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2006.10.15

売切り型ビジネス、累積型ビジネス

 不人気連載第三弾です。つい先日、拙稿で【前年度比利益が、20分の1になっても、驚きません。】と書いたばかりのブイテクノロジーが、その3日後に、経常利益75%減の大幅下方修正を発表しました。

私が投稿した時点では、前年度440%成長、今年度50%成長見込みで、PER19という、輝くばかりの割安成長株でしたが、あっという間に、高PER不況株です(第1四半期発表の受注状況を見てたら、予想できたのですが)。拙稿で、景気連動株は、PERなどの指標で、割安になったときが怖い、と書いたとおりになりました。
 
 ところで、アナリストの皆さんはというと、
 

 Vテク
 本日も売り気配から。本日は、アナリストによる大幅な格下げが目立っている。大和総研では10日付で投資判断を「1」から「3」へ2段階引き下げ、岡三証券では10日付で「強気」から「やや弱気」へと3段階引き下げ。前日は一転しての減収減益見通しへの大幅な下方修正を受け、ストップ安比例配分となっていた。(FISCO)

 遅すぎますよね。アナリストを信じて買った人は、どうなるのでしょう。ただ、ブイテクノロジーも同様株も、いずれ、逆に、年間300%、400%成長もありえます(わかりませんが)。企業の性格が、内需株などとは違うのです。
 
 ところで、企業を、違う分類で見てみます。《売切り型ビジネス》と《累積型ビジネス》という分類です。これは、先週末に読んだ「なぜ、あの会社は儲かるのか?(山田 英夫、山根 節著)」で、松下とキャノンの差を見るために取り上げられていた分類方法ですが、企業の性格を説明するのに、とてもわかりやすい分類だと思いました。私なりに、書いてみます。
 
 《売切り型ビジネス》とは、例えば、雑誌の店頭販売です。今月、たくさん売れても、来月はゼロからスタートです。
 《累積型ビジネス》とは、雑誌の定期購読や、新聞配達です。今月、営業が好成績だったなら、解約がない限り、来月の売上げは、その水準からスタートです。
 
 成績が急上昇しやすいのはどちらでしょうか。《売切り型ビジネス》ですよね。(実質で、今月は、前月単月との比較ですから。)ただし、急降下も、起こりやすいでしょう。
 《累積型ビジネス》は、成績急上昇はない(今月は、前月までの累積との比較です)かわりに、例えば、今月の営業成績がゼロであったとしても、売上げは前月並みなのです。安定しています。
 
 《売切り型ビジネス》企業は、将来が不安定ですから、株価が安くなりがちです。そして、数字上の急成長がありがちですから、割安成長株、として、素人投資家に注目されやすいのです。
 一方、《累積型ビジネス》企業は、成長が穏やかです。けれど、企業の性格が、違うのです。
 私は、両方のタイプのどちらが投資に良い、というつもりはありません。しかし、もし、両者が同じ成長率なら、圧倒的に後者のほうがいいでしょう。減益急落もあり得る60%成長と、安定している30%成長は、私なら、間違いなく後者を選びます。逆に、大逆転があり得るのは前者です。
 
 サイボウズとかイーエムシステムズとか、ソフト業界で成功している企業も、《売切り型ビジネス》からASPによる《累積型ビジネス》への転換を図っています。そのことによって、仮に一時的に売上げが減ったとしても、それは前向きに考えるべきです。
 
 さて、話を進めます。《売切り型ビジネス》企業も、また、二つに分類できると思います。《リピート型》と《一回きり型》です。
 《リピート型》とは、日用品とか、食料とか、何度も繰り返して買うものです(普通は、ころころとメーカーを変えたりしません。)。非日常品でも、ファンがついて、何回も買ってくれる(例えば、無印良品とか)のは《リピート型》です。
 《一回きり型》とは、毎回毎回、新たな購買者に営業をしなければならない、もっとも、不安定なタイプです。(多くは)一生に一度しか、利用しない、結婚式場とか、住宅販売とか、は、このタイプでも典型です。
 
 かといって、《一回きり型》と書いた結婚式場業界でも、テイクアンドギブニーズ(拙稿参照)は、私は、リピート型ではないかと思います。確かに、挙式者は、繰り返しませんが、招待された未婚の友人が、気に入って、リピートしてくれる可能性が高いですから。ですから、業界だけでも判断するのではなく、あくまで、個別企業で、個々に、見ていくことが大切ではないかと思います。
 
 《売切り型/一回きりビジネス》が、悪いという意味ではありませんよ。良い企業はたくさんあるし、勢いのある小企業が出てきやすい分野です。言いたいことは、違いを認識しておく必要があるということです。
 
 さて、結論。私が、バリュー投資至上主義を批判しているのは、こうした企業の性格をほとんど無視して、数字だけで比較している場合のことです。投資先の選定にあたっては、リスクとリターンの双方を、勘案しなければなりませんが、数値化しやすいのはリターンだけなので、リスクを無視したおかしな選定がなされがちなのです。
 低PER株を買う理由として、値下がりリスクが低い、と考えていたとしたら、大間違いです。業績下方修正したら、低PER株は、自動的に、高PER株となるのです。個別株投資で大切なのは、リスクとリターンの双方の算定であって、個別株のリスクなんて、数値化は、かなり困難ですから、スクリーニング的な方法には無理があるんです。
 もちろん、割安がいいに決まっています。しかし、その割安とは、個別の業績修正リスクが勘案された「実現可能性を乗じた将来キャッシュフローの総和の現在価値」に対しての割安であり、「会社予想」に対しての割安ではありません。
 
 ビジネス内容への深い理解が、最大のリスク対策となるのです。

 
 □ 過去の投稿「バリュー投資至上主義批判シリーズ」 □
 
 バリュー投資至上主義を批判する
 低PER相場に慣れっこに

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