ワタミ
ワタミは、私が保有する唯一の《株主優待目的株》です。15万円(現在)ほどで、6000円×年2回の利用券がもらえます。人気企業で、今年の株主総会は、国技館で、7252名(同伴者含む)の出席があったそうです。
投資対象としてみてみますと、ワタミは、成長産業とは言いがたい外食産業のなか、株価で見ると、割高かなあ、という感じです。
先日、下方修正を発表しましたが、外食部門の不振が原因でした。説明会での渡邊社長の説明が、ワタミらしいなあと思ったので要約して書きますと、
下方修正の原因の大半は、費用増である。そして、その内訳のほとんどは、アルバイトの募集費と単価の上昇である。ワタミのアルバイトは、他企業よりの単価が安い、が、「ワタミが好き」という理由で、これまで集まっていた。アルバイトがそのまま、正社員になるケースも多かった。お客様に「ありがとう」と言ってもらえるために、皆が一丸となる職場が、ワタミの魅力だった。ところが、新規出店増で、店長の異動が激しくなり(平均半年)、職場としての一体感に乏しくなり、魅力減、アルバイトの回転も速くなってしまった。結果として、人件費増になった、
とのことです。
対策としては、新規出店を押さえ、店長の異動を原則停止する、ということです。といっても、人件費単価増は、景気回復に必然なので、長引く可能性も高いと思います
正直なところ、外食産業としてのワタミの投資魅力は、感じません。しかし、ワタミへの興味は津々です。
そのことについて、以下、書きます。
ワタミの売上高は、17年度3月期で658億円、18年度で826億円です。これを、2020年には1兆円とするという企業目標を立てています。内訳は、
国内外食部門 3000億円
海外外食部門 1000億円
介護部門 3000億円
農業部門 500億円
環境部門 500億円
中食部門 2000億円
私の興味を引くのは、現在の主力事業(国内外食)を除く、新規事業ですが、なかでも、農業と介護は、面白いな、と思っています。どちらも、市場は既に広いのですが、「運営」は、されていても、「経営者」がいないのです。つまり、旧態依然とした業界ということです。こうした業界に、「経営」のある企業が乗り込めば、面白いことになるのではないか、と期待します。渡邊社長は、「人が差別化の要因とならない業種へは参入しない」と述べています。つまり、どちらの事業も、「人」がポイントです。
まず、前半は、農業について、取り上げます。
農地法では、農家以外の組織が農地を所有する可能性を限定しています。「役員の過半数が実際に農作業をしている人でないといけない」という条件で、やっと、有限会社も「農業生産法人」として、農業生産ができるそうです。ワタミの農業生産組織の基本は、この形態、(有)ワタミファームです。特区用に(株)ワタミファームという組織もあります。昨年の規制緩和で、株式会社の特区外の参入も制限付きで認められました。しかし、使い勝手は悪いようです。こんな時代遅れの政策を続けているから、日本の農業は、衰退していく一方なのですが、ワタミは、この2つの子法人により、現在は、490haの農地を所有しています。内訳は、畑作200ha、酪農50ha、畜産200ha、などです。全て、有機農業であり、国内有機生産の5〜6%、もちろん、《日本最大》の有機栽培農業者です。これにより、外食店舗での社内自給率は、年間通算で40%以上だということです。また、有機作物の通信販売もしています。また、有機栽培には、有機肥料が不可決ですが、こちらも生産を開始しており、来年には年間5000t体制(国内シェア0.6%)となります。やはり通信販売もしています。
さて、農業の現況について、日経新聞北海道版より引用します。
