リサ・パートナーズ
H.18.3.17付で、リサから2つのIR発表がありました。ひとつは、「沖縄県における官民一体中小企業再生ファンドの組成について」というリサの得意分野のもの。中小企業基盤整備機構関連としては、愛媛、埼玉に次ぎ3件目です。しかし、もう一つは、不思議なIRでした。
それは、「大口貸付債権の取得のお知らせ」というもので、それを取得するSPCへの出資額が70億円ということの他は、どの金融機関から、どのような債権なのか、ということが全く述べられていませんでした。その後、3.22付で、その内容が明らかになります。それは、「株式会社國場組(沖縄県)の事業成長および財務基盤強化を目的とする覚書締結および貸付債権取得に関するお知らせ」で、相手方は複数の金融機関となり、出資額も10億円増えて、80億円となっていました。
さっそく、國場組について、ホームページで調べてみると、建設業、流通業、外食、などなど、沖縄の様々な方面に手を出している企業で、関連会社が、沖縄サミットのメイン会場であるホテルのブセナテラスを所有していることが目につきます。社長の國場幸一氏は、沖縄経済同友会の代表幹事として、よくニュース(例えばこちら)に出てきているようです。県幹部と、海外へ、誘致招致活動などに同行しているニュースもあり、沖縄経済界の大物であることは間違いなさそうです。一族には、元衆議院議員や、県会議員(沖縄県自民党青年局長)などもいます。
そのような、沖縄の政財界に深く根を下ろしている國場組ですが、よくあるパターンで、バブル期に大きな借金をつくります。それでも、既に650億円を返済し、残りは280億円となっていたのですが、ここに会計のグローバル化という嵐がやってきます。
國場組は、3期連続で25億円以上の経常利益を出すなど、再建は軌道に乗っているように見えたのですが、減損会計導入に備えて、固定資産処分に動きます。そのことで、含み益が表面化し、債務超過となってしまうのです。これは、拙稿「貸倒引当ターンアラウンド」のサラリーマンA氏の例と同じで、貸借対照表だけのことで、キャッシュフロー、つまり、返済には大きな問題はないはずだったのですが。
悪いことに、國場組に130億円ほどを融資していた琉球銀行に、17年7月に金融庁の検査が入ります。そして、國場組をはじめとする貸付債権の貸倒引当の厳格化が迫られ、中間期経常利益が、40億円の黒字見込みから、180億円の赤字へと、大幅下方修正してしまうのです。困った、琉球銀行は、年間決算を黒字化するために動きます。そこで、琉球銀行が泣きついた先が、リサパートナーズです。國場組への融資債権は、会計ルール上、債権評価額が大幅ダウンしただけのことであり、実際には、きちんと返済してくれる貸付先なのですから、売却すれば、貸借対照表上の評価額よりも高く売れます。そこで、國場組への融資債権を売却しようとしたのです。そのことによって、赤字幅を減らそうとしたのです。このあたりの経緯は沖縄タイムスの記事に書かれています。最初に書いた空白の数日間のドラマは、こうした3月期末直前のドタバタだったのです。
リサが、國場組向け債権をいくらで買い取ったのか、公表されていません。もちろん、リサに十分なメリットがある取引だったのでしょう。
しかし、私が、もっと意味があると考えるのは、沖縄有数企業である國場組に3名の取締役を送り込み、沖縄政財界に太いパイプをつくったことです。美味しい案件がこれから、優先的に、リサにもたらされることが容易に想像できます。
國場組への債権自体は、年内に200億円が返済され、残りも、来年度中には返ってくる見込みだそうです。そもそも、銀行は、お金を融資するのが仕事ですから、本当はお金を貸したいのです。不良債権となってしまったために、やむなく手放してしまっただけのことです。國場組が、健全な企業に生まれ変われば、融資先として、魅力的ですから、リサは、銀行へ、バトンタッチできるのです。
