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2006.11.03

フージャースコーポレーション

 2回目の投稿です。私は、日本の人口は伸び悩んでいるのに、こんなに住宅を建て続けて大丈夫なんだろうか、と思っていました。そんなとき、国土交通省の資料を見つけました。
 

 なんと、世帯数は、この10年で10%以上も増え続けているのですね。これからは、伸びは鈍化はするものの、世帯数増加はまだ続くそうです。
 上記の資料は、いろんな発見があって面白いです。
 例えば、国際比較で、新築住宅着工戸数では、日本が116万戸(H15)、アメリカが196万戸、イギリスが23万戸、フランスが39万戸。日本が、人口比では、新築が、かなり多いことがわかります。
 また、滅失住宅の平均築後年数では、日本が30年、アメリカは44年、イギリスは70年。既存住宅の流通シェアの国際比較では、日本は13.1%、アメリカは77.6%、イギリスは88.8%、フランスは66.4%。日本は、欧米に比べて、どんどん新築して、どんどん消耗する、ことがわかります。これは、資源の無駄遣いであり、おそらく、これからは、国際標準に近づいていくのではないでしょうか。
 国土交通省も、この9月に出した「住生活基本計画」で、次のように書いています。
 

 住宅のストックが量的に充足し、環境問題や資源・エネルギー問題がますます深刻化する中で、これまでの「住宅を作っては壊す」社会から「いいものを作って、きちんと手入れして、長く大切に使う」社会へと移行することが重要である。このような観点から、既存住宅ストック及び新規に供給される住宅ストックの質を高めるとともに、適切に維持管理されたストックが市場において循環利用される環境を整備することを重視した施策を展開する。

 いずれ、なんらかの政策(不動産関連税など)で、手が打たれるかもしれません。
 
 ところで、先日取り上げた、拙稿「損益と営業循環」の具体例を、フージャースの財務諸表で見てみます。ただ、個人に人気の銘柄ですが、私は殆ど追いかけてないので、ピンぼけなことを書いてしまうかもしれません。前稿の応用編という程度の文章です。
 
 

 - 当座資金棚卸資産売上原価前受金
17年度4期△83012,4368,3291,654
18年度1期△4,17513,868342,408
18年度2期△4,50416,8047,5432,074
18年度3期△6,62322,0863,9892,380
18年度4期△12,59427,17710,6502,115
19年度1期△13,02031,2315,3841,853
19年度2期△18,84035,58410,9081,716

 
 まず、当座資金(短期借入金等を減額。ただ、短期も借り換えすれば長期になるので、おおまかな目安程度の意味)が、常時、かなりのマイナスであることが目につきます。株主資本比率が30%を切っていることもあり、「会計の教科書」的には、あってはならない状態です。
 しかし、「安定性」と「効率性」は、相反するものであって、形式的には安定性がなくとも、実質的には安定性が十分に確保されているのであれば、効率性のほうにシフトしているのは、評価できます。
 
 次に、棚卸資産の急増が、目につきます。これも、「会計の教科書」的には、憂慮すべきことです。住宅販売のような見込み生産の場合に、売れ残ったら大変なことになります。しかし、これも、現在の住宅市況なら、むしろ前向きに捉えるべきだと言われているみたいです。
 
 つまり、原則には常に、例外があるのです。「会計本」は、原則しか書きませんから、なぜ原則がそうなるのか、を考えるなら、例外が許される状況も、わかります。例外にこそ、美味しい案件が多いのです。
 
 これを、例えるなら、
 個人投資家が株式投資をするのに、常に信用維持率が40%程度であるようなものです。儲かっただけ、また、借り入れをしています。まるで、DAIBOUCHOU式サイクル投資法のようです。こういう危険は絶対にするべきではないと、どんな教科書でも書くでしょう。しかし、もし、これが株価が上昇するしかない状況ならどうでしょうか。信用維持率が低ければ低いほど、効率は良く、リターンが稼げます。
 マンション業界は、そういう状況なのだそうです。
 
 だとすれば、この棚卸資産の数字(同じ物件が数四半期に載りますが)が、いずれ、売上原価となるのですから、かなりの伸びではないでしょうか。まだまだ、しばらくは、かなりの数字が期待できるかもしれません。
 ちなみに、業績の勢いを見るときに、上記の表の「前受金」は、忘れてはいけません(棚卸資産が、将来の売上原価であるように、前受金は、将来の売上高です)。
 
 以上は、こういう市況が続けば、という話であって、いつまでも続くわけではありません。「会計本」に合わない状況は、いつかは終わります。
 株式相場が上昇していたときには、サルでも儲かっていて、個人投資家は、信用取引きをばんばんしていましたが、相場が下向きになると、上手に手仕舞いできた投資家と、破綻した投資家に分かれました。同じようなことが起こるでしょう。
 おそらく、フージャースは、上手に市況に合わせるでしょうが、同じように、業務を拡大している同業者の中から、資金繰りで経営が傾くものも出てくると思います。
 
 以上は、非常に攻撃的な財務方針だと思いますが、住宅業界では、わりと普通みたいです。これには、業界の特質があります。
 ROAは、総資産回転率と利益率の乗算です。しかし、住宅は、土地の仕入れから、完売まで、相当に時間がかかるので、回転率が、著しく悪いのです。ですから、低回転率を補うために資産に占める棚卸資産の比率が高いのは当然のことで、成長志向なら絶対額を増やすために総資産も膨らませざるを得ず、そのために負債比率を高くせざるを得ないのです。
 損益計算書上は、「売上高」と「売上原価」は同期に計上しますが、実際のキャシュフローは、相当にずれがありますので、資金効率も非常に悪くなります。回転率と資金繰りの関連については、拙稿「アマゾンドットコム」で、アマゾンと丸善を比較したものを参考にしてください。
 もう一つの利益率のほうですが、世間で言われているような「売り渋り」があるのなら、利益率の上昇は、当然に、回転率の低下を上回るものでなければなりませんね。
 
 ROAをより限定的にしたものに、「交差比率(粗利益率 x 棚卸資産回転率)」というものがあります。こちらのページで、いろいろな業界の交差比率が載っていて興味深いですが、例えば、
スーパーマーケット  23.2% × 40.6回 =941.9%
和服・和装品小売   43.7% × 5.3回 =231.6%

 こういうのと比べると、この業界が、いかに、効率が悪いかがわかります。全然ですよね。もちろん、いくら交差比率が高い業界でも、肝心の棚卸資産がすくなければ意味がないですけどね。
 とにかく、財務的に、リスクをとっているということは留意すべきと思います。業績好調なうちは、いくら負債比率が高かろうが、当座比率が低かろうが、問題はありません。しかし、売れなくなってくると、「教科書」に書かれていたことを思い出します(同業者の失敗はチャンスにもなります)。
 日本人は豊かになりましたが、「住」の部分だけは、まだまだ、貧弱です。「住」関連は、これから、非常に有望だと思います。広く、インテリアまで含めた「住環境」という意味です。この攻撃的資金繰りを、他の(交差比率が高い)領域に持ち込めば、もっと良いビジネスになるのに、と思うのは、私だけでしょうか。
  
 もう一つ。もし、フージャースが、賃貸事業に乗り出すとすれば、賃貸は、現金回収が遅れますから、資金繰りの構造を変えていかなければなりません。これも、見ものですね。
 
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1回目  August 12, 2006

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