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2007.05.12

フィンテック グローバル

3回めの投稿です。フィンテックが、《予想外》の下方修正で、《高い授業料》を払いました。ここまでは、どんな個人投資家でも経験すること。問題は、授業料を払って、何を学んだのか。何も学ばないで「次の銘柄に行こ」では、同じことを繰り返しかねません。

 ロスカットであれ、ホールドであれ、「省みる」ことは大切だと思います。

 「下方修正」には、主に、2つのパターンがあるように思います。
 1つめは、「業績の曲がり角」パターンです。これは、少しずつ,予兆が出てくることが多くて、案外わかりやすいものです。株価もじわじわと下がってくるのですが、それを「割安になった」と思わないこと。どうしても値段を見て、株を買いたくなりますが、そこはそれ。長期投資ではない限り、「直ぐ切り」をしなければならないと思います。
 
 2つめが、「事業拡大による、収益の遅れ」パターンです。これは、難しいですね。
 わかりやすい例が、昨年末のテレウエイブの下方修正です。テレウエイブは、需要が大きいのを見て、大量に新卒を採用し、事業拡大を図ったのですが、今ひとつ、戦力にならず、費用ばかりが先行してしまったのです。これが、もし、早期戦力化されていれば、利益は急拡大。判断が難しい。というか、個人投資家には、判断が無理で、「近づかない」というのも、1つの手。しかし、成長株で新規事業を外すと、魅力的な選択肢に乏しいのも事実で、長期覚悟なら乗ってみるのも、1つの手。
  
 投資家だけではなく、経営者にとっても、同様だと思うのです。
 既存事業の状況なら「前期より反応が弱い」とか「強い」とか、わかりやすいと思うのです。しかし、事業拡大、特に新規事業の立ち上げについては、なかなか掴めないのだろうと思います。「需要」につては、事前に十分調査しているでしょうから自信はあるでしょう。しかし、軌道に乗るまでの期間は読めない。
 私も、転勤で、新規立ち上げ事務所に赴任したことがあります(仕事は前の延長だけど)ので、稼働している事務所なら、当たり前であったことが、当たり前でない《かゆいところに手が届かなくて物事が進まずに、いらいらする状態》も、わかります。新規事業なら、なおさら、予想外の障害が起こるんでしょう。
 
 フィンテックの場合は、典型的な後者のパターンだと思います。
 正直、職員数で見れば中小企業レベルの企業に、新規立ち上げ子会社が多すぎるなあ、と思わないでもありませんでしたが、その勢いが魅力だったのでした。
 
 前回に引き続き、フィンテックの業務を料理のレシピに例えてみます。
 レシピの作成で商売をしていたフィンテックですが、客から「なかなか良い料理素材が回ってこないんだよね」と声を聞きました。「それなら、紹介にとどまらず、調達して販売もしましょう」と素材販売を始めることにしました。「それは助かる」と顧客も大乗り気。
 ところが、輸送会社との交渉に手間取ったり、保管場所が決まらなかったり、無情にも時間だけが過ぎ、収益があがらないまま、費用はかさんでいきます。顧客からも「待ちくたびれて他業者と契約しちゃったよ。今度はよろしくね」と逃げられてしまいました。
 
 ただ、新規事業とはいえ、顧客の需要を前にして始めただけに、「事業環境」については、堅いと思います。歯車がきちっと噛み合って、事業が回りさえすれば、大きく収益に貢献すると思います。
 
 具体的に、中間期の減益要因としてあげられている3つの事業を見てみます。
 
 最初が、フィンテック・リアルエステート。ここが扱うのは、アレンジメント案件から派生的に生じる不動産投資です。計画値500百万円に対して、実績21百万円と、大幅減。下方修正での最大の原因です。これには、相当の意外感がありました。昨年度末の資料では、計画値は、既に保有している物件のEXITであると書かれていたからです。今の不動産市況で、不動産が売れないなんてことがあるのでしょうか?
 私が想像するに、この事業は、小規模多数の分散投資だと書かれています。売却には、多くの煩雑な事務が必要です。仮説にすぎませんが《人手不足》なのではないでしょうか。
 購入候補不動産は、アレンジメント案件から派生的に生じるのですから、担当の元に、次々と、「この物件の購入手続きをしてください」とリストが入ってきます。事務処理がたまれば、時間配分上、そちら(売却より購入)を優先せざるを得ないでしょう。「不動産の先高感」から、「売却は、後回し」と、担当者が考えたとしても無理はありません。不動産は、売却しなければ、含み益は膨らんだとしても、売上にはいつまでたっても計上されません。
 経営者の立場からすれば、「コンスタントに売却してね」と望みます。投資家に対しての説明もありますし。しかし、担当者は別の判断で動きます。大企業であれば、強固な内部管理部門があって、進捗状況を随時、報告せよと、現場に煙たがれますが、急成長中の企業は、現場優先、内部体制後回しですから。
 以上は、好意的な解釈。悪意の解釈としては、不動産を高値で掴み、売るに売れない、というようなことも考えられます。やや非現実的ですが、頭の片隅には可能性を入れておきます。
 株式投資は、こういう可能性を、普段から、あれこれ、色んなケースを考えて、重層的なイメージを創り上げていくことだと思います。
もちろん、想像が事実に近いのか、できるだけ調べるのは当然のことです。
 
