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2006.12.26

サイボウズ

 私は、今の職場では、サイボウズのグループウエアを使っています。以前の職場(転職したわけではありませんが)では、IBMのロータスノーツでした。

 言うまでもなく、サイボウズのほうが使い勝手が良いです。それ以前の問題として、グループウエアは、全員が使わなければ意味がないわけで、使い勝手が悪い機能は、年配の人たちは使ってくれなかったりするので、ノーツでは、生かされていない機能がたくさんあったのです。
 ですから、
 
 グループウエアのシェア(2003 → 2005)
1位 IBMのロータスノーツ 43.5% → 29.8%
2位 サイボウズ 16.4% → 25.2%
3位 マイクロソフトのExchange 16.9% → 14.4%

 も、当然の結果なんだろう、と思います。これらの商品を全て取り扱っている大塚商会では、その取扱量は、ほぼ市場シェア連動だそうですが、直近では、サイボウズがトップを走っているとのことです。

 また、恒例の日経コンピューター誌2006「顧客満足度」ランキングで、グループウエア部門で総合第1位なのも、納得です。項目では10の質問があるのですが、そのうち9項目で1位(カスタマイズ性だけはノーツが1位)、さらに、「継続意向度」でも1位でした。
 (顧客サポートの中で生まれた製品が、メールワイズです。「メールサポート奮闘記」参照
 
 では、製品に魅力があるのですから、当然、私は、投資先としてどうかな、と調査したのですが、将来性について「難しくてわからない」のでした。以下は、完全に素人の拙い考えに過ぎません。
 
 まず、サイボウズの将来性を完全に無視して、今のグループウエアだけで、妥当株価を考えてみます。まず、サイボウズ札辻執行役員のインタビューより。
 
 

 —グループウェア市場はあまり大きくなっていく気がしません。イントラネット2.0によって市場は拡大しますか?

札辻氏 いや、市場は変化が無いでしょうね。グループウェアは全体で400億円市場といわれますが、ここ数年間その規模は変わっていません。Web 2.0によって市場は大きくなるかといえば、市場自体は直近では変わらないだろうと思っています。情報共有市場は、大きくならず、中身のパラダイムシフトが起きるだけではないか、と。
 そのパラダイムシフトの中で生き残り、シェアを拡大できるのはサイボウズと考えています。
 (「サイボウズはイントラネット2.0にコミットする」サイボウズ札辻執行役員)


 
 で、サイボウズは、個別の経常利益で、年間で7億円ぐらい。時価総額60億円の、介護ソフトのエヌ・デーソフトウェアの今期予想と、ほぼ同額です。だったら、時価総額も同程度が妥当でしょうか。それでは、あんまりです。エヌ・デーソフトウェアのソフトは、少しだけ見ましたが、しょぼいです。利用者のブログによると、サービスも悪いみたいです。市場も小さく、「顧客満足度」のリストにすら入れてもらえるほどのレベルでありません。
 例えるなら、エヌ・デーソフトウェアは四国アイランドリーグの10勝投手。IBMやマイクロソフトを相手に闘っているサイボウズは、メジャーリーグの10勝投手です。リーグはどこでも、同じ10勝だ、ニッチ市場で、上手に利益を上げていると言えば、それまでですが、利益額が同程度というだけで、技術力の圧倒的な差を、無視していいものでしょうか。サイボウズが四国アイランドリーグに移れば、50勝はできます。(関係ないけどサイボウズは四国アイランドリーグの公式スポンサーです。)
 また、グループウエアは、職場に出勤して最初に立ち上げ、帰宅時に最後に終了するソフトです。サイボウズユーザーの2百数十万人は、ミクシィの5百万人(幽霊会員多し)とは、密度が違う、アクティブなユーザーです。しかし、サイボウズの個別業績予定のユーザー1人あたり売上は、1400円/年、当期利益は12円/年。少なすぎます。これまでは「売切り型」だったから、そういう商売になったのかもしれませんが、「累積型」のサイボウズofficeの年間ライセンスが、10ユーザー8万3000円(2年目から年間保守2万6000円)ですから、今後は、かなり改善されるでしょう。サイボウズ個別の、売上総利益率は95%ぐらいですから、売上増のかなりの部分は利益となります。 
 
