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2006.11.16

ジャストプランニング

 拙稿「売切り型ビジネス、累積型ビジネス」で、《累積型ビジネス》の典型例としてあげたASP業界のうち、外食関連に関わる企業を取り上げます。

 まず、市場規模の確認からですが、外食業界は、全国に80万店あります。外食向けASPソフトは、多少の変更で、他業界にも展開可能であり、十分に広いことが容易に想像できます。ただ、上記の数字は、零細店も含めてのものですが。
 
 これらサービス店が、ASPを導入するメリットとしては、
(1)IT初期投資が少なくて済む
 (チャーン店になれば、「各店の集計」などのニーズがあり、必要投資額が格段=千万円レベル=に増える。)
(2)常に最新のサービスを利用できる
(3)運用、保守、機能強化は、ASP業者任せにでき、社内に担当者を用意しなくてよい。
 などが、考えられます。
 
 このジャンルに進出している主な上場企業は、ジャストプランニング(以下「JP」)、ユニバーサルソリュージョンシステムズ(以下「USS」)、アルファクス・フード・システム、日立情報システムズぐらいですが、アルファクスは上場直後なのでパス(しかし、興味はある)、日立は専業ではないので、前二者に興味を持ちました。
 ソフト業界は好調に向かっているので、こうなると《売切り型ビジネス》系ほど、業績が伸びそうです。《累積型ビジネス》系は、見劣りします。株価もそうなるかもしれません。しかし、拙稿「シンプレクステクノロジー」にも、少し書きましたが、基本的に、ソフト業界は(大手有名企業を頂点とする)前近代的体質(土木業界と類似)だと思っているので、少なくとも《売切り型ビジネス》系を、長期で持つつもりはありません
 ASPに取り組んでいる企業は多いですが、なかなか判断は難しいですね。とりあえず、片手間にやっているようなところは、対象外とします。
 
 JPは、顧客の80%が飲食系ですが、他にもカラオケ店、レンタルビデオ店、エステ店などに展開しています。
USSも、同様に、介護施設などに顧客層を広げています。
 で、さらに調べてみると、当初、ライバル関係と考えていたJPとUSSは、ターゲット層が微妙に異なり、今までは、あまり競合していないことがわかりました。つまり、客層を事業別で見ると
 
【a.大企業】自前でシステムや専門職員を所有しており、ASPの対象となりにくい。
【b.中堅企業】ASPニーズはあるが、パッケージでは満足せず、カスタマイズ要求が強い。(ASPというよりSaaS)
【c.中小企業】ASPニーズがある。低コスト性が優先する。
【d.零細企業】情報化に、なかなか手が回らない。

 乱暴な分類ですが、上記のようになります。そのうち、USSは、【b】の範囲、情報関連に年間5千万円から10億円程度を予定している中堅企業をターゲットにしています。一方、JPは、【c】をメインターゲットにしています。このように、市場は十分に広く、ターゲットも微妙に異なるため、競合関係は、「自社所有」か「ASP」か、という選択肢にあるようです。で、JPもUSSも、魅力的な企業ですが、今回は、JPを取り上げます。(USSは打診買いしています=費用先行で形式的割安性はありませんが、時価総額35億円は安いと思います。)
 
 JPのビジネスモデルは単純です。主力商品は、多店舗展開経営支援サービス「まかせてネット」です。顧客店舗とJPのサーバをインターネットで結び、JPのサーバでデータを処理し、分析を加えて、顧客本部に送っています。モバイルでも見れます。また、顧客店舗からの小口の発注を、JPのサーバでまとめて大口の発注とし、購入価格を下げるシステムの構成について、特許を出願しています。
 基本は売上げ管理ソフトで、利用料として、一店舗あたり15000円/月。あと、発注や、勤怠管理などは各7000円の追加オプションとなっています。ですから、契約店舗数が増えれば、それに乗じて、売上げが増えることになります。こういうシステムは、一度導入すれば、なかなか解約できないと考えますが、顧客喪失のリスクとしては、下記のようなこともあります。
 

