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2006.09.21

住友金属鉱山

 先日の、ロシアによるサハリンショックで、資源の奪い合いは、今後、大きな問題になりそうだな、と改めて考えました。そこで、日本一(?)の資源企業である住友金属鉱山を取り上げます。

 住友金属鉱山は、金(ゴールド)が高騰するたびに個人投資家に人気化する銘柄です。強気派の言い分は次のとおりです。

「住友金属鉱山が保有する鉱山の埋蔵量は、数兆円分に達するが、企業時価総額は数千億円に過ぎない。外資によるM&Aが可能になれば、買収対象となるは必至。しかし、住友グループがそれを黙ってはいまい。時価総額はつり上がるであろう。」

 たしかに、住友金属鉱山のホームページを見ると、住友家が、別子銅山から始まるもので、住友金属鉱山が、住友グループの本家本元であることがわかります。上場企業1社のほかは、主に海外投資先ですが、投資有価証券が2334億円もあって、今決算の「その他有価証券評価差額金」が、この1年間で200億円も増えています。これは、アセットマネージャーズの投稿で、説明したように、利益には計上されないものの、実際上の増益です。これだけでも、景気が回復してくれば、たいした金額になります。
 プライドにかけても、住友グループとしても、乗っ取られたくはないでしょう。

 さらに、こういう強気の言い分もあります。

「1850年代からの南アフリカの金鉱脈発見発掘で、ロスチャイルド家は、世界的大富豪となった。しかし、南アフリカの金鉱山は枯渇しつつある。そんな中、1981年に大規模な金の鉱床が発見された鹿児島県の菱刈鉱山は、ポテンシャルが限りなく高い。菱刈鉱山の金は、金の含有量1トン当たり50g(南アフリカの金鉱山では1トン当たり5g程度)、金の総量250トンを越えるというものである。実際、1986年に本格的に出鉱を開始してからわずか10年ほどで、すでに閉山した佐渡金山が380年かかって産出した全量を追い抜いた。ジパングの夢再び。住友を第2のロスチャイルドにするかもしれない。」

 いかにも、壮大なストーリーです。
 私が、最初にこの銘柄を知ったのは、メルマガの「億の近道」で、記事はこちら、鉱物価格が低迷しているときの文章ですが、内容的には、今も心躍るもの(笑)です。さらに、菱刈鉱山発見のサクセスストーリーも、一読の価値ありです。平成17年3月にも金鉱脈が発見されており、まだまだ、埋蔵量は増加しそうです。金(ゴールド)は、マグマに熱せられた地中の熱水にとけ込んでいる状態から、沈殿し鉱脈となるまでに、わずか数十年しかかかりませんから、もしかすると、金(ゴールド)生産工場として、これからも、発掘に追いつかないほど、金を生産し続けるかもしれません。
 
 もっとも、興ざめなことを書きますが、2004年の日本国内の、金の供給量は230トン。そのうち、他鉱物精錬過程で電気分解で産出される電気金が、約120トン、リサイクルが30トン、私的保有放出が47トン、などなど、鉱山から掘り出されたもの(全てが住友金属鉱山による)は、1割にも足りません。市場全体とすれば、微々たるものです。けれども、1企業としては、掘れば掘るだけ収益になるとすれば、やはり、たいした財産だともいえます。
 
 では、その保有鉱山の評価額を見てみます。
 2005年(2006年はまだホームページに載っていない)のアニュアルレポートによると、保有する埋蔵鉱量は、銅2817千トン、ニッケル1450千トン、金230トン、となっています。(金とか銅はわかるけど、ニッケルって何だろうと思ったら、ステンレス鋼の原料だったのですね。)これに、国際市場価格を乗じてみると、銅2兆5千億円、ニッケル4兆3千億円、金4千億円、合計で、7兆円強の保有評価額となります。1年半で倍加しています。
 こうしたデータは、独立行政法人石油天然ガス金属鉱物資源機構(JOGMEC)のホームページが、充実していますし、正確な数字は載っていませんが、大まかな趨勢のグラフだけなら、会社IRページで、見れますが、過去数年で、各資源価格は、2倍から4倍となっており、もし、こんな状況が、これからも続くのなら、とんでもない「お宝銘柄」となります。ジムロジャーズの意見などにも一理ありますし、投機資金であがっているだけとも思えません。色々読むと、世界の実需の伸びはすごいですし、金などよりも、銅やニッケルなど、実需系のほうが値上がりが激しいです。ニッケルは、世界的に在庫が底をつきかけています。
 もっとも、鉱物が地面に落ちているわけではないのだから、堀出すのにも費用はかかりますし、単純に財産額にはならないとは思いますが。
 

