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2006.10.26

花王

 個人投資家にとって、「花王」の印象は、優れた商品は作っているけど、成熟業界の大企業で、興味が持てない、という意見が、多いのではないでしょうか。私もそうでしたが、

 現在、日経新聞連載中の「企業価値を探る」18.10.13付で花王が取り上げられ、私の興味を引きました。
 
 私は、拙稿「株主のための株主資本比率考」で、株主にとっては、負債比率が多い企業が良い(条件付)と書いた後、何か、具体的な事例がないかな、と思っていました。そこで、上記の記事です。
 
 記事の紹介です。
 花王は、カネボウ化粧品を買収するにあたって、その調達資金4,100億円を全て、「借り入れ」でまかないました。そのため、S&Pや格付投資情報センターから、財務悪化を理由に格下げされてしまいました。普通、これだけの規模なら増資をします。何故、増資を選ばなかったのか。その理由として、株主は、銀行の利息以上を要求するので、「資本コストを下げるため」と書かれています。そして、全額を負債で調達した場合(a)と、増資(株発行)で対応した場合(b)の、資本コストを、
 負債の場合(a)が、4.2%、
 増資の場合(b)が、5.0%、であると算出し、
 それぞれの場合の、DCF法で求めた理論株価を、
 (a)3,361円、
 (b)2,791円 としています。
 この株価自体には、将来CFの予測という前提があるので、正確な意味はありません。ただ、これぐらいの差がつくということです。負債の場合には、利息支払という切迫したものがあるので、経営者は、どうしても、増資という、株主に負担が回る方法を選びがちなのです。花王は、かなり、株主のほうに目が向いた企業ではないかと思います。
 と、決算短信を見てみると、

 当社は、主な経営指標として、「EVA」を挙げており、投下資本のコストを考慮した「真の利益」を表す「EVA」を継続的に増加させていくことが、企業価値の増大につながり、(略)「EVAを増加させること」を事業活動の目標としており、(略)

 と、はっきり書いてありました。
(注)EVAとは、税引き後営業利益ー(投下資本 x 資本コスト)
 
 で、さらに、企業そのものを、調べてみると、
 何と、昨年度まで24期連続で経常利益増益(06年度は、たった0.2%-カネボウ分除く-の差で途切れましたが。売上高、営業利益は、06年度も増収増益です。)。この会社には、バブルも、その後の長い不況も、関係がなかったのです。昔、23歳で入社した花王社員は、47歳まで、増益しか知らなかったことになります(何と幸せなサラリーマン!)。コストダウンについても、定評があり、「トータルコストリダクション」と呼ばれる経費削減活動によって、年間に1,000件のコスト改善策に取り組んでいるそうで、売上高営業利益率も、9.9%(99年)から、12.4%(06年)へ、規模を思えば、見事な改善が続いています。
 そのうえ、16期連続で、増配。16年前に、花王の株を買った株主は、まだ、増配しか知りません。
 99年度から7年連続で、自己株式取得。その総額が3,037億円(現時価総額の、何と、1/6)。何と、株主思いの企業なんでしょうか。
 増益のうえ、自己株取得となれば、1株利益(EPS)は、下記の表のとおり、右肩上がりです。ところが、PERは、下がり続け、その結果、株価は、ずっと、2000円から3500円のボックス圏だったのです。これだけの株主思いの企業が、株式市場から、気の毒なほど、報われていないです。
 
 
年度1株利益PERROE
99年度56.046.77.9
00年度83.537.611.3
01年度96.732.712.7
02年度100.424.213.1
03年度108.022.214.2
04年度119.120.015.5
05年度131.218.816.5
06年度130.623.714.9

 06年度は、カネボウ化粧品買収後ですので、少し、悪化しています。
 
 その理由は、容易に想像できます。花王は、コモデティ業界、モンキー企業だからです。どんなに、頑張って成績を上げても、株主は将来に期待が持てないのでしょう。2006決算説明資料によると、02年を100としたトイレタリー15品目の消費者購入単価は、93まで下がっています。デフレの影響でしょうか。モンキー企業にとって避けられない消耗合戦なのでしょうか。
 しかし、逆に言えば、この業界で、この素晴らしい成績を残すということは、経営が、いかに素晴らしいかということではないでしょうか。
 
