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2006.09.09

アイディーユー

 ベストセラーとなった梅田望夫氏の「ウエブ進化論」では、リアル店舗とネット店舗の本質的な違いを次のように説明しています。
 リアル店舗では、売れ筋商品が収益の大半を稼ぎ、その他多数在庫の損失を補っています。しかし、ネット店舗、例えば、アマゾンドットコム、例えば、アップルの iTunes Music Storeでは、その他多数の「塵も積もれば山となる」が、収益の多くを稼いでいるというのです。

 この「ロングテール現象」つまり《ほぼ無限大 x ほぼゼロ = something》を可能にしたことが、Web2.0だというわけです。
 
 ここまでのこと、インターネットの特性を理解するならば、eコマースに最も適している商品が何か、気がつくはずです。それは、「数は一つしかないが、種類は無限大にある」という究極のロングテール業界だと。その一番手が、市場規模から言っても「不動産」であることは、間違いがありません。
 また、不動産は、その名前のとおり、動きません。ネット売買に特有の不安というのは、実物が確認できない、実物が届くかわからない、といった、物に属する不安です。しかし、不動産売買とは、物そのものが移動するのではなく、情報である権利が異動するのです。「電化製品」や「本」などの大量生産品よりも、「不動産」のほうが、はるかにインターネット向きです。
 
 ということで、今回は「夢」モード満載です。
 「夢」への過大評価が過ぎると、バブルと消える危険がありますが、過小評価も、時代の趨勢を見誤ります。とりあえず、「もし」から、始めてみます。
 
 もし、マザーズオークションから、オークションの機能を削ったらどうなるでしょう。単なる、《売りに出されている不動産のデータベース》になります。
 もし、全国を完全に網羅した「売り物不動産データベース」があれば、売り手にとっても買い手にとっても、とても便利です。毎日、新聞の折り込みチラシとなっている不動産広告の、とてつもない非効率性がなくなるだけで、かなりの経済性向上です。
 そう、折り込みチラシより、ネット上のデータベースのほうが、広告としての費用対効果がすぐれているという「値段設定」さえすれば、全国規模の「売り物不動産データベース」が成立し、商売ができます。これだけでも、いずれ、誰かが実現していたことはほぼ間違いなかったでしょう。
 
 さて、そのような単なるデータベースなら、広告としての機能しかないなら、実際の売買はどのようにすることになるでしょう。最初に値段ありきの先着順でしょうか。
 しかし、売り手としては、できるだけ高く売りたいと思うのは、当然です。定価というのは、同じ商品が多数あって、いちいち、価格交渉をするのが非経済的な場合に、導入されたものであって、高価かつ稀少であれば、買い手を競わせるほうがいいに決まっています。そのように考えると、「売り物不動産データベース」に、オークション値段決定機能が、オプションとして付くのは、自然なことだと思います。
 さらに、オークションは、外部ネットワーク(磯崎哲也氏論文参照)が生きる典型ですから、ゴリラ企業が生まれやすい業界なのです。
 
 逆に、買い手の立場から考えてみます。
 懐疑派の意見「ネットで、そんな高い買い物をするはずがないさ」。どこかで聞きました、そう、ネット株取引の初期にもありました。しかし、今や、ネット上での株取引で、一日に数千億円もの売買がおこなわれています。株とは、会社そのものです。会社そのものの所有権のネット売買が、これほど普及してきているのに、不動産で、できない理由があるでしょうか。株のトレーダーには、値段だけの売買をするデイトレから、企業訪問や財務分析をする投資家まで様々です。不動産にも、土地転がし、もいるでしょうし、実地見学や鑑定書熟読のうえで購入する人もいるでしょう。
 買い手にとっては、ネットであろうが、対面であろうが、関係ないのです。大切なのは、選択肢が多いこと、対象不動産の情報がたくさんあること、それと、価格に合理性があることではないでしょうか。オークション物件は、パシフィックマネジメントとの子会社のデューディリジェンスがついていますから、耐震偽装の心配もなくて安心です(極端な例でした)。
 
 こうして考えていくと、値段付けの手法については試行錯誤はあるかと思いますが、町の本屋さんが、アマゾンドットコムと太刀打ちできないように、今の町の不動産屋さんが、このままでいられるとは、とても思えません。インターネットの進化により、どんな形であれ、不動産にも新しい流通の形が生まれることは、確実でしょう。それが、最終的に、どのような形に落ち着くのであれ、今のところ、不動産ネットオークションが、その一番手、そして、ゴリラ企業が登場するのは、十分にあり得ると思います。
 ただ、それが、今なのか、20年後なのか。それが、アイディーユーなのか、そこまではわかりません。
 
 さて、アイディーユーです。8月決算が閉まり、現実のマザーズオークションの出展総額は計画を上回りました。しかし、参加者の拡大、その浸透は、低調です。オークションは先に書いたとおり、デューディリジェンス等、かなり丁寧ですから、急いで不動産を売却したいというニーズには向きません(営業不足による大量出品は別として)。一種の品質保証、スピードを犠牲にして安心を提供するという戦略です。そして、皮肉なことに不動産好況のため、オークション出店準備物件が、出展前に先に売れてしまうというケースが続出しているのです。
 
