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2007.01.08

損益と固定費(利益急増編)

 損益(利益又は損失)は、収益と費用の「差額」です。それ自体が、独立した存在ではありません。

 (売上高など)収益は、過去と、それなりに連続性があります。費用も、(特別損失などを別とすれば)そうです。しかし、損益は、収益と費用の、差額概念ですから、ときどき、意外な数字の変化を見せます。こういうとき、会計上の利益急増があったりします。
 
 私が気がつくのは、一つは、拙稿「ユニバーサルソリューションシステムズ」で取り上げた、費用前倒しがあり、収益と費用の時期がずれた場合です。
 もう一つは、「固定費」に絡むものです。これについて、以下、書きます。(これは、財務諸表を自分で見る個人投資家にとっては当たり前のことです。以下は、「投資するなら、財務諸表はちゃんと見よう」という目的で書きました)
 
 拙稿「シンプレクス・テクノロジー」で取り上げた、ビジネスブレイン太田昭和の決算に関する推移を、再度、載せてみます。

 《売上総利益》−《販管費》= 営業利益、で
17年度 《2,332》−《2,059》= 272百万円
18年度 《2,488》−《2,026》= 461

 17年度から18年度にかけて、売上総利益は、6%ほどのアップにすぎません。しかし、営業利益は、70%近くもアップしています。

 《売上総利益》と《固定費》が、近い数字であったために、少し、前者が伸びただけで、営業利益の増加率が、急上昇したのです(ビジネスブレイン太田昭和の場合は《販管費》は、ほぼ《固定費》とイコールです。銘柄によっては、売上原価であっても、固定費的なものもあります)。このような《売上総利益》と《固定費》の近い銘柄は、利益急増期待銘柄として狙い目です。
 もちろん、銘柄に、定性的な魅力がなければ、しょうがないですが、「銘柄のビジネスモデルに魅力はあるけど、割高だからパス」みたいな銘柄は、単純なPERだけで判断していたのなら、あとで、悔しい思いをします。
 
 繰り返すと、時価総額が小さくて、《売上総利益》と《固定費》が近い数字、かつ、売上の勢いがある、という銘柄は、中短期的投資銘柄として、有力候補です。
 
 「売上は、何%ぐらい成長するだろう?」これは、イメージできます。しかし、株価に大きく影響する「利益は、何%ぐらい成長するだろう?」これは、シュミレーションしなければわかりません。
 
 練習事例を一つだけ。サイボウズ第3四半期(個別)で見てみます。

売上高2,767
売上原価130
販管費2,015
営業利益622

 さて、「売上原価」の内訳は、本決算資料にしか載っていませんでしたが、ソフトウエア償却が40%ぐらい、人件費関連が10%強、あとはこまごまとしたもので、「その他」が30%と、内容がわかりません。そこで、50%を固定費と考えます。
 
 もし、売上高が、10%アップしたら、でシュミレーションします。売上原価は、上記理由で5%アップで計算。あとは、とりあえず、固定費とします(正確には違いますが)。
 
売上高3,043
売上原価136
販管費2,015
営業利益892

 営業利益は、892百万円で、622百万円より、43%アップです。
 つまり、サイボウズ(個別)は、売上高10%アップで、営業利益は43%アップすると、推測できるということです。
 
 上記は事例なので、機械的におこないましたが、実際の分析時は、私の主観を加味(広告宣伝費は減らしそう、とか)して多少は数字を操作して、おこないます。サイボウズ(個別)の場合に、《販管費》のうち《販売促進系》は、減少傾向、《管理系》は増加傾向、なので、そこもシュミレーションしたほうが正確になります。ただ、下記理由(資産振替の個別分の金額がわからない)で、実際に作業してみると難しいですけど。
 
 最後に、本題とは離れますが、サイボウズの第3四半期決算に、2つの、利益先送りが、見られますので、参考まで。
 
 1つは、18.9.8の下方修正発表で、「ソフトウエア開発費の資産への振替が下期以降になったことにより」と述べているとおり、これは、単に「今は損益計算書に計上するけど、あとで貸借対照表に移すので、消えるよ」というものです(ただし、年度的には費用先送りです)。
 今年度第3四半期の販管費が増えているのは、これが一時的に載っていることもあります。
 
 もう一つは、注記に「複数年分のライセンスを一括して販売する複数年パックは従来販売時に全ての契約期間に対する契約金額全額を売上高に計上しておりましたが、(略)前受金に計上することといたしました。」という方針変更によるものです。この結果、従来の方法によった場合と比較して税引き前四半期純利益額も、122百万円減少しています。実際の最終利益が330百万円ですので、けっこう、影響があります。
 
 さて、以上は、「固定費」が固定されていることによる、利益急増ケースを取り上げましたが、実際には、業績上昇の場合、勢いを増すために「固定費」(人件費、不動産貸借料、など)を増加させることが多く、その危険(利益急上昇のち急降下)について、次の機会に書くことにします。
 
□ 過去の損益を考えるシリーズ □
 
 損益と営業循環
 貸倒引当ターンアラウンド
 損益とキャッシュフロー
 儲けのサイクル

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