 次が、「エーサップ・ペイメント・システム(ASAP)」。年末資料では、日立情報システムが開発したシステムが試運転中とのことでした。1Qのときには、「立ち上げの遅れを取り戻すべく奮闘中」と記されていたので、これの遅れは予想はできました。システム開発の遅れについては、ソフト系の企業なども見ていたので、システム要員(特に金融向け)は、圧倒的な人不足であると知識としては持っていました。「需要が弱い」のではなく「強い需要を目の前にして、仕事ができず地団駄踏んだ状態」だったのだろうと思います。
 現在の「営業体制の遅れ」は、ここでも《人手不足》ではないでしょうか。 

 最後は、SPCの連結化による売上高の相殺。これについては、1Qの資料で、「2Q中に本件にリファイナンスをおこなうことにより連結の範囲外となり、別途アレンジフィーを獲得する」と書いていますが、実行できなかったわけです。会計上のことがメインで、実際上の影響は少ないと思いますが、気になるのは、何故、この程度のことが出来なかったのかな、ということです。BIS2の影響で、地銀からキャンセルされたのかな、とか、想像はいろいろできますが、当たるにしろ、当たらないにしろ、想像してみることで、企業の事業のイメージが立体的になってきます。
 理由はともあれ、背景に、やはり《人手不足》で、手が回らなかったのでは、という想像が強く働きます。
 
 当たり前のことですが、想像は想像にすぎません。想像だけで投資をするのは論外です。しかし、想像もできない企業に投資をするのも論外です。 
 
 以上、簡単に下方修正の原因を想像しましたけど、投資というのは、いろんな可能性を想定しておくもので、そういう意味では、今回の下方修正は《予想外》ではありましたけど、《想定内》ではありました(←強がり)。
 
 私にとって、《想定外》があるとすれば、「証券化市場の縮小」です。私は、証券化については、今は9兆円市場と言われますが、いくらでも市場が広がると思っています。中堅企業などで、資金を調達するときに、例えば、設備投資なんかでは、金融機関も公的機関も、融資は易いのです。しかし、運転資金のほうは、なかなか面倒です。結果、需要が強く、規模を広げたいのに、「売掛金」と「買掛金」の時間ラグから、資金繰りが苦しくて、みすみすチャンスを逃すということが多いのです。そういうケースで証券化は、非常に便利であり、潜在的需要は、とてつもなく広いと思います。ただし、それを顕在的需要に出来るかどうかは、別。
 私は、正直にいって、「不動産流動化」企業は好きでありません。自分と投資家が儲かればいいというマネーゲームのプレイヤーというイメージしか浮かびません。リサやフィンテックを投資先に選んだのは、「中堅企業を助ける」仕組みのなかで動く企業であるから。IDUも、仕組みを変える企業だから。アセットは、「儲かりそう」に、目が眩んで買いました(笑)。
  サイボウズなんか、割高な「宝くじ銘柄」にすぎないのに(とはいえ、1兆円企業になる可能性は、あると思う)、応援しているのは(値段次第では買う可能性も)、私自身が、毎日使っているサイボウズ製品のファンだから。株式投資を、金儲けだけとは割り切れません。

 さて、フィンテックに戻って、本体、昔からの既存事業は、順調といっていいと思います。新規製品(あえて製品と呼ぶ)製造のために人手を割いたにしては、十分です。最近、お金を集めて強化した投融資のほうは、「おやおや」です。
 そして、「下方修正」とはいえ、増収増益基調は維持しています。というか、「計画比」でなければ、十分に立派な成績です(私の期待より下ですけど)。
 フィンテックの問題は、「業績」ではなく「IRの信頼」なのです。
 
 例えば、シンプレクス・テクノロジーは、先週、決算を発表しました。経常利益の実績で41%アップ、一方、今期予想は、たったの14%。しかし、発表翌日は、株価は大きく上がりました。前に拙稿で書いたとおり、「第二の柱を育てるために、数年は利益が低迷します」と、しつこく、IRしていたためです。フィンテックも同様に、将来の夢を人参のようにぶら下げて、「少し低迷するけどね」とIRしておけば、どうということはなかったのです。

 前決算の説明資料には、中期計画について

第13期(今期) 中身充実
 再飛躍のための揺藍期=中身体制整備の期

 と書いてあります。
 
 タマイノキモチにも
 当社もいよいよ3ヵ年中期経営計画の中間年度に突入しました。「中興」「中だるみ」という言葉があるように「中」は最も重要な時期と考えてます。これを乗り越え最終年度に大輪の花が咲くかどうかは、全て「中身」に係っています。新興企業にとって数字だけを伸ばすのはある意味簡単。中身が伴っていなければ必ず失速する。永続成長のためには中身を充足し足腰を鍛えつつ巡航速度を意識する。急いではいけない。これが私の経営鉄則のひとつです。

