メビックス
臨床試験市場というと、バイオあるいは製薬会社が、新薬開発や製造後調査のためにおこなう試験のことです。メビックスの事業領域が「大規模臨床試験」市場だときいたとき、その区別がつきませんでした。「大規模」?
ところが、調べていくと、こういうことだそうです。
前者の臨床試験(治験)市場とは、市販前の薬を対象とし、個々の製薬企業などを顧客とした数百人規模のもの。
それに対して、大規模臨床試験市場とは、既に市中で出回っている薬や特定保健用食品の効用や副作用を確かめることを目的とするもので、少なくとも数千人規模の試験であり、顧客は、主に厚生労働省や独立行政法人、学会などになります。数年前から急速に立ち上がった、新しいマーケットなのだそうです。
別の書き方をすれば、
臨床試験は供給者側からの仕事、
大規模臨床試験は需要者側からの依頼ということです。
治験とは、製薬会社が、「薬」として認められるか、「効力」「副作用」などを調べるものです。そこをクリアすれば、医療現場に出回ります。それは、供給側のニーズに応えるものですね。
一方、医者や患者など、需要側にとっては、どうでしょう。「薬」として認可された、A薬、B薬、C薬、があるとします。どれをどのように使えばいいのでしょう。医者の経験や勘、製薬会社の売り込み、などから、「まずA薬。効果がなければB薬へ」というトライアゲインでしょうか。
患者は、それぞれ、生活環境も体質も、それぞれ、個性があります。ある人にはA薬、ある人にはB薬、と、相性があるはず。それを統計学的な手法で科学的根拠に基づく医療(EBM)をおこなおうとするのが、大規模臨床試験の目的です。欧米では、90年代初め頃から当たり前のこととなっていたそうですが、日本では2001年から厚生労働省が本格的な取り組みを始めたそうです。
そこに、2002年に東京大学と共同開発した、ASPサービスのデータベースソフト「Cap Tool」を引き下げて参入したのが、メビックスです。
学会や医師が主催する多施設共同の大規模臨床研究や疫学研究では、膨大な人数の被験者を長期間にわたり追跡調査することが必要であり、従来の人手を介するデータ収集手法では、相当のコスト負担を強いられてきたとのこと。
現在は、「Cap Tool」以外の試験は、手作業によるデータ記入、回収といった時間も経費もかかる労働集約的なものなので、いまのところ、価格競争力は抜群です(10分の1とか)。それ以外にも、「効率化」「リアルタイム」「データ品質向上」などのメリット(こちら参照)があります。ただ、他企業の参入も予想されます。「臨床試験実施管理システム」などは特許申請しているものの、そのときは先駆者として、どこまで、先に走れるかということになります。
さて、売上などの推移を。
- | 売上高 | 経常利益 | 受注残高 | 受注案件数 |
2004 | 209 | △1 | 351 | 17 |
2005 | 832 | 103 | 1,107 | 18 |
2006 | 1,706 | 405 | 3,337 | 28 |
2007 | 2,274 | 390 | 4,026 | 64 |
2008予想 | 3,050 | 600 | ? | ? |
一昨年度までは順調に業績を伸ばしていますが、昨年度は、売上は順調だったものの、経費がかさみ、利益で下方修正をおこなっています。その原因は、人員増(06年度47名→07年度61名)、家賃増(06年度32百万円→07年度71百万円)、試験実施計画書変更によるシステム変更追加作業などによる原価率悪化、などです。
販管費については、事業拡大につき、やむをえないとしても、原価率悪化については気になります。
決算短信でも、想定されるリスクとして、
当社グループでは、顧客と詳細の打ち合わせを行った後に、顧客に予算を確定して頂いておりますが、予算確定後、システムの仕様変更等により追加費用が発生する可能性があります。
しかしながら、顧客が学会、研究会等のため予算の追加承認が困難な場合が多く、追加費用等については当社グループが負担する可能性があります。
とのこと。逆に「予算消化」ケースもでてこないわけでもないと思いますが。
また、昨年度の顧客は、財団法人国際協力医学研究振興財団が販売実績の23%(昨年10%)、財団法人日本心臓財団が18%(昨年3.5%)、J-PREDICTが16%(昨年19%)、財団法人日本ワックスマン財団が13%(昨年17%)。これだけで、全体の70%です。長期継続案件が多いので、昨年と同じ顧客が多いように見えますが、実際には顧客が続けて別の大規模臨床実験をすることが少ないため、臨時的な受注が多く、顧客が安定しないこともリスクだそうです。
とはいえ、6年4月期の5億円以上の案件91%(金額ベース)から7年4月期は、21%へ、受注が小口分散多様化してきています。7年4月末の継続中試験数は70件。受注残高が、順調に積み上がっています。
性質上、リスクはいろいろ、多くて、ほかにも決算短信にずらずら書いていますが、投資判断に大きな影響を与えるほどのものはないように思いました。
大規模臨床研究・疫学研究への参加医師募集に関しては、ソネットエムスリーと提携しています。(ソネットエムスリーは、メビックスの2%ほどの株主)
現時点では、CapToolによる事業の9割近くが、大規模臨床試験(CapTool-EBMソリューション)ですが、製薬会社等を顧客とした製造販売後調査(Cap-Tool-PMSソリューション)、特定保健用食品などを対象とするサービス(Cap-Tool-SUPPLEソリューション)なども、次の成長市場です。メビックスによると、2010年の市場規模は、495億円見込みだそうです。