 おそらく、海外メジャーも黙ってはいないでしょう。先述のJOGMECのニュース欄を見ても、世界的なM&A関連の話題が飛び交っています。
 世界の非鉄メジャーは、三大メジャーといわれる、BHB Billiton(英、豪)、Anglo American(英)、Rion Tinto(英、豪)が、売上げ1兆円を超える規模です。その後に、チリとかブラジルとかロシアとか、公社的な企業が続いており、世界的なM&Aも続いています。住友金属鉱山は、利益額で10本の指に入るかどうか、といったところみたいです。参考までに、米国市場に上場して時価総額が確認できるものでは、住友金属鉱山と同じぐらいの利益水準であるNewmontが、時価総額2.3兆円ですから、それから考えても、安いです。
 
 こうして、見ていくと、強気派の根拠もそれなりで、シナリオ成就の可能性も捨てきれません。
 
 ただし、私は、それだけでは、株は買えないと思うのです。
 解散または売却ならともかく、企業活動をしていく以上、資産は保有しているだけ、バランスシートに載っているだけでは意味がないのであって、儲けのサイクルにのせて、収益を出してナンボのものです。
 ということで、実際の収益力を見ていきたいのですが、これは、難しいです。というのは、住友金属鉱山の世界生産シェアの最も高いもので、電気銅の、14位、2%強(2004年度)。あとは、それ以下で、価格決定力などはなく、ただただ、市場価格に振り回されているのです。そして、その市場価格の今後予想について思いつくままに、
 
1)世界的寡占化が進み、供給過剰が起こりにくくなりつつあり、値崩れがしにくくなっている。
 銅鉱石 50%から58%(上位10企業の寡占度 1995〜2004)
 金鉱石 31%から58%(同上)
 ニッケル鉱石 78%から83%(同上)
2)研究開発の進展により、生産コストが低下していく。
 例えば、住友金属鉱山が開発したHPAL法は、従来、ニッケルを取り出すにはコストがかかりすぎて、鉱山の横に山積みにして捨てていたリモナイトから、低コストでニッケルを取り出すのに成功した。
3)資源ナショナリズムなどによる状況変動の不安がある。
4)確かに、需要も急拡大しているが、開発競争も拡大しており、需給バランスが大きく崩れるとは考えにくい。

 JOGMECが出しているレポート(銅の需要分析など、)など見ても、極端な予測はありません。一番、大きな影響を与えるのは、世界景気、ということではないでしょうか。
 
 市場価格に大きな下落がないとすれば、住友金属鉱山の世界シェアからすると、いくら生産拡大したところで、直ちに供給過剰につながることはないでしょう(笑)から、たくさん掘り、たくさん製錬すれば、たくさん儲かるということになります。
 
  

-営業CF投資CF
200123,339▲4,248
200233,370▲16,246
200326,105▲21,246
200432,324▲17,448
200540,150▲31,725
200670,772▲102,384

  
 投資CFのうち、どこまでが、維持的投資で、どこからが将来に向けての投資か、判断しにくいですが、今はできるだけ鉱山開発に注ぎ込むべき時期であり、投資CFの拡大は、頼もしいと思います。
 02年度のアニュアルレポートと比較しますと、国内拠点の東予工場の生産体制増強が、銅製錬30万トンから45万トン(07年度)、銀が300トンから360トン、金が36トンから60トンへ、能力アップしつつあります。フィリッピンでのニッケルも、先述のHPAL法で17年度に開始し、18年度は1万トン、さらに2倍化の計画。かなりのイケイケで、以上は、もっぱら、製錬のほうの増強状況なのですが、ペルーやチリなどの鉱山への投資をし、買鉱比率を下げ、自社資源+製錬を中心とするというビジネスモデルの転換も図っています。これは、資源の囲い込みが進む一方で、中国が生産設備をやたら増強するので、原料不足が進むという背景があるみたいです。
 さらに、菱刈金山に並ぶ、アラスカのボゴ金山でも、フル操業が始まるようです。
 
 大雑把ですが、今の世界状況では、生産体制整備が計画どおりに推移すると、1000億円/年ぐらいの営業CFは、乗り越えそうですし、価格高騰があれば、さらに良し、ではないでしょうか。儲けた分は、再投資し、10年で世界メジャーを目指すという目標も明確です。日本からも、メジャーが出てほしいですよね。
 銅やニッケルの相場が、景気連動であることを考えると、注意は必要ですが、悪くない投資先ではないかと思います。ゴリラにはなりそうにないですけどね。
 

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