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2006.11.07

メガチップス

 任天堂のニンテンドーDS Liteが、今なお売れ続けています。アマゾンで見ると「この商品は、人気商品のため、お一人様1個のご注文に限らせていただきます。」ということになっています。

 そこで、今更ですが、DS向けソフトウエア格納用LSIを製造しているメガチップスを少し、見てみたくなりました。普段は見慣れていない業界ですから、以下は、にわか勉強です。ここは、任天堂向けの売上が、全売上の8割を占めています。
 
 メガチップスは、持ち株会社で、2つの主要子会社があります。1つ目は、メガチップスLSIソリューションズで、さらに「顧客専用LSI」と「特定用途向LSI」の2つの事業に分かれています。「顧客専用LSI」とは、まさに任天堂向けのカスタムメモリーです。「特定用途向LSI」とは、携帯電話やデジカメ向けの画像処理用LSI、ワンセグ受信用LSIなどです。
 メガチップスシステムソリューションズは、主に「映像監視機器」の開発をしています。
 両子会社とも、生産自体は外部委託しているファブレス企業です。研究開発に経営資源を集中させており、研究開発に携わる人員が半数以上だそうです。
 2つの子会社は、規模的には同程度なのですが、過去に利益を上げてきたのは、前者メガチップスLSIソリューションズだけで、後者メガチップスシステムソリューションズは、06年度3月期に、やっと黒字転換を果たしました。ただ、売上高の伸びが高いのは後者(LSIは、来期売上予想は20%増加。システムソリューションズは、来期売上予想83%増加)です。
 例えるなら、3人の息子がいます。3人とも優秀なのですが、社会人になって稼いでくれているのは、長男(顧客専用LSI)だけ。次男(特定用途向LSI)は、内定はもらっているものの、入社は延び延びになっていて、アルバイト程度の収入。三男(映像機器)は、やっと大学院を卒業したばかり。けれど、これからは、息子が三人とも、大いに稼いでくれるに違いありません。何しろ、教育費をかけてきたのですから。といった状況でしょうか。
 会社計画によると、06期での売上構成比は、「顧客専用LSI」が8割、残りが1割ずつ。しかし、09期では、「顧客専用LSI」が5割、「特定用途向LSI」が3割、「映像機器」が2割、となる予定です。その結果、営業利益総額は、06期の約20億円から、09期の60億円へ、3倍化する計画です。任天堂向けが好調なのはいいのですが、そこからの脱却が課題ということですね。
 
 さて、前回に引き続き、拙稿「損益と営業循環」の応用編として、メガチップスの棚卸資産と売上高の推移です。ここは、ほとんどが受注生産であるため、売れ残る心配はありません。棚卸資産の数字は、ほぼそっくり、将来の売上に直結します。
 
 

 - 棚卸資産売上高受注残
18年度15584,377537
18年度25837,746373
18年度381010,234457
18年度49708,364385
19年度11,2526,857540
19年度22,88911,5481,919

 メガチップスの【年間売上原価/平均棚卸資産=約30】ですから、棚卸資産は、年に30周の「儲けのサイクル」を回っていることになります。2週間弱に1回です。つまり、棚卸資産に計上されているのは、約2週間分ということになります。ですから、棚卸資産の金額から判断できるのは、今後2週間分の業績であり、四半期中あと10週については、わかりません。しかし、勢いの良さは、わかると思います。
 
 さて、せっかく棚卸資産回転率が高いのですが、総資産に占める棚卸資産の割合が低いのです。18.9.30付で、総資産が273億円(生産設備を持っていません)、棚卸資産が28億円です。そのため、総資産回転率となると、年に1〜1.5回転ぐらいとなっています。その理由は、受取手形及び売掛金が145億円もあるのです。任天堂からの入金が遅いのだ、ということでしょう。力関係がはっきり出ています。もちろん、任天堂は優良企業ですから、貸倒の心配はほとんどありません。けれど、任天堂は、常にメガチップス10社分ぐらいを即座にキャッシュで買収できるぐらいの現金を遊ばせているキャッシュリッチ企業です。もう少し、手形短縮化ができないものでしょうか。メガチップスは、常に100億円弱を立て替えているということになります。負債総額(買掛金除く)が40億円程度ですから、メガチップス株主が任天堂に、立て替えているような気持ちになります。資金効率が悪いです。
 
 ちなみに、前回取り上げたフージャースコーポレーションと比べてみます。(貸借対照表上の数字は年間平均化)
 棚卸回転率 x 棚卸資産率 x 売上高経常利益率 = 平均ROA(税引前)
 
メガチップス=31.5回 x 3.5% x 6.9% = 7.6%
フージャース=1.1回 x 74.5% x 16.9% = 13.8%

 結果は、両極端です。フージャースが、回転率の低さを上手に補っているのに、メガチップスは逆です。ただ、業界ごとの特徴は、常にあります(例えば、消費者相手の現金商売では、売掛金なんか発生しません)。ですから、こういう分解は、
(1) 他業界と比較し、どの業界が儲かりそうか、の判断材料とする。
(2) 同業種で比較し、どの企業が経営が優れているか、の判断材料とする。
 という、使い方をするべきで、他業種と比較して、経営能力の判断はできないと考えます。ただ、だとしても、メガチップスの財務諸表的には、効率が悪く、今イチな感じです。ただ、言葉を変えれば、財務的に十分に余裕があり、安定していると表現できます。
 
 以上、財務諸表をざっと見てみました。財務的な心配はないといえます。技術で勝負している企業に、資金の効率性を過度に求めるべきではないのかもしれません。技術があたれば、十分にすごいのですから。私は技術に疎いので、うまく判断できませんが、事業環境は、景気循環的にも、技術の製品化的にも、旬な感じがします。私自身は、苦手ハイテク分野ですから、買うとしても少額です。

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