儲けのサイクル
公表される決算書では、貸借対照表(B/S)と、損益計算書(P/L)は、別物ですが、財務の現場では両者は一体、不可分です。
複式での会計伝票を作成するにしても、貸借対照表と、損益計算書は入り交じっており、損益計算書科目だけで、成立する伝票は(原則として)ありません。損益計算書の分析に当たっては、貸借対照表と合わせてこそ、はじめて十分な分析が可能になると思います。
下図は、会計の現場で一般に使われている「試算表」という、貸借対照表と損益計算書の両者が上下に合体したものです。日常的には、このように、貸借対照表と、損益計算書は、二つで一つのものです。
資産(B/S) | 負債(B/S) |
|
| 資本(B/S) |
|
| 利益(P/L - B/S) |
|
費用(P/L) | 収益(P/L) |
|
さて、今回は左側(借方)に注目してみます。「資産(貸借対照表)」と「費用(損益計算書)」が並んでいます。これは同族であることを示しています。
これから書くことは、実務をしていると感覚的にわかりますが、そうでなければ、理解が難しいと思います。しかし、重要なポイントです。定義します。「費用」とは、「すでに費用となったもの」のことであり、「資産」とは、「これから費用になるもの」のことです。「すでに」と「これから」が違うだけで、仲間なのです。
では、「これから」が「すでに」に変わるのはいつでしょうか。それは、実際に現金支出などがあったときではありません。収益があがったときです。
例えば、拙稿「アプリックス」で例に挙げた開発費などの「繰延資産」については、昔に現金支出があっただけで、今は実体がないのに「資産」に計上されています。「収益」があったときに始めて、「費用」になるために、「資産」という待合室で待っているのです。
上の図をなぞりながら読んでください。
(1)「資産」にあった《経営資源》が、「費用」に移動し、同時に「収益」があがる。(資産減少)
↓
(2)「収益」が「費用」を超えた分は、損益計算書をはみ出して貸借対照表の右下側に流れこむ。
↓
(3)貸借対照表は、左右がバランスするものなので、右側が膨らめば、同時に左側の資産も膨らむ。(資産増加)
↓
(4)また、(1)へと戻り、繰り返す。
このような儲けのサイクルがイメージできるでしょうか。「資産」がポンプの役割を果たしている、動く財務諸表のイメージです。回転の速さや、流れる量の多さ、などに、総資産なんとか回転率とか言う、それらしい、分析用語が付いています。
損益計算書だけを分析するなら、それは過去のものにすぎません。しかし、貸借対照表から損益計算書へ、ぐるぐると循環する流れがイメージできるなら、将来の損益が、わかってくるのです。このサイクルがイメージできたなら、「資産」の中身を見ていって、肉付けしていきましょう。この資産がどのようにして、費用に移動するのかな、収益を生むのかな、と考えながら見ていくと、有効なもの、全く無駄なもの、何となく、わかってきます。資産に載っていないもの(人的資源とか)も、イメージに加えます。
貸借対照表が、将来の損益計算書の生みの親であることがわかるでしょうか。このようにして、《利益》が、体質を強化しながら生み出されたものなのか、体力を消耗しながら生まれたのか、「利益の質」がわかるはずです。
株を買うというのは、この「儲けのサイクル」を買うということです。