高齢者専用賃貸住宅『ケアビレッジ・リビング』を、平成19年8月23日から新発売いたします。
住宅業界も注目?
この背景として、H.18の介護保険法改正等により、介護保険制度の総量規制を受けない(介護保険に頼らないような自由な商品設計ができる一方で、一定の基準が満たされていれば、介護保険も利用できる)高齢者向け住宅として「高齢者専用賃貸住宅」制度が発足したとのこと。
「施設介護」から「在宅介護」への転換という国策を進める中で、「高齢者専用住宅」というのは、「脱施設」「在宅」という扱いなのですね(間違っているかもしれませんが)。
もちろん、もっと競合も激しくなるでしょうが、介護保険法に定める居宅サービスを行うには、サービスの種類及び事業所毎に自治体に申請し、「指定居宅サービス事業者」として指定を受けることが必要ですので、完全な自由競争よりは参入が難しいのではないかと思います。自治体としては、保険費用の自治体負担分の増加をいやがって、なかなか指定を認めようとしないのだそうです(ニチイ学館が、施設介護参入の方針を3年前からたてていたのに、実現できず、コムスン買収に至ったのは、これが理由だとのこと)。
まだ、しっかりと調べていませんが、医療などの付加価値がついた「高齢者専用賃貸住宅」市場は有望かもしれません。
話は戻って、ワタミについては、現在、部屋数で、1,300。新事業は既に軌道に乗っていると言えますが、今年度は、1,000。来年度は、1,700。あと10年で、団塊の世代は70歳。このぐらいまでは、拡大は続きそうです。
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1回目 2006.12.19
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