 現在のグループウエアという小さな市場で見ると、
【a.大企業向け】IBM、マイクロソフト、日立、NEC、富士通、
【b.中堅企業、大企業の部門】IBM、マイクロソフト、サイボウズ
【c.中小企業向け】サイボウズ、その他
 という感じです。サイボウズは、大企業では、楽天とかKDDIとかには、入り込めているものの、まだまだというところです。しかし、中小企業のIT化の恩恵を一番に受けそうなのは、サイボウズです。
 これから、どうなるのか、わからないですけど、IBMのノーツやマイクロソフトが中小企業に入り込むのは、そういう商品になっていないし、なかなか難しいように思います。この戦国時代、最悪のケースでも、滅びることはないだろうと、思います。
 
 ただ、グループウエアは周辺と絡み合って、より複雑な市場の一部と変化しつつあります。たとえば、Ajax採用のリッチクライアント化(WEBプラウザだけで専用クライアントソフトと同様の機能を実現すること)、マルティメディア化(テレビ会議対応など)、事務系アプリまで巻き込んで、そしてモバイル。グループウエアという範疇を超えて、これまでのIT環境を激変させる全面戦争になりそうです。
 マイクロソフトは、次期officeの「the 2007 Microsoft Office System」に、P2Pを取り入れたグループウエアのGrooveを組み込んでいます。
 一方、IBMも、全面改良の次期ノーツで、マイクロソフトのエクセルやワードの互換機能を提供し、officeを蹴散らそうとしています。
 googleは、グループウエア化しつつあります。
 で、サイボウズは、オープンソースを積極的に取り入れ、他社製品との連携を進めるために、開発用フレームワークCyDE2を、アプリケーションと並ぶ2本柱とし、独自性の強いマイクロソフトやIBMと対抗しようとしています。しかし、ライバルとの規模の差は、織田信長と今川義元ぐらい(それ以上)の違いがあります。一方、WEB技術の積極的採用など、先進性においても、織田信長と守護大名ぐらいの差があります。双巨頭は、パラダイムシフトが起きて欲しくない、いつまでも中世社会が続いて欲しい守護大名みたいなもので、オープンソースを採用するとしても嫌々だと思います(勝手な想像ですよ)。

 昨今、内部統制見直しに絡めて、グループウエア見直しも議題に上がることが出てきているようです。確かに、グループウエアのうえで統制してしまえば、その分、肥大化することになりますが、楽です。さらに、来年4月には、サポート期限切れの、ノーツユーザーが600万人に増えるそうです。これらは、追い風です(もっとも、ノーツ上で構築したソフト遺産は、なかなか切れないでしょうけど)。
 などなど、考えて、グループウエアだけなら、妥当時価総額100億円+αぐらいとしておきます。
 
 さて、ここからです。
 

 青野 わたしたちの思いとしては「世界に通用するソフトウェアベンダー」になりたいのです。そこで、グループウェアにしがみつくのではなく、別のアプローチで世界標準を取るような動きが必要なのです。「世界を取らずして利益を出していて何がうれしいんや」ということですね。青野氏激白! サイボウズがMySQLを採用した理由

 
 5年前なら、サイボウズがノーツに勝とうなんて、夢物語でした。そして、今では、「グループウエア+新市場」の「新市場」が、新しい夢物語になる、とサイボウズ経営陣は考えているわけです。
 
 サイボウズのグループ企業を含めた将来性をプラスした適正株価(適正時価総額)に話は進めますが、連結については、子会社が増えて、前年度との比較が意味をなしません。
 相対的に考えれば、現在の時価総額は、350億円。かたや、米国では、セールスフォースでさえ、5000億円を超えています。マイクロソフトの1000分の1、IBMの400分の1。例えば、オラクルの250分の1、アップルの200分の1。来年に解禁になれば、米国の巨大IT企業にとっては、時価総額1%未満の端金で、日本最大シェアのグループウエア企業が買収できるわけです(もっとも現株主を見ると大丈夫ですが)。
 ミクシィの1600億円、ドリコムの390億円と比べれば、業界水準で、どう見ても安いですし、WEB2.0の先を走っている企業として評価が固まれば、上に上に買われていく可能性があります。
 ただ、私は、そういう裁定的な「買い」はしません。
 