 あとは、成長戦略を描けるか、ということなのですが、06年決算説明書には、成長戦略のトップに、「ビューティケアとヘルスケアの事業領域での成長の加速」とあげられています。そのための、カネボウ化粧品の買収なのでしょう。花王の基礎化粧品は、最高級品でも、1万円程度。一方、カネボウの最高級クリームは、40gで12万円!。花王の技術力は、高い評価を受けています。機能も、品質も。しかし、その花王に欠けているもの、それを手に入れようとしたのでしょう。
 
 商品に対するニーズも、単に“機能・品質”を求めるだけではなく、“情緒性”すなわち心の満足を求める傾向が強くなるなど、様変わりしてきています。(略)
 キーワードは、“成長”の一言に尽きると思います。今こそ、当社グループの総力をあげて、新たな成長・発展に向かって進むべき時です。(略)
 そして、当社グループの成長戦略の加速とさらなるレベルアップのために、昨年7月にはプレステージ化粧品ブランドを有する英国のモルトン・ブラウン社、そして本年1月には株式会社カネボウ化粧品の株式を取得し、ビューティケア事業の充実・拡大の基礎固めを行なっています。(略)(花王ホームページ:株主・投資家の皆様へ

 
 必要だったのは、日用品企業からの脱却だったのではないでしょうか。この組み合わせは、とても面白いと思います。
 国内シェアは、これで、資生堂に並びかけています。しかし、花王の化粧品以外の分野を含めると、企業規模では大きく上回ります(総合的に3倍ぐらい)ので、化粧品に経営資源を集中投入すれば、資生堂はたまりません。
 (もっとも、花王の化粧品事業の利益率は低く、利益ベースでは、花王の全事業の1/20ぐらいにすぎません。)
 花王と、元カネボウですが、研究開発と物流面での機能統合で効率化を図っていく一方で、ブランドは維持し、美容部員などは販売の最前線で競わせる方針だそうです。元カネボウの販売員には、花王アレルギーがあるそうで(日経BP記事:花王トップが語る買収カネボウの自主独立)、統合効果がどのように出るのか、未知数の部分も大きいと見られているようです。
 
 化粧品については、私は疎いので、例によって、詳しいブログの紹介です。化粧品業界NOW! ☆コスメティック・インダストリー☆というブログで、花王とカネボウの統合問題を取り上げています。それ以外にも、化粧品業界の抱える課題が、よくわかります。
 
 IR発表資料花王の成長戦略とカネボウ化粧品とのシナジーによると、ここ数年は1〜2%/年だった化粧品事業の売上高成長率を、2006年度から2010年度まで、4〜6%/年に加速させようとしています。もちろん、一株利益の増は、これを上回るでしょう(と、期待)。
 
 私自身は、時価総額の小さい企業が好きです。成長期待だけでなく、部門や製品数が多いと、全体像がわかりにくいというのもあります。しかし、ポートフォリオ上のバランスも必要ですし、時価総額の大きい企業も、少し、考えてもいいかなと思っています。
 
 その場合、私の投資方針とは一致しませんので、主力銘柄にはなり得ないですが、長期投資、中期投資とは別に、「おまかせ銘柄」という別枠を作ってみます。現在では、「さわかみ投信」だけが、そこに当てはまっていますが、要は、事業内容や業績を細かく追ったりせず、経営陣の能力を信じてまかせてみようという「枠」です。花王の規模なら、事業を見ていくのは私には無理(シャンプーや洗剤の世界展開の行方、なんて、わかるわけない)のですが、こういう、おまかせするしかないジャンルの株だけ、集めるというわけです。
 先日、花王は、通期の経常利益の減益を発表しました(カネボウ分がなければ増益のようです)。株価が下がっても、自社株買いが有利になるだけなので既存長期株主も不満はないでしょう。私は、ゆったり、買いを検討する時間ができました。

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