 そんなこんなで、アイディーユーの現状は、ゴリラへの道(拙稿「ゴリラ企業の破壊力」参照)のロードマップからすれば、まだ、キャズムを渡る手前です。キャズムを渡る前に体力がつきるのか、それとも、他企業に先に渡られてしまうのか、無事に渡って、S字カーブを駆け登るのか、一人前のゴリラになるために、試練は続きます。
 アイディーユーが、目指しているのは、「株」でいう「証券会社」の役割ではありません。「証券取引所」です。そのために、「証券会社」不動産版を育成しなければなりません。不合理な商慣行で甘い汁を吸っている旧態勢力がおり、キャズムを渡るのは、大変です。
 しかし、未公開株よりも、上場審査を経ているほうが安心、というのと同様に、証券取引所ならぬマザーズオークションが品質保証したことに消費者からの価値が付くならば、我先に、という可能性もあります。
 
 アイディーユーは、不動産を証券のように流通させることを目指しています。そのために、調査、契約、登記、ローン融資、全てワンストップでおこなえるように体制を整えつつあり、投資用不動産については、利回りが公示されているほか、入居があろうが空であろうが家賃が保証されるシステム(IDU以外の提供)もあります。さらに、(行政向けに、土壌汚染リスク診断、防災情報相互提供支援システム、などを提供している)アジア航測を資本下に置いていますから、これから、もっと付加の高いオプションも提供されることでしょう。ここまでくると、金持ち父さんのキャッシュフローゲームで不動産を買うのと同じ、頭金さえ払えば、家賃からローンが引かれて残額が入金される全自動システムも、遠いことではないかもしれません。
 もっとも、私が、こっそり期待しているのは、実物不動産(所有権)ではなく、信託法の大改正で身近になった信託受益権つまり証券そのものです。
 
 アイディーユーのもう一つの柱、不動産開発を中心とした投資コンサルは、好調そのものです。
 こちらの分野でも、アイディーユーは個性的な仕事をしています。私の住んでいるところから、車で30分ほどのところ、瀬戸内海国立公園内六甲山麓の芦屋市奥池で、アイディーユーは、国内最大級(48000坪)の定期借地権付き住宅地分譲をおこなったのですが、これが、自然と共生した見事なものです。感動ものです。このほか、歴史的建造物のバリューアップも得意です。

 財務ですが、組合を活用している企業は、負債が連結されないケースが多く(変わる?)ので、株主資本比率や、ROAのような定量分析の意味が薄くなってしまっています。不動産流動化企業の例に漏れず、損益は、連続増益、営業CFは、赤字拡大という、パターンですが、不動産開発事業が順調な間、しばらくは、業績は安心してみていられます。営業CFが赤字なのは、儲かる案件が多いために、借り入れをどんどん増やしているだけのことです。500億円規模の通称「マザオクファンド」がバランスシートの棚卸資産に座っていますので、それがぐるっと回れば(拙稿「儲けのサイクル」参照 )、キャッシュが生まれます。資金繰りは問題ないでしょう。マザーズオークションは、ゆっくり育つだけの時間はあります。
 
 最後に、買い時と値段です。現在の業績比較では、単なる不動産業界の割高銘柄にすぎません。
 しかし、今が稼ぎどきの(と世間では言われている〜私自身は強気)他の不動産流動化銘柄と違い、今は業績よりも、将来への布石を打っているかどうかで判断するべきであって、単にPERで比べても意味がないとは思います。仮に、業績が悪化しても、不動産流動化銘柄の場合には、ピークアウトでこれからは下り坂、と、叩き売られることでしょう。しかし、アイディーユーのような企業の場合には、成長速度が落ちただけで上向きには変化なし、と判断してもらえます。
 
【株価(時価総額)=不動産流動化事業(a)+新成長ドライバ(b)】
 として、(a)は、今年か来年でピークアウトと見られていて、過去にいくら成長率が高くても、もはや評価されない状態ですね。で、(b)ですが、アセットマネージャーズなどは、企業再生などの投資銀行があたるのですが、このジャンルは、景気変動の浮き沈みもあり、不透明で、結果が出てから始めて株価に反映されるというところがあります。(投資銀行へと変貌した総合商社は、いくら業績を上げてもPER10程度です。おそらく、アセットなども、長期では、徐々に、この水準へ落ち着いていくのでしょう。)
 しかし、アイディーユーの(b)は、マザーズオークションで、成功するかしないかは分からないものの、もし、成功した場合には、あまり浮き沈みのない安定した、大きな収益源となるわけです。
 いくら過去に成長率を上げていても、将来を「買えない」モンキーと、将来を「買える」ゴリラの違いです。
(流動化銘柄が駄目だとか、アイディーユーより悪いとか、言っているのではありません。私はアセットマネージャーズ(拙稿参照)を買っています。モンキー銘柄も中期では「強く買い」の場合もあります。)
 
 市場規模は、新築、中古あわせて、とんでもなく広く、ライバルは、はるか後ろです。保守的に考えれば、マザーズオークションで、毎日、実績が公表されていますから、出展数、落札数、が急拡大し、本物であることが確認できたタイミングを捉えて買うのがいいのではないでしょうか。この銘柄は、マザオクが発展するか、しないかだけで、全てが決まるのです。マザオクが発展すると確信したなら、高くても買うべきです。成功しそうにないなと思うのなら、安くても買ってはいけないと思います。もっとも、私はフライングで買いました。
 

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