 「自社の顧客を大手チェーンに広げたい」と意気込むのは、飲食店向けシステム開発を手掛けるジャストプランニングの牛久等社長。飲食業界は新旧交代が激しく、「M&A(企業の合併・買収)で、顧客を失うことも多い」と明かす。
 同社の勤怠管理システムの導入店は七月末で三千六百七十店。ソフトの期間貸し(ASP)方式の初期投資や運用コストの安さをアピールすれば、大手チェーンの開拓余地はあるとみる。百店以上の規模のチェーン店の売上比率は三割程度だが、「一、二年で半分以上に引き上げたい」と意欲をみせていた。(2006.10.16 日経産業新聞)

 
 典型的な累積型ビジネスであり、安定したビジネスモデルであることが容易に想像できます(最近、下方修正しましたが、投資評価損が理由です)。ここ数年のキャッシュフローの推移は以下のとおり。
 
年度営業CF投資CF契約店舗数売上高経常利益率(個別)
1432△126不明17.8%
1511967不明24.9%
16223△1872,02034.5%
17313△1892,83039.5%
18351△1563,42044.6%
CFは、18年度のみ連結

 投資は、営業CFの範囲内でおこなっており、お金が貯まっていく仕組みが出来上がっています。
 
 さて、「安定」して儲かっていくことはわかりましたが、「成長」のほうはどうでしょうか。これは、前述のとおり、「自社所有」を「ASP」に切り替えさせる営業にかかっているのですが、JPの営業CFの儲けの主な使い道は、営業シナジーのあるベンチャーに出資し、提携することです。
 投資先は、ニューロン(携帯電話で店の混雑状況を知らせるサービスをしている)、ライラック(携帯電話で客にクーポンを配信したりポイントを付与するサービスをしている)、サクセスウエイ(物流ソリューションをしている。連結子会社)などです。まかせてネットと連携するユニークなサービスや技術を持ったベンチャーへ出資、提携を続けています。出資先ではないのですが、多店舗管理ASPをしているリブオンエンタープライズという会社も、提携先(最初は、ライバルかと思っていました)のようです。
 そのうち、ニューロンのサービス(ePark)を紹介すると、詳細はこちらを、是非に読んでいただきたいのですが、非常に興味深いもので、さらに、パーク24とも提携し、飲食店の周辺駐車場の混雑状況とも連携させています。携帯電話から、飲食店の混雑状況と近隣駐車場の状況を把握し予約ができてしまう、提携を広げることで、個々企業のサービスが、消費者にとって一連となります。飲食店側にとっても、携帯をとおすことで、待ち時間分析のみならず、商圏分析までしてくれるのですから、役立ちます。
  今年になって、こうした各社のサービスをまとめて、営業する子会社グリッドコーポレーションを設立しています。販売促進から経費削減まで、まとめて揃っていることで、アピール度の高い商品となります。
 
 もう一つの大きなトピックが、今年始めに、テレウエイブがJPの6.2%の株を取得し、提携をおこなったことです。テレウエイブは、ヤフーショッピングの営業部隊として、躍進している注目の企業ですが、こちらも《売切り型ビジネス》から《累積型ビジネス》への転換を狙い、今年度から「経営支援サービス」に注力しています。そのためのツールの一つが、JPのまかせてネットというわけです。
 
 テレウェイブの斎藤社長のインタビューを引用します。
 

【斎藤】ヤフーショッピングに出店を申し込む店舗が100店舗あるとします。じつは、半年後に開店できる店舗は20店舗ぐらいしかない。80店舗は開店できずにどこかでつまづく。(略)楽天のターゲットはなんとかして開店までこぎつけられる2割の人たち。私たちは、8割の人々にサービスを提供しているんです。(略)
 ー 競合はありませんか
【斎藤】20人以下の企業のマーケットというのは、入りたくても入れない。マーケッティングコストがかかりますから。サポートコストもかかる。儲からないとみんな思っている。だから逆に、私たちは、何でもかんでも私たちをプラットフォームとして使ってくださいと言っている。そこで、必要なものを必要としている人たちに提供していく。提供できないものは提携して、それができるナンバーワン企業と組めばいいんです。(Financial Japan 05.12)