 と書いてあります。
 
 このあたりの意思疎通が、イマイチだったのではないか。
 
 テイクアンドギヴ・ニーズみたいに、
 当社の連結子会社は、全て設立から間もない企業であり、今後の事業環境や事業戦略の変化により大きく業績が左右されることが予測されるため、合理的な業績予想が困難であります。したがって、当社は業績予想に関しては、当社グループの業績の大部分を占めるウエディング事業の個別業績予想のみを開示しております。(決算短信より)

 ぐらいは、しておいてもよかったですね。
 
 今中間期、増収112%アップ、増益21%アップ。それも、多くの子会社の立ち上げ費用が含まれたうえで、となれば、IR次第では、素晴らしい業績と評価されたと思います。
 株価が大きく売り込まれたのは、投資家が合理的だと推定すれば「業績」というより「経営者の状況把握能力への不安」みたいなものに対してではないでしょうか。もっとも、それほど、合理的かな。
 
 シンプレクス・テクノロジーやリサ・パートナーズが、常に割高なのは、経営者へに「信頼感」を求める株主がついているからでしょう。そして、常に「割高」なので(形式的な低PERとかで判断する)「裏目じじい」が寄り付かないという、好循環を生んでいるんでしょうね。
 
 さて、とはいえ、フィンテックの新子会社群が、いつ頃、歯車が回り始めるのか、それが見えなければ、株価は期待できませんね。そのまま、ポシャる可能性も、ないわけではないですし。
 しかし、今回のことで、事業を応援しているわけでもないのに、単に「儲かりそう」というだけで保有していた株主が、消えてくれたとしたら、嬉しいです。不人気株のほうが良いし。配当利回りも、2%を超えました。大企業と違い、人数の少ない企業は、経営陣が率先して現場を飛び回っているので、内部の状況把握が、後回しになりがちです。で、こういうことが起きるわけですが、それが「若い」というか、応援したくなる魅力でもあるわけです。
 
 振り返って、私は今回、何を学んだのかな?
 15日の中間決算報告を読んで、答えを出したいと思います。

 ところで、ライフステージが保有するフィンテック株が、評価損の対象とならないか気になりました。強制適用には、まだまだ下がありましたが、任意もあり、念のため、決算まで、いったん手放しておきます。神戸港の100億円案件は、(株式持ち合い関係の)フィンテックが投融資するんでしょうね、と期待。


    □ これまでの投稿 □

2回目 2007.2.3
1回目 2006.11.26

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コメント

はじめまして。
フィデックは監視外でしょうか?

 shuuheiさん、こんにちわ。
 監視銘柄ではありませんが、売掛金に特化している企業のようですね。人力で、規模を拡大しているという感じ?
 事業自体は市場も広く、面白いと思うのですが、説明会資料などを見ただけでは、今ひとつ、他者との差別化ポイントがわかりませんでした。よければ、教えてください。
 

フィンテックと関係のない投稿で申し訳ないです。

今日アプリックスの下方修正は悶絶ものでしたね。

AMFの開発費など特損として費用計上しましたので
来期以降の費用は抑えられると思うのですが、
はたして今期を乗り越える事が出来るのでしょうかね?

会社の見解を見ても中国市場はもとよりAMFに関しても
相当弱気な感じを受けましたが・・

決算をまたぐのは怖かったので今日大幅損切りをしましたが、ユキオさんのアプリックスへの評価は変わってないですか?

 この銘柄は、その技術が「標準」になれば勝ちであり、四半期業績なんて関係あるのでしょうか。しかし、前の投稿にも書きましたが、私は技術系ではないので、素人以上の評価ができません。すみません。誰かに技術の解説を乞いたいぐらいです。
 ちなみに、「目次(右上のリンク)」に、保有している株を書いていますが、アプリックスは、以前に手放しています。別に評価が悪くなったとかではなく、他の銘柄が欲しくなったためです。

すみませんでした。
空気読めなかったようで。

 アプリックス君さん。いや、投稿は大歓迎ですよ。ただ、私自身が、「評価して」と言われて答えられるほどのものは、ないというだけのことです。
 アプリックスについては、もちろん、メディアに出ている情報などは、大概、読んで理解に努めていましたが、しょせん、素人。それと、「標準」になるかどうかなんて、「技術の質」は、関係なく「業界の政治」的な要因が大きいですし。万が一、大化けした場合に備えて、ダメージを受けない金額で(言葉は悪いが)宝くじ的に買っていました。
 最初の投稿時と変わったところは、おもったより時間がかかりそう、というぐらいです。

 さて、フィンテックについてですが、
 事業環境ではなく内部環境が原因とのこと。中間決算資料他をみても上に書いたことと大差なさそうでした。とりあえず、保有継続。ただ、持株数については別。ポートフォリオバランスは、大切だな、と痛感。

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