北海道農業は広大なよく野を背景に、規模と生産性の高さで競争力を維持してきた。だが、全国を上回るスピードで進む少子高齢化時代には、これまでの概念を超えた「圧倒的な大規模化」が求められる。高付加価値化を目指して有機農産物やワインを作るといった従来の農業振興策だけでは間に合わないことが、リポートの中で浮き彫りになった。大規模農業の担い手として期待されるのが企業や農業生産法人だ。「ぜひウチにも来てほしい」——。居酒屋チェーンのワタミ子会社で、檜山管内せたな町で60ヘクタールを耕作するワタミファーム(東京・大田)には、道内自治体から年間3—4件の誘いが舞い込む。離農による遊休地増加や耕作放棄に悩む自治体にとって、大規模農地の受け皿となりうる企業の参入は魅力的に映る。
規模拡大が進めば生産性も向上する。試算では、2030年の1戸あたりの農業生産額は3788万円と2000年に比べ2・5倍に拡大。農家の手元に残る所得も2・7倍の1515万円に膨らむ。
しかし企業参入には現在、多くの障壁が立ちはだかる。05年9月の規制緩和で農業生産法人でない企業でも農業参入が可能になったが、農地を自治体から賃借する条件付き。しかも地元農協など農業委員会のお墨付きが必要だ。
農家の後継者難を考えると、企業参入しか、答えがないのですね。また、農業に意欲のある人材もいるのでしょうが、その人たちが持っているのは「現場力」であって「経営力」ではないと思います。また、企業は、効率性から土地保有を望みませんから、先祖代々の土地を守りたいとする農家にとっても、願ったりです。「土地所有」と「経営」と「現場」の分離が必要だと思います。
ワタミファームの武内社長の発言を引用します。
実際にやってみるとよくわかるのですが、農業という仕事は、企業など組織で取り組むのに向いているんですよ。もっと言うと、企業が行うことで、日本の農業が抱えている問題点の多くが解消できると、私は確信しています。わかりやすい例から言うと、たとえば休日休暇。生き物相手の仕事である農業は、週休二日とか夏休み一週間というのは難しいと思います。
しかし一定の人員を持つ企業なら、交替で休みが取れます。また農業は繁忙期と閑散期の仕事量に大きな差がありますが、これもアルバイトなどで調整ができます。何よりも、企業であれば後継者問題が発生しない。『息子が継がないから農地が放棄される』などということがありませんからね(略)
株式会社は、事業資本と資金調達の手段を持っていますから、先行投資も農地の拡張もできる。農業家が社長になるのでなく、経営能力のある者がそれを担当する、という適材適所ができる。農業も、そういう視点から見直すべき時代だと思いますよ
この武内社長について、渡邊社長は語っています。
その武内の夢は「有機を日本に広めたい」でした。
「それならワタミでやればいいじゃないですか」こう言って彼を口説きました。2001年末のことです。2002年4月に、農業を専門とする新会社ワタミファームを設立し、彼が社長に就任しました。今、ワタミグループの農業は、大半が彼の人脈で動いています。2002年4月に開設した第1号農場の場所を千葉県山武町に決めた理由は(略)山武町で、武内と旧知の農業者(略)のグループが有機農業をしていたという理由も大きかったのです。倉渕農場も、瀬棚農場も、そして当麻グリーンライフも、彼のネットワークで広げた農場です。
「人脈なんか関係ない。土地さえあれば農業はできるじゃないか」これは大きな間違いです。(略)地域に背を向けて農業をおこなうのは不可能です。(略)まず、許認可の問題があります。(略)次に、地域の協力度合いは、農産物のコストに直結します。(「新たなる挑戦」渡邊美樹著)
つまり、企業が農業に参入するときには、農業人材ネットワークを押さえる必要があります。意欲的で技術も能力もある人材を、先に押さえたほうがいいに決まっています。(考えかたが強引?)。
もう一度、武内社長の別のインタビューから
僕は農業をずっとやっていますが、6、7年前から若い世代の人が農業にものすごく興味を持っているんですよ。来年から農業も展開するので募集をかけているんですが、やっぱりたくさん来ますね。他にも、一度社会に出て、もう一回農業に戻りたいという人も多いんです。
日本の国の食料自給率は40%。世界人口の爆発と生活水準の向上を考えると、将来の食料不足は、けっして脅しだけではないと思いますし、日本農業の再生は、制度をいじるだけで可能ではないかという気がしています。高付加価値製品を作るのが得意という、日本人の特性は、工業だけではなく、農業でも生きるはずです。
