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2006.10.20

ナルミヤ・インターナショナル

 国民的アイドルであったSPEEDやモーニング娘。に愛され、時代の先端企業として絶頂にあったナルミヤが、絶不調です。このまま、沈むのか、それとも回復はあるんでしょうか。

 下記はナルミヤの業績の推移です。
 
 

-売上高当期利益利益成長率
12年1月期15,927127-
13年1月期18,188654414% up
14年1月期22,63580422% up
15年1月期29,5991,19849% up
16年1月期35,3192,20383% up
17年1月期35,7902,0109% down

 このとおり、12年度から16年度にかけて1600%という驚異的な成長で、勝ち組企業と絶賛されていました。ところが、
 
  
次期業績発表日売上高予想次期利益予想翌日株価予想PER
17.3.1836,0732,091340,000PER15
17.6.1532,5361,632257,000PER 14
17.12.1529,959925205,000PER 20
18.3.1530,0341,036240,000PER 21
18.6.1526,53734115,000PER 369
18.9.1426,6193070,200PER 255

  
 17年度1月期と比較すると、売上高は30%ダウン、株価は80%ダウン。株価が下がるのに、PERが上がるという、典型的なバリュートラップに陥ってしまいました。たった2年前の新規上場の頃には、PER10台の割安成長株だったのに、株価が1/5になったうえ、PER200を超える割高株、業績悪化株となり、ほとんどの投資家からは見放され、例えば、「はっしゃん式長期株投資(宝島社)」でも、カジュアル衣料業界8社中最下位の「投資不適格」評価となっています。
 月次情報を見ても、言い訳ばかりが並んでいて、かなりひどい状況です。
 
 しかし、私は、もし、いずれ反転すればすごいことになるのではないかと考えました。
 
 考えてもみてください。
 もし、タイムマシンがあれば、いつに戻りたいですか。私は、2003年6月の日経平均7000円台の時代に戻って、当時は負け組と見放されていた銀行株や鉄鋼株を、思い切り買い占めたいですね。
 もちろん、全体相場があの頃に戻ることは当分はないとしても、個別に、【2003年6月状態】株は存在しているはずです。誰からも見放され、負け組と烙印を押され、密かに反発を狙っている【再チャレンジ】株があるはずです。人気株は買われ過ぎ、不人気株は売られ過ぎ、が、市場の常ですから、掘り出し物があるはずです。
 
 で、妄想してみました。
 もし、ナルミヤの業績が反転すれば、株価はどうなるのでしょうか。ナルミヤの場合は決算書が単純で、固定費用、流動費用の区別が簡単なので予想しやすいのですが、計算すると、おおまかに次のようになりました(大雑把です)。
 
 
売上高の仮定300億円350億円400億円
予想経常利益15億円36億円58億円
PER20とした株価170,000410,000662,000
現株価との差2.4倍5.9倍9.5倍
備考H15,H18の水準H16,H17の水準

 もし、業績が反転すればですが、好業績人気株とは比べ物にならない高パフォーマンスが、ありえます。アパレル企業は典型的な、売切りビジネスです。ポイントやハニーズなどは、PER30程度は買われていますが、成長織り込み済みで、これほど大きく上昇する可能性は、ないと思います。
 
 ナルミヤは財務は堅実で無借金経営です。総資産から、有形固定資産や負債を差し引いた、換金性の高い資産が65億円ほどあります。16年度に42億円の、17年度には37億円の経常利益を上げ、上記65億円の資産を持ち、さらに棚卸資産が17億円ある、ナルミヤの時価総額が、77億円ほどです。負け組の悲哀とはいえ、かなり安いのではないか、と思います。
 