 テレウエイブを、チェーン店本部と見なした仕組みを作ることで、JPにとっては、冒頭に書いた【d.零細企業】のジャンルへの進出を果たすことになります。ここの営業部隊は定評があるので、お互いにとって、良い提携だと思います(やや、競合しているサービスもありますが)。テレウェイブの資料によると、営業職が、18.3末の353人から、18.6末には、571人に急増しています。新卒が戦力になるのは、これからでしょうか。今後も、大量採用を予定しているそうです。
 
 逆に【b.中堅企業】のジャンルですが、これについては、以前、大口顧客が倒産した経験から、リスク分散として中小をメインにしてきた経緯があります。しかし、JPの規模拡大によりリスクが低下してきている現在、先述の社長のインタビューにもあったように、成長のために美味しい市場を見逃せるはずもありません。既にUSSの主戦場ですが、もっとも、成長が見込める市場だと思います。ただ、要求レベルの高い顧客相手に、まかせてネットで、どれだけ客が取れるのかは、素人の私にはわかりません。
 
 最後に、バランスシートですが、無借金。資産30億円のうち、現金と売掛金で13億円、上記投資先の投資有価証券で16億円、というシンプルな財務状況です。営業循環なしで、貸借対照表上は、収益は、全て固定資産からのリターンという構図です。つまり、上記の表で経常利益「率」の伸びを、是非、見ていただきたいのですが(4年間で経常経費は、17%しか増えていません。連結ですら、職員数は38名です。)、変動経費は少ないのですね。財務諸表的には、かなり、私の好みです。
 キャッシュマシーン化している現在、必要経費は月利用料だけでまかなえると思うのですが、経費1年分以上の現金を保有しており、そこが私にとって、大いに不満です。
 18.10.6には「店舗支援ファンド」を設立しています。
 

 今月中旬。牛久等社長は東京・新宿の高層ビル街にいた。訪問先は企業再生ファンドの運営会社。ファンドに出資し、買収した外食チェーンなどに「まかせてネット」を導入して店舗数の拡大につなげる戦略だ。同様の目的で六本木ヒルズにも、牛久社長はたびたび姿を現す。(2006.10.24 日経金融新聞)

 
 先日は、自社株買いをしています。お金をどう使おうか、と、社長の、楽しい苦悩が、思い浮かぶようです。
 
 《累積型ビジネス》で、この堅固な財務諸表、を考えれば、良い投資先ではないかと思います。ただ、私は、「良い」企業ではなく、「抜群に良い」企業がいいので、前述の社長のインタビュー内容が気になります。つまり、【c.中小企業】集団が【b.中堅企業】集団に飲み込まれていくというイメージです。
 契約店舗数は、毎月、ホームページ上で公開されていますが、契約店舗数が減少する可能性は、このケースを除いては、低いと思います。(最近は、伸びが低めです)。契約店舗数の伸び以上に、利益は伸びると思います。
 また、投資先が、大コケする可能性もないわけではありません。しかし、所詮、営業CFの範囲内での投資ですし、ビジネスを熟知している提携先ばかりです。前期は、投資先のイーコンテクストが上場し、大きなゲインを得ましたが、同様なことが続く可能性も高いと思います。資産の半分は、投資有価証券なので、投資会社という見方すらできます。
  
 少し、業績の踊り場の可能性もあるように思います。購入を決断させる、私なりのポイントは、
1)テレウエイブとの提携の効果が見えてくる。
2)現金を遊ばせず、投資が続く。
 ということになります。

 

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