農業が儲かるのか?ということですが、もう一度、武内社長の言葉より
ひとつの作業を黙々とやるのではなくて、その作業はどうしたらもっと楽にできるかを考えてほしい。段取りを変えれば人や労働時間を減らせるかもしれない。これは、飲食店をマネジメントする時と一緒ですよ。だからワタミから連れてくるのも、店長経験者だけです。(略)
ワタミの商品開発の人間は、しょっちゅう畑へ来ます。こんな野菜はどうか、あれはどうかって、議論しながら作付けする野菜を決めていきます。
ワタミ(外食)では、有機作物にこだわっているので、外部調達は割高でしたが、科学的な生産管理が導入された内製に切り替えていくことで、コストがかなり下がったそうです。やっぱり、非能率的な、他の農業者との差が競争力になっているわけです。
12月4日付日経新聞では「農業法人で陣取り合戦」という記事が出ています。
農村で農業生産法人の設立ラッシュが起きている。後継者不足や耕作放棄地の増加に危機感を抱いた自治体や農協が法人の誘致、設立を支援。新たなビジネスを求める企業や金融機関の動きも活発だ。安心・安全志向の高まりから国産農産物に注目が集まる中、農業経営も本格的な競争時代を迎えた。(略)
耕作放棄地には産業廃棄物などが不法投棄される恐れもあり、農林水産省は特区に限って認めていた一般株式会社の農業参入を全国で認めるなど、農地再生に躍起になっている。
今年九月までに新制度で外食のワタミなど百七十三社(うち株式会社八十九)が参入したが、新制度での貸付農地は合計してもわずか五百二十九ヘクタール。地元の農業関係者の努力なしには荒れ地は減りそうもない。
普通、社長がマスコミ等に出始めると、企業は傾き始めると言われます。しかし、ワタミの場合は、閉鎖的な農業関係者や介護関係者に対する「あの人なら大丈夫かも」という広告塔の役割もありますから、一概に言えません。
日本に投資銀行はたくさんあるのに、地方銀行に頼られるのは、なぜか、リサばかり、と、以前の投稿で書きました。「おたくがやるから、うちも」と、横並びの世界。農家にとって先祖代々の土地ですから、農業の世界でも、同じことが起きる可能性があります。
以上で、「農業」は終わり。
以下は、「介護」を取り上げます。
ワタミは、2004年、ワタミメディカルサービス株式会社を設立し訪問介護事業に参入、2005年には、有料老人ホームを運営する株式会社アールの介護を買収し、本格的に「施設介護」事業の展開を開始しました。
渡邊社長の著書「あなたのご父母を私に委ねてください」によると、そんなとき、20年近くの有料老人ホームの経営経験を持つ、介護ベンチャーの草分け的存在の片山ます江さんと出あったそうです。片山さんは、介護事業を個人ですることの限界を感じ、ワタミを訪ねてきたそうです。
片山さんの開口一番の言葉です。
「私の望むお手伝いとは入居者がごく常識的に暮らせるような施設作りです。
今、日常的に行われている介護は、一度おもらしをしたら、すぐ、おむつにしてしまう。食べ物が噛めなくなれば、焼き魚でもミキサーにかけてしまう。何も聞かれず、人前で裸にされ、大きな洗濯機のようなお風呂に機械的に入れられてしまう。
そこには、愛がありません。
私は、トイレが間に合わなければ、トイレをお年寄りの傍らに持ってくればよいと考えます。歯がなくなれば、歯肉で噛める献立を考えればよいと思います。入浴にしても、人様からは見えないところで脱衣してあげればよいと思います。
私たちが普通にしていることをお年寄りにもしてあげたい。」
その後、片山さんの人材ネットワークからワタミの介護は発展していきます。農業でもそうだったように、《現場力》と《経営力》は、別です。そして、現場力のある人たちが、個人ですることの限界を感じて、経営者のもとに集まってくるのも同じことです。
2004年暮れには、「(介護施設向け)ワタミ手づくり厨房」の仕組みを完成し、全ホームに導入します。献立開発にあたって、ワタミの商品本部長が、現状の調査をしています。
