シンプレクス・テクノロジー
2回目の投稿です。「良い企業」しかし「常に割高」のジレンマから、1株(分割前)株主であるシンプレクス・テクノロジーですが、悩ましい発表が出ました。
業績は、相変わらず好調なのですが、11月8日に、来年3月末までの「第一次中期計画」に続く「第二次中期計画」を発表しました。
まず、第一次中期計画を総括しておきます。「大手金融機関に向けた金融フロンティア領域におけるSI事業で国内NO.1へ」が、目標でしたが、着々と進んでいるように思います。
決算書中の「事業等のリスク」という項目の中でも、
この分野は、経営規模に比例して必要な経営資源が増大するとは限らない分野であり、大手システム会社であってもこれらのノウハウ及び技術の双方を新たに体得することは一般的に容易でないことから、他社の参入は困難であると認識しております。
と自信を述べています。1回目の投稿でも書いたとおり、この業界は、世間の印象とは裏腹に、前近代的体質ですから、シンプレクスのような先進的企業は、その企業体質だけで十分にアドバンテージがあります。かつ、金融業界のシステム投資サイクルが拡大局面に入ってきていますから、イケイケです。といっても、日本の金融機関のシステム投資は、まだまだバック領域(会計システム、ATMシステム、振込決済システム、など)に偏重しており、欧米のようにフロント領域(ディーリングシステム、商品開発システム、など)が半分を占めるといった状況には至っていません。しかし、日本が欧米並みに移行することは、ほとんど疑いがありません(そうでないと、世界で闘えませんから)。そんなこんなで、シンプレクスの未来は、さらに明るいように思えます。(なお、シンプレクスは、バック領域をフロント領域の延長として攻め上がろうとして、合わせてフロンティア領域と呼んでいます)
そして、最重要戦略として、「人材の確保」をあげています。人不足が深刻で、成長の足を引っ張っているようです。
ところが、「第二次中期計画」では、SI事業に次ぐ、第2の柱の育成を明らかにしました。それがユニバーサルマーケットサービス(UMS)事業です。5年後には、営業利益を60億円(5.2倍)とし、既存のSI事業と新規UMS事業の売上総利益(粗利益)額を1:1とする、と述べています。そして、UMS事業へ人材を振り向けるために、現在、絶好調中であり、人手不足が顕著である、SI事業の成長率を年10%に落とすとしています。
将来指向とはいえ、利益拡大にストップがかかります。非常に大胆な方針ではないでしょうか。
これが、できる背景には、SI事業のシンプレクスならではの強みがあります。通常、SI受託開発の場合、顧客にシステムの著作権が引き渡されるのが一般的です。しかし、シンプレクスでは、業務ノウハウの提供・最先端金融技術のトレーニング等を行うことを条件に受託開発の事業形態でありながらほとんどの著作権を留保しています。受託開発プロジェクトを手がけながら、共通コンポーネントとして利用できる機能をシンプレクス・ライブラリーとして蓄積してきたことで、それ以降は、再利用可能なコンポーネントを組み合わせることにより作成可能となるのです。つまり、今後の受託事業は、蓄積してきたシンプレクス・ライブラリー利用により、どんどん開発期間が短くなり、提示価格が低くなり、利益率が高くなっていくということです。
つまり、これから、ライバルと、どんどん差が開いていくのです。
(ユニバーサルソリューションシステムズも、これと似た仕組みです。)
さらに、そのシンプレクス・ライブラリーから、パッケージ売りもしていますし、新規事業UMS事業用の自社システムへの転用も可能です。
で、新規事業を見ていきます。
新規UMS事業は、前年度後半から、松井証券のリアルタイムトレーディングツール「SPRINT」として始まっていたのですが、今では、松井証券の全取引高の16%が「SPRINT」経由だそうです。さらに、三菱商事フューチャーズ証券でも取り扱いを開始しています。携帯電話向けも10月末に始まっています。それが手始めで、続いては、
UMS事業は、まず、金融情報配信サービス(マーケットデータサービス)からスタートし、ロイター/ブルームバーグの独占市場となっている時価配信、ニュース配信をメインターゲットとする。その後その他シンプレクスらしい関連分野にその対象を広げる。当面は自社ASPであるスプリント向けの情報配信で実績を積み上げる戦略。金融情報配信サービスからスタートし、マーケットアナリシスサービスや、マーケットアクセスサービスといった広範な分野に拡大する。
とのことです。そのため、5年間で50億円の研究開発費。これも、企業規模を考えるとなかなかの金額です。(前年度の全ての費用は、売上原価29億円、販管費7億円、総額で36億円です。研究開発費は、63百万円にすぎません。)
ソフトウエア会計については、拙稿「アプリックス」(参照)で書いたとおり、やや特殊です。詳細は、参照先を読んでいただくとして、少し、繰り返しますと、ソフトウエア開発の、最初のマスター完成までは一般管理費の「研究開発費」、それ以降は売上原価の「開発費」となります。
「研究開発費」は、売上高とリンクしてもらえません。
違う事業の例でいえば、マンションデベロッパーにおいて、「販売用不動産」などの棚卸資産を貸借対照表に計上することを許されず、即、費用としなければならないという、のと同じです。マンションが売れるのが、次年度以降なら、費用だけ先行します。しかし、マンションが売れた年次には、過去に費用は計上済みなので、上がりません。
つまり、最初のうちは、かなり利益が圧迫されますが、売上が始まった頃には、費用計上がなくなり、抜群の利益率となる、という仕組みです。
ところが、実際には「研究開発費」と「開発費」の区別が、揺れ動いていて、前掲のアプリックスもそうですし、サイボウズの今中間期の下方修正も、その認識を巡る監査法人との意見の違いが原因でした。
話が、ずれましたが、要は、シンプレクスは、今後、会計制度上、研究開発費が利益を相当に圧迫するであろうということです。しかし、その後は、急速に利益拡大があります。それは、会計制度上、費用が前倒しになるというペーパー上だけの話です。私が、最初に「悩ましい」と書いたのは、今後、数年、シンプレクスが、表面上、かなり割高に見えるだろう、と思うことです。
しかし、そういったことを別にすると、今回の発表によって、この企業は、経営者が優秀であり、長期投資に値する企業だな、ということを再度、確認しました。
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