さらに、CapToolサービスだけでも、成長余地の十分にあるニッチ市場なのですが、もっと魅力的で未知数なのが、昨年9月にオムロンヘルスケアと業務提携し、折半の子会社クリノグラフィを通じて、始めた新規事業「ヘルスケアコミュニケーション事業」です。
これは、健康保険組合、フィットネス倶楽部などにオムロンの血圧計、体重計その他家庭用医療機器を貸与販売し、その機器と「Cap Tool」と接続することで、健康保険組合の組合員に対するメタボリック健康診断や保険診断、フィットネス倶楽部などの健康指導サービスに活用してもらおうというものです。
次の記事については、メビックスのIRはありませんでしたが、
臨床試験支援のメビックスは医療機関や健康保険組合向けに、インターネットを活用して健康指導を支援する事業を始める。メタボリック(内臓脂肪)症候群など生活習慣病の懸念がある人に測定機器を貸し出す。その上で1日の歩数や血圧などのデータを送信してもらい、分析して提供する。2008年度から健保組合などで健康指導の義務づけが始まる機会をとらえ、拡大する需要を取り込む。
第1弾として4月をめどに特定医療法人ジャパンメディカルアライアンス(神奈川県海老名市)が運営する人間ドック「メタボリックドック」にサービスを提供する。(日経新聞 2007.2.28)
2008年から施行予定の改正健康保険法ではメタボリックシンドロームもしくはその危険性の高い健康保険加入者に対して、指導が義務づけられる見通しで、政府は、その患者や予備軍の減少率が国の基準に達しなかった場合には、各健保が国に供出する健康保険負担金を増額させるというペナルティー規制も検討中とのことです。
健保組合は、組合員の自覚に任せるなどというのではなく、本気でメタボリック対策に取り組まざるを得なくなります。
メビックスのビジネスモデルの最大の特徴が、契約者へのフィードバックのときに、厚生労働省が示した基準に加えて、《独自の基準を持って指導》していくことです。国の示した基準を、一民間企業が変更していいのかということですが、今年4月に厚生労働省が発表した「標準的な健診・保険指導プログラム(確定版)」内で、「保健指導対象者に優先順位をつける必要がある(P76)」と、膨大な科学的データの裏付け根拠があれば、自分たちのオリジナルの基準で指導してもよいこととなっている(プレジデント2007.7.16号「一兆円!メタボ特需で太る会社はどこだ」による)ということのようで(私には、そういう読み方ができるのか分かりませんでしたが)、それが、メビックスの最大の強みということです。
だとすれば、有病(?)者、予備軍について多量のデータを蓄積すれば、そのデータベースに大きな価値、圧倒的に競争力があるように思います。
さらに世界も視野へ、
臨床試験の1つとして、キャップツールと家庭用医療機器の連携も始めました。これは、世界で始めての試みです。(略)
家庭用の血圧計や万歩計は日本が一番進んでいるんですよ。技術的に優れているし、使っている人も多い。いずれ、欧米でも家庭で血圧を計る時代が来ると思いますから、日本でヘルスケアの仕組みをしっかり作っておきたいですね。(そだとう2006.4)
おまけ。セルサイエンス事業というのもあります。
医療においては、凍結保存技術の進歩が、細胞損傷などの問題に対して大きな研究課題となっています。メビックスは、保有知的財産である過冷却(凍結点を超えても液体のまま)技術の応用により、移植、輸血や再生医療領域において上記問題を解決できる医療機器の研究開発を進め、現在、世界初の過冷却装置「プロケプト」の販売をしています。
その研究過程において、副産物(?)として生まれた飲料水・アルコール飲料向け過冷却装置「マジコール」も販売しています。
水の凍結点であるマイナス0℃を超え、マイナス6℃付近まで温度を下げながら液体状にキープされたドリンク類は、そのまま飲めば体験したことのない冷たさとおいしさ!または、シェイクしたり冷やしたグラスに注げばみるみるシャーベット状に変化!このちょっと不思議で楽しいパフォーマンスと超クールな飲みごごこちは全く新しいドリンクの世界を開きます。
だそうで、
これは、テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」の20周年記念の一環として行われた「ベスト・オブ・トレンドたまご」の、銀賞に輝いています。ただし、何か、もっと違う技術の使い道が見つかれば、大化けの可能性もないわけではありませんが、今のところ、収益に貢献していません。ちなみに「細胞等保存装置」「冷凍食品の解凍及び/又は保存方法」など、特許申請中。
今のところ、新規事業を織り込むのは、時期尚早です。しかし、ヘルスケアコミュニケーション事業が本格的に立ち上がってきたら、相当の期待ができると思います。
財務ですが、
有利子負債なし。資産の90%近くが、現金、手形、売掛金の類。堅いといえます。逆に言い方をすれば効率が悪いともいえます。今後の新規事業への財務面での対応余力十分、と受け取っておきます。
私は、医療の進歩のために頑張っている企業を応援したい(後に自分に跳ね返ってくる)という気持は以前から強くあり、ただ、新興企業のバイオ系は、ちょっとリクス高過ぎかな、と思っていました。
大規模臨床試験という成長市場で、当面のライバルはなく独走し、受注残も良好、財務良好。時価総額94億円。長期対象で応援したいと思います。具体的には、すこしずつ買っていくということになります。
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