数日後、外食とは決定的に違う点について報告に来ました。
「施設の食事は、同時にすべてを出そうという考えかたによるものです。そのため、一時間前から、ひどいところでは二時間前から盛り付けを始めていました。
外食のような調理オペレーションシステムがあるわけでもないですから、毎食、大量に調理をしなければならない。朝ごはんが終わったら、すぐ昼ごはんの下準備を始めなければ間に合わない。毎回、下準備に追われているわけです。だから盛りつけも雑。高齢者に気を配る余裕なんて、まるでありません。(略)
一番、ショックだったのは、ミキサー食ときざみ食。心あるスタッフがやっているところでは、きざみ食も具材別にきざんでお皿に盛りつけていましたが、そうではないところではすべての具材を一度にきざんでしまうものだから、まるで配合飼料みたいな感じに見えました。(略)
あれは人間の食べ物じゃない。食の尊厳はそこにはない。この世界はどうなっているんだ。強い憤りを感じました。」
私は、福祉業界に関わったことがあるので、その感覚がわかるのですが、確かに、外から見て「ぎょっ」とすることは多々ありました。簡単に、良い悪いと切り捨てられない面もあり、そのことは、いずれ、じっくりと書きたいと思いますが、サービス業の感覚とは、根本的に違うのですね。
そして、ワタミの介護食が完成します。
通常の介護食は、通常食をミキサーにかけて流動 食にすれば、それでできあがりです。(略)
ワタミの介護食は、ここから手間をかけます。美味しくするために、昆布鰹の出汁で味を整えます。そしてそれだけでは終わらせず、ゼラチンや寒天、澱粉などで固めて、カタチのある食事とするのです。(略)ゼリーは19度で溶けるようになっています。口喉温度は36度前後ですから、口の中ですっと溶けるような感覚でのどを通ります。
温かいものは、さらにもうふた手間かけます。
例えば焼き魚。すり潰した魚を切り身のカタチにし、お出しする前に温めて、かつ見た目をよくするため、バーナーで焼き色を付けたりするのです。
サービス業のノウハウを、この業界に持ち込めば、競争力の差は歴然です。2年前に買収した介護施設の入居率は60%でしたが、現在は、16施設中6施設が入居待ちの状態で、全体で90.6%(10月)となっています。レストヴィラ(介護施設)は、この12月にオープンする分も含めると20施設。2020年には、1000棟で7万人の入居者を目標としています。
また、現在は、岸和田一カ所だけですが、高齢者賃貸マンション(レヴィータ)にも進出しています。ここの基本モデルは、3年契約で一時金が350万円、これは、高齢者の一般的な貯金ゾーン(300万円〜500万円)から、導きだしたものだそうです。家賃や食費等も、厚生年金の平均受給額17万4千円で、小遣いが残るような金額設定がされています。不動産は、地主に建設してもらって賃料を払うリースバック方式で、提携病院一つにつき、周辺に25マンションを建設、1棟あたり40戸、一階には食堂と、訪問介護ステーション、これで2年半で、初期投資が回収できるビジネスモデルだそうです。
訪問介護については、参入障壁が低いため、厳しいかなと思う部分もあります。一方、施設介護については、事業環境も良く、需要も強く、計画前倒しで進んでおり、おそらく、勢いは当分は続くと思います。今中間期で見ると、外食事業の営業利益15億円に対して、介護事業は3億円強、まだまだです。
私は、介護事業だけなら、「買い」だと思います。しかし、ここの魅力は、外食、農業、介護、のシナジーなんでしょうね。外食さえ、ほどほどであれば、あとの新規事業は、期待できるだけに。
今期予想PERでは、40を越えています。割高ですね。ただ、1株あたり予想純利益34円に、株主優待1株分120円をプラスすると、PERは10以下になります。株価は優待が下支えするでしょう。長くなったので、今回は財務への言及は省略(今度取り上げるときに)しますが、株主優待ライフを楽しみながら、成長も見守る。なかなか、いいのではないでしょうか。