さらにいえば、不良債権を健全化するのが銀行の仕事ではないのか、という突っ込みも正当ですが、おそらく、地銀にそれだけの能力がないのでしょう。その後、18.5.11付で、リサは國場組との共同プロジェクトとして「國映館」跡地再開発プロジェクトを発表していますが、これは、那覇市のメインストリート国際通り(観光客の往来が非常に多く,1日約2万人の通行量がある)にありながら、2002年に閉館されたまま放置されていたものだそうです。この4年間、融資先の琉球銀行などは、一体、何をして時間を費やしていたのでしょうか。そして、18.10.10には、「國映館」跡地の、公募プロポーザルコンペティションの1次審査の結果発表がありました。若手建築家の競演で、期待が伝わってきます。これら一連のことは、地銀の無能ぶりと、対比して、リサの能力の高さを沖縄経済界に見せつけた結果となるのではないでしょうか。
18.6.20には琉球銀行も、リサと業務協力提携を結びます。
以上、沖縄の事例を取り上げましたが、大小はあれ、リサは、全国の22の地銀、信金、と個別の業務提携をし、官民一体ファンドを含めれば、約50の金融機関と提携しています。これだけ多くの地銀等との事業提携のIRが出てくる企業は、ほかにないでしょう。
金融機関の不良債権問題など、過去のことのようなイメージですが、琉球銀行の事例を見るように、現在進行形なのです。(拙稿「貸倒引当ターンアラウンド」で書いたように、これからも面白い事例が出てきそうです。)もし、金融庁が全国の地銀などへ出かけていって、もっともっと激しく査定してくれればくれるほど、助っ人としてのリサの働き場が増えることになります。事業再生企業はたくさんありそうに思うのですが、なぜか、常にリサであり、この信用力こそがリサの財産なのです。
以上、事業再生案件の「質」つまり、案件発掘力に関しては、リサが圧倒的に有利なポジションにあることがわかったと思います。次は、案件の「量」を見ていきます。
リサの場合、おかしなオフバランスはありませんので、バランスシート上の資産を増加を見ていけば安心できます。
(1)流動資産/棚卸資産
7,091(17.12.31)→13,611(18.6.30) 1.9倍
(2)流動資産/買取債権
7,588(同上)→35,131(同上) 4.6倍
(3)固定資産/投資有価証券
4,745(同上)→8,187(同上) 1.7倍
ちなみに、投資有価証券が固定資産なのは、現金化が1年以内外とは関係ありません。拙稿「アセットマネージャーズ」で説明したとおり、まったく同じものを、アセットは、営業循環基準により、流動資産に分類してます。リサの会計処理は、保守的なのです。
さて、以上は、前年比ではありません。半年前比です。かなり、拡大ペースが早くありませんか。
以上は、自己投資ですが、運用分としては、
(1)不動産
1200億円(17.12.31)→ 1400億円(18.6.30) 1.16倍
(コミットメントベース)
(2)地域再生ファンド
77億円(17.12.31)→ 116億円(18.6.30) 1.5倍
不動産については有名なので、ご存知の方が多いと思いますが、ソロス氏との共同です。ソロス氏については、「映画を見ながら株式投資」さんのこの記事に書かれているので、ご覧になってください。「映画を見ながら株式投資」さんのブログは、このほかにもリサを丹念に追っておられるほか、投資センスに秀でています。おすすめです。
以上、簡単に書いてきましたが、投資業務が「加速」しているのが、わかると思います。
ちなみに、井無田社長は、マックユーザーです。社内の大勢ウインドウズ派にいじめられながら、と笑って語っておられました。社長の作られたプレゼン資料は、パワーポイントではなく、キーノートなので、他の社員が作られたのか、社長ご自身が作られたのか、説明会でも、よく、わかりました。
私も、新しいマックを注文しました。13年のマック歴で7台目(サブ含む)。まあ、アップル株での儲けの、お返しです。