 だとすれば、新市場の価値を考えてみる必要があります。
 が、その前に。
 Googleでは、すべてのエンジニアが仕事時間の20%を自分の好きなプロジェクトに費やすという「20%ルール」があるそうですが、サイボウズ・ラボでは「50%ルール」だそうです。コストを切り詰めて、今年度の利益を出すことに専念している企業と比べれば、財務指標が悪いのは当たり前です。たっだ、それが、消耗する経費なのか、将来への投資なのか、これは、財務諸表からは判断できないものです。例えば、こんな人の50%が、今年度の収益を生まない「経費」というのも、あんまりです。
 
 奥 一穂
 奥氏は東京大学在学中の1997年にPalmscapeを開発。米マサチューセッツ工科大学 (MIT) 発行の技術専門誌「Technology Review」が選んだ若きトップイノベータ100人に、国内のエンジニアで唯一選出された。2005年5月には、未踏ソフトウェア創造事業のプロジェクト「Webアプリケーション(Apache/Perl)統合開発環境の開発」で、情報処理推進機構(IPA)から「天才プログラマ/スーパークリエータ」と認定された。
 
サイボウズ・ラボに入社した世界的プログラマの抱負と横顔


 
 妥当時価総額の算定にあたっては、技術を理解した上で、将来市場予想、将来シェア予想、その実現可能性を乗じた上で、逆算して出すしかありませんが、当事者ですら、無理でしょう。
 よくある、せいぜい、1、2年後しか読めないモンキー企業のように、今期予想に、予想成長率を乗じて、「今期予想は7億円だから、割高だ」なんて計算では、とんちんかん、になります。第一、今は、利益を出すよりも、将来のために費用をかけまくる時期です。
 
 研究開発先行型企業は、どうしても、費用先行型になります。サイボウズも、グループウエア専業からの脱皮、第二創業期なので、当分は、大きな利益増加はないと思います。ただ、アプリックス(今期も未達懸念あり)が、毎年赤字(営業CFは黒字)なのに、業界内の地位を着々と固めていることを、株式市場に評価されていて、四半期決算が悪くても、一時的に下げて、また戻すように、こういう企業は、今の損益だけでは判断されていません。財務面では、損益計算上の利益よりも、キャッシュフローの心配だけしておけばいいと思います(営業CFの黒字は、確保されなければ困りますが)。事業面では、将来に大きなダメージを受ける事態だけを心配しておけばいいのであって、「下方修正」などは、ほとんどは、進展スピードが早いか遅いかだけの問題です。モンキー企業のように、「下方修正」が転落の始まりというようなものとは違います。
 
 さて、日本における、「WEB2.0の伝道師」であり、サイボウズの子会社であるフィードパスの小川COOの、インタビューから、「新市場」のイメージをつかむことにします。
 
 
小川氏 つまり、WebではなくてFeedの世界に集中するということです。Webは面でFeedは線ですね。Feedは単なるWebサイトの更新通知技術から、いまではよりリッチなコンテンツを運び、Feedだけで情報の受発信が成立するほどにまでなってきました。つまりFeedがメディア化しているわけです。僕はこの状態をFeed 1.5と呼んでいますが、人間の目で情報を受け取れる、Feedの可読性がさらに高度化した状態が始まっていると考えているわけです。

 もう少しFeedの進化が続くと、FeedがXMLであることを最大に生かしたWebサービスとしてのFeedの使い方が広がってくると考えていて、この状態をFeed 2.0、と呼びます。Feed自体がWebの機能の一定量を代替していくと予測して、その世界をFeedsphere(Feedの世界)とも表現しますが、feedpathではこの世界でトップとなりたい。だから、GoogleともYahoo!とも今のところは直接競合するモデルではないんです。(略)
 ビジネスモデル的にはiTMSですね。iTMSは、従量制ではない小口データ課金を実現したパイオニアだし、iTunesそのものがFeedリーダーぽいとおもっています。(略)feedpath自体をキャッシュマシーンにしていきたいですね。 (フィードパス小川氏「Feedsphereのトップ企業に」


 
 2009年にはフィード市場は約2000億円程度になるという予想もあります、もちろん、通過点として(去年後半のサイボウズの株価暴騰は、このあたりの浸透過程ですね)。関所型ビジネスモデルとして、本当にFeedsphereのトップ企業になるのなら、フィードパス、ひいては、サイボウズの将来は、かなり明るいと思います。投資家が求めているのは、「技術」ではなく、iPod+iTunesに匹敵する「ビジネスモデル」です。
 