 とはいえ、業績が反転しなければ、買えるはずはありません。
 そこで、ビジネスモデルを見ていきます。All Aboutの、こちらの記事(ジュニアファッション花盛り ナルミヤ大ヒットのマル秘策)の説明がわかりやすいですが、ナルミヤは、誰も参入しようとしなかった空白地帯であったジュニア服に、あえて進出した市場創出企業です。ナルミヤ社長のビジネス論は、「少子化だからジュニア市場」「デフレ時代だから上方向への価格破壊」「手間のかかる多品種少量生産主義」「スターデザイナーではなくチーム体制」などなど、他者とは正反対、はっきり言えば、変わりものです。 
 例えば、ナルミヤの販売スタッフは、保育士の資格を持つような人材を採用し、ジュニアとのコミュニケーションを重視しています。それは、人件費を徹底的に押さえて、「物」を売ることに特化し成功を収めている西松屋の対極にあります。ナルミヤと西松屋は、二極化の両極にあって、これらを比べるのは、吉野家と高級レストランひらまつを比べるようなものです(こちらの経験が、面白いです。)。
 ちなみに、節約と贅沢は、(ひらまつで食事をするために、普段は吉野家で我慢するみたいな)補完関係にあって、普段着が安ければ、晴れ着にお金がかけられますので、西松屋は、ライバルではないと思います。
 
 
 ファンというのは、単なる顧客よりもブランドやショップスタッフとつながりの深い、きわめて精神的なものなんですね。いろんな意味でお店を助けてくれるしブランドを支えてくれている。私は会社やブランド、お店のファンをどれだけつくれるかが、これからのビジネスの成功のカギになると思っています。(略)
 だから、スタッフには子供たちとはできるだけいろいろな話をして、「こんなファッションショーが見たいな」とか、「雑誌のモデルと握手してみたい」といった子供たちのナマの要望があれば、それぞれの店でできる限り実現するよう指導しています。
 店のスタッフに対して、「このお姉ちゃんと付き合っていると、いろいろ連絡してくれるし、楽しいことがある」と思ってもらうことで、ブランドと子供たちが一体化していくんです。(「9割反対、だからうまくいく」成宮雄三著 P158)

 
 よく、ナルミヤの業績低迷について、少女たちに飽きられた、という指摘がされます(例えばこちら)。確かに、「子供っぽいのには飽きた」という少女もどんどん出てくるでしょう。しかし、少女は大人になり、市場から出ていきますし、また、下のベビー市場から、どんどん入ってきます。入れ替わりの激しい市場です。
 そんな中、私は、「キャラクターって飽きるものかな?」と、思うんです。確かに、個々の子供の成長過程でみると、キャラクターやアイドルの乗り換えは、出てきます。しかし、全体として「ミッキーマウスは飽きられた」「キティちゃんは飽きられた」という声は、あまり聞きませんよね。それは単に子供の成長だけを示しているに過ぎないからです。
 キャラクターとは、自分と一体化して安らぎを求めるもので、刺激を消耗する「玩具」とは違います。子供は、成長過程で巣立ちも求めます。しかし、ハローキティが不遇の時代を乗り越えて、また、大人の女性の心をつかんでいるようなこともあるのです。単純に、飽きる飽きないという切り口は、乱暴だと思います。
 
 ナルミヤの不調の理由は、素人の私ですら、見当がつきます。
 一つ目は、ローティーンアイドルの不在です。
 二つ目は、高級路線を堅持するあまり、百貨店出店にこだわりすぎて、SC出店への対応が遅れたことです。
 三つ目は、顧客が求めていたものと、提供したものがずれていたことです。例えば、下記は、18.9.14付中間決算短信ですが
 
 「お姉さんライン」の投入により、従来型のキャラクターを多用したアイテムの生産量を制限したため、従来型アイテムの在庫不足を招き、販売機会を逸する結果となりました。(P4)

 
 何をやっているんだというかんじですが、長期低迷を余儀なくされるような構造的な問題は見当たらず、いずれも対処可能な課題だと思います。また、一時の熱狂の反動にもあるでしょう。中古市場には、頑丈な作りであるナルミヤのジュニア服が大量に出回っていますから、そちらへも客は流れているかもしれません。
 しかし、それを乗り越えれば、また、成長路線への回帰も可能だと考えています。ナルミヤインターナショナルは、その名のとおり、世界市場への進出も開始していますが、ジャパニーズポップの「カワイイ」は、世界の子供たちの共通語なのです。
 
