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2006.10.08

貸倒引当ターンアラウンド

 東京三菱UFJ銀行は、18年4月期決算で、税引き前利益で、前年度比2.3倍という大きな増益を発表しました。その中で、目を引いた項目があります。

 

-17年4月期18年4月期
貸倒引当金戻入益450億円3,561億円
税引前利益6,554億円15,070億円

 増益分のうち、17年度はそれほどでもありませんでしたが、18年度は「貸倒引当金戻入益」という項目の影響が非常に大きいのがわかりますが、これって、何なんでしょうか?
 
 まず、貸倒引当金の説明をします(銀行はやや特殊なので、一般論として書きます)。
 会計上、引当と呼ばれるものには2種類あります。
 貸借対象表の、負債の部に計上される「負債性引当金」
と、資産の部に計上される「評価性引当金」です。この2者は、名称は似ていますが、性質は全く別物です。
「負債性引当金」とは、将来の出費の原因が今期にあるものを今期に積み立てておくというものです。退職給付引当金とか、ポイントカード引当金とか、いろいろな種類が考えられます。
 もう一つの「評価性引当金」(貸倒引当金含む)とは、これとは、全く異なり、将来のための負債ではありません。別の言葉で書くと「評価損」のことです。貸付債権や売掛金などは、通常は相手方から同額が回収できるはずのものです。しかし、相手方が倒産したりすると回収不能となります。そこで、その回収不能見込みの金額を、貸付債権等の評価損として、「貸倒引当金」という項目で、資産の部でマイナス計上するのです。
 つまり、今のところ決算書ペーパーだけの数字です。
 
 では、次に、貸倒引当金の計算方法を説明します。これは貸倒リスクにより分類され、高リスク債権は担保額か保証額を考慮し評価するか、割引キャッシュフローによって評価することになります。
 
(1)一般債権
 経営状態に重要な問題なし。
 → 一般債権総額 x 貸倒実績率(例えば3年)
(2)貸倒懸念債権
 債務の弁済に重要な問題が生じている等。
 → 回収不能見積額により算定(財務内容評価法)
 → 割引キャッシュフローと債権簿価の差額を計上
   (キャッシュフロー見積法)
(3)破産構成債権
 実質的に経営破綻に陥っている。
 → 回収不能見積額により算定(財務内容評価法)
 
 この3分類に分けて、計算されるのですが、ここで、考えてください。(1)で、正常債権に実績率を乗じて、(2)(3)を加えると、重複している感じがしませんか。そう、どうしても、多めになりがちなのです。
 
 まだ、あります。
 拙稿「損益とキャッシュフロー」にも通ずるのですが、例えば、サラリーマンA氏が、5000万円の銀行ローンを借りて、5000万円相当の自宅用地や建物を買ったとしましょう。そして、土地が値下がりして、時価評価が4000万円となったとします。すると、資産が4000万円しかないのに、負債が5000万円もあるということになり、ペーパー上は、1000万円の債務超過となってしまうのです。これを、サラリーマンA氏は懸念先なので、貸倒引当金を相当に積まなければならないという理屈も可能です。もちろん、実際には、サラリーマンA氏は、給料から、きちんとローンを払っていますから、キャッシュフロー上は問題がないですから、いずれ貸借対照表も改善し、結局は、正常債権という位置づけに変わるでしょう。(これは、例えばの話ですよ。銀行がいちいち、サラリーマンを査定しませんから。)

 このように、貸倒引当金は、多く積みすぎる仕組みにあります。ですから、費用として利益を下げすぎた分を、将来、収益として戻し入れ、利益にする必要が出てきます。それが、「貸倒引当金戻入益」なのです。
 
 このように、貸倒引当金によって、大きなマイナスが出た企業は、戻入益によって、決算書ペーパー上、V字回復することがあります。

 ところで、このV字回復を、1年の間にやってしまった銀行があります。琉球銀行です。
 

-純利益
03年3月期4,482
04年3月期4,888
05年3月期6,063
(06年上半期)(△11,052)
(06年下半期)(12,427)
06年3月通期1,375

 06年3月期は、前半に出した大きな貸倒引当金を、後半に減らしています。もちろん、自力で、こんなことはできません。この話の続きは後日。

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