 「技術」の価値とは何で測ればいいのでしょう。マイクロソフトのInternet Exploreや、アップルのiTunesは、無料ですから、それ自体、1円の利益も生み出していません。しかし、「利益ゼロ」イコール「無価値」でしょうか?いえ、「無料配布」シェア拡大戦略の中で、大きな価値となっています。フィードパスの企業の価値も、今、どれだけの利益を生み出しているかではありません。feedpathシェア拡大の戦略と推移、つまり「ビジネスモデル」次第で、大きくもなり、小さくもなると思います。親会社のサイボウズもね。 
 
 現在、フィードはブログやニュースなど公開情報の配信として利用されているが、サイボウズ・ラボでは、さらにグループウェアや商品発送通知など非公開情報やパーソナライズされた情報の配信が可能となるような研究を進めているという。非公開情報をフィードとして配信する場合、RSSリーダーにIDとパスワードなどを伝えなければならず、特にWeb型RSSリーダーなどは危険性をともなう。この問題を解決するソリューションとして、RSSリーダー専用の認証トークンを開発している。これにより非公開情報をセキュアに取得し、本人のみが情報を閲覧することが可能となる。こうした技術拡張により、フィードの用途は大きく広がる。(「RSSフィードはビジネスにどうやってつながる?−フィードビジネスカンファレンス(Enterprise watch)」

 
 「googleは、単なるYahoo!の検索エンジン部分だけの下請け企業に過ぎないのに、なぜ、株価は割高なんだろう」と漠然と考えていたら、気がつけば、すごい企業でした。では、「feedpathなんて、単なるRSS readerに過ぎない」なのか、どうか。
 
 
 FeedsphereはWeb上の世界というよりも、メタデータのFeedの普及によって実現する、便利なリアルワールドのことです。(略)
 Feedsphereは、リアルワールドですから、PCを離れて街に出たときにこそ活用されるべきものです。そのためには、モバイル、すなわち現状では携帯電話がプラットフォームになるはずです。(「続・Feedsphere(フィードスフィア)について」Hiro Ogawa

 
 一部しか引用しませんでしたが、リンク先の全文を読んでください。サイボウズがモバイルに注力するのは、別に「グループウエアをモバイルで利用可能に」なんてことではなく(それもあるでしょうが)、もっと大きいことぐらいは、わかります。今は、キャズム(拙稿参照)の、はるか手前で、キャズムの向こうにどのような市場があるか、さえ、イメージの段階ですが。
 
 もっとも、その小川氏が、今年限りでサイボウズをやめると、ご自分のブログに書かれています。おやおや。
 
 梅田望夫氏は「ウエブ進化論」の中で、WEB1.0とWEB2.0の違いを、述べています。
 
「コンピューターの私有に感動した」世代と「パソコンの向こうの無限性に感動した」世代の決定的違いは何か。(略)「不特定多数無限大を信頼できるか否か」の違いである。(略)本書で詳述したネット上の新事象群に世界中の若者たちが興奮するのは、ネット全体がこの方向に動けば、若い世代に新しいチャンスが巡ってくると直感しているからである。(P223)」
 

 feedpathを、ひいては、サイボウズを、評価する人がいる一方で、全く理解しない人がいるのは、このあたりではないかと思っています。サイボウズの評価に《幅がある》のではありません。断絶があるだけです。後から考えると、それが、《投資家1.0》と《投資家2.0》の断絶だったとなるかもしれません。
 技術音痴の私でさえ、大きな市場が生まれつつあるのは、ほぼ確定ではないか、とは思います。ただ、「サイボウズが、そこでメインプレイヤーになれるのか」と聞かれれば、「日本では、今のところ先行しているかな」という程度の印象です。アップルのiTuneストアが、全部を飲み込む可能性もありますし。
 
 まとめると、完全に、「主観的予想」の世界です。
 強いていえば、「最悪のケース」で、敗退を重ねて中小企業向けグループウエアだけが残ったとすると、時価総額100億円割れ。「最良のケース」で、大化け、米国ビッグネームに近づくかもしれません。当面は両極端がおこらないとすると、その中間の、どこか、でしょう。私の希望的予想は、「やや良のケース」ですが、将来のための大切な資金を注ぎ込むには、あまりにも不確定で、早すぎます。
 ということで、私が買うとすれば、せめて、もう少し、わかる部分だけの妥当株価に近づくか、あるいは、私の知識が増して、理解が深まり、将来に確信が持てるようになるか、あるいは、キャズムを渡りきるか。それまでは、わくわくして応援していきたいと思います。

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