 ナルミヤは、投資家からは、「ジュニア服業界」に位置づけられていますが、それでは、可能性を見誤ると考えます。その目指しているところを、成宮雄三社長が述べています。
 
【成宮社長】私どもがやろうとしているのは、洋服だけではなく、生活全般のプロデュース的なことをしていきたい。大きな子どもたちの生活総体の演出をやりたいと考えています。
(NHK経営羅針盤より)

 
 ナルミヤの店舗展開(多くのブランド毎に小さな店を作り、集積して「ジュニアシティ」という街とする)についても、こう書いています。
 「ディズニーランド」も、子供と一緒に親子三世代で楽しめる代表的な場所ですよね。(略)ナルミヤも、子供たちが家族と一緒に来ることができて、家族みんなで楽しめるファッション界のディズニーランド的な存在になれたらいいなと思っているんです(「9割反対、だからうまくいく」成宮雄三著 P148)

  さらに、
 欧米などでは、ホームパーティなどがしょっちゅうあるし、地域や学校の行事にも子供がおしゃれをして参加できる場がたくさんあるのに、日本の子供たちには、そういう機会が少ないんです。(略)だから、ウチでは、子供たちがおしゃれが楽しいと思えるような機会を、積極的に提供しようとしているんです。たとえば、新作発表のファッションショーやモデルとの撮影会、モデルによるサイン会など、様々なイベントがそうですね。(「9割反対、だからうまくいく」成宮雄三著 P132)

 
 ナルミヤが、目指す方向は、ライフスタイル提案、例を挙げれば、無印良品やフランフランの、少女版だと捉えています。市場は相当に広いと考えます。
 例えば、下記の記事をご覧ください。
 
あさひ(2部) <3333> が大幅高となっている。(略)自転車については「単なる乗り物ではなく、健康やファッションの側面から注目されている」(同)という。子供服で有名なナルミヤのキャラクターブランドを採用した自転車などが伸びている。
 ラジオ日経2006/9/26

 
 他にも、ナルミヤは、雑貨、文具コスメや、アクセサリー家具をはじめとして、いろんな企業とコラボをしています(コラボがいいのかわかりませんが)。芸能プロとのコラボ、シンデレラオーディションホテルニューオータニ幕張とリゾートルームなんてのもあります。
 
 それを表す、キャラクターのロイヤリティ収入のほうは、今期予想で5億円と、まだ、少額ですが、おそらく、将来的には、そちらが主力で、ジュニア服のほうが部門の一つとなるのではないでしょうか。

 拙稿「損益とキャッシュフロー」で書いたとおり、私が生まれて始めて買った株は、最悪期のアップルコンピューターです。株への興味というより、企業応援のために買ったのですが(だからこそ、誰からも見放されている株が買えたのですが)、復活時の株価上昇力を見て、株への関心が本格化してしまったのです。
 株の世界において、もっとも、大きなパフォーマンスが期待できるのは、誰からも見放されている株が復活していくときなのです(拙稿「少数派のススメ」参照)。
 
 ターゲットが違うので比べるのも変かもしれませんが、ユニクロのファーストリテーリングも、ブームとなった2001年8月期をピークに大きく落ち込みましたが、2年後が底で、そこからまた、成長路線に回帰しています。
 
 もっとも、ナルミヤは、業績の反転がないと、まだ買える状況ではありません。真底で買おうなどと欲を出すと、このまま下降が続く可能性もなきでもなし。また、店舗整理に大ナタを振るって、特別損失を出す可能性もあります。スパークスが、夏に大量に売切っているのも、気になります。
 しかし、買う日が来たらいいと、着目していきたいと思います。四季報などの予想は、回復は2、3年は先、とのことですが、四季報予想よりは、ずっと早いような気がします(勘にすぎません)。

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