アマゾン・ドット・コム
3年ほど前に、私は、中国株ってどんなものだろうと、中国の石油会社の株を買ったことがあります。しかし、後になって、その会社が、日本固有の領土である尖閣諸島の沖で、資源を強奪(失礼!)しようとしている会社と知り、あわてて売り払いました。
中国株やインド株はいかにも儲かりそうです。しかし、その事業内容が私たちの実感のないものであることに不安は感じませんか。私は、外国株を買うにしても、身近にあるサービスや製品を提供する会社を選びたいと思います。日本に進出しているということは、グローバルに展開するということですし。
ということで、アマゾンドットコムを取り上げます
アマゾン株は、実は、以前に持っていました。しかし、04年5月の日本株大暴落の際に、「日本株を買いだ!」と換金してしまったのです(当時は、モンキーだと考えていましたので)。最近になって、ミクシィの社外監査役である磯崎哲也氏が、アマゾンの分析(こちら)をしていたのを読み、もう一度、見直そうと考えました。磯崎氏は、アマゾンを「貧乏ロングテール」と評していますが、それだけではないように思います。
オンライン書店など、参入が簡単そうで、差別化が難しそうです。しかし、私はなぜか、アマゾンばかり利用しています。アマゾンは、他のネット書店とは、何かが異なっていると感覚的に感じているのです。
「ウエブ進化論」によると、アマゾン創業者ベゾス氏は昔から、「アマゾンはマイクロソフトのようなテクノロジー会社になる」と述べ、「たくさんの小売業者がアマゾンのテクノロジーインフラに寄生しなければ生きていけない世界」を思い描いていたそうです。
私なりに解釈しますと、アマゾンは「小売り」の範疇に入れるのは間違っています。例えば、自分のブログで書評を書き、アフェリエイトを貼る一般の生活者ブロガーが、「小売り」なのです。その意味では、アマゾンは卸しです。町の本屋さんにとってもそうです。もし、大量発注によるキャッシュバックが、それなりならば、本屋さんは卸屋さんに発注せず、アマゾンに発注してもいいわけです。
じゃ、アフェリエイトをしている楽天も同じでしょうか。いや、楽天は、アフェリエイトを使って、ブロガーを「販売員」にしているだけです。本質的に異なります。
書籍にはISBNコードという国際規格があります。しかし、書籍以外の商品には、そのような統一的なコードはありませんでした。そこで、全ての商品を網羅するコードとして世界標準規格になろうとしているのが、アマゾンのASIN(アマゾンにアフェリエイトでリンクを張るとき、後ろにつくやつです)です。
アマゾンのコードが、そのようなポジションになり得たのは、そのオープンな姿勢に関係があります。
アマゾンは、その膨大な商品データベースや、Web技術を解放して、「どんどん、アプリケーションをつくってちょうだい。サイトをつくってちょうだい。商売をしてちょうだい」と呼びかけています。商品データベースだけではなく、アマゾンの売上げデータ、世界中の1600万といわれるWebサイトのトラフィックや関連リンクなどの統計(子会社のAlexd Internet)、世界最大規模の映画情報データベース(子会社のIMDb)、など、を利用することができるのです。
データそのものも、ユーザー参加型のカスタマーレビューで、内容が日々、充実したり、しています。
アマゾンのショッピングカートも使うことができますので、新しくネット店舗を始めたい人は、それらを組み合わせて、自由に個性的なサイトをつくることができるのです。
アマゾンが目指しているのは、インフラであって、ネット小売り屋さんではないのです。と、考えて、私は、「これは、モンキーではなく、ゴリラになるかもしれない」と考えを改めました。
では、足もとを見てみます。
比較すること自体がナンセンスですが、上場している書店である丸善と比べてみます。
- | 丸善 | アマゾン |
売上高 | 83,411 | 8,490 |
売上げ原価(a) | 63,504 | 6,451 |
棚卸資産(b) | 16,659 | 566 |
回転率(c=a/b) | 3.8 | 11.3 |
平均在庫日数(365/c) | 96日 | 32日 |
金額単位は、丸善は百万円、アマゾンは百万ドル
売上高ではなく、売上原価で計算しました。また、棚卸資産額は、手を抜いて平均ではなく年度末で出しています。で、丸善は、在庫の回転率が年に3.8回転です。アマゾンは、その3倍の11.3回転です。アマゾンのほうが、儲けのサイクル(拙稿参照)を、3倍も速く、回しているのです。仮に、利益率が同じだとしても、アマゾンのほうが、儲けは3倍です。利益率は、回転率と組み合わされて始めて意味がでてきます。
上記のような棚卸資産の回転は、交差比率というのですが、よく知られている指標でいえば、
ROA = 利益/資産 = 売上高利益率 x 総資産回転率
ですから、利益率を減らして回転率を上げるのも、経営判断ですし、その逆も、そうです。ROA(左辺)の向上が大切なのであって、利益率と回転率の乗算の積が大切なのです。損益計算書から、利益率だけを、他銘柄と、一生懸命くらべてみても、意味ないです。これまで、何度も書いていますが、損益計算書は、貸借対照表と共に、読まないと、意味がないです。(もっとも、回転率が大きくない業種のときには、私も手抜きで省略したりすることもありますが)
しかし、アマゾンの場合には、回転率のほうを重視するだけの理由があります。それは、資金繰りです。仮に、本を仕入れたときの決済日が2ヶ月後だとします。丸善は、決済日から36日(96日-60日)経たないと、本が売れないわけですから、その間の資金は、どこかかから調達しなければなりません。
しかし、アマゾンは、本が売れてから28日(60日-32日)の間、現金が手元に残り、それを自由に使うなり、預けて金利を頂くなりできるのです。
同じ業種とは思えませんね。おそらく、アマゾンが出てくるまでは、この業界は、自転車操業が当たり前なのだ、で、すまされていたのでしょう。
アマゾンは、キャッシュフローに鋭敏な企業です。
「株主への手紙」の中で、毎年のように「株式の価値は、将来の【キャッシュフロー】の現在価値であって、将来【利益】の現在価値ではない」と言い続けています。
それを裏付けるために、アマゾンのFCFを出したかったのですが、いろいろ、悩む部分が出てきたので、営業CFで代用します。
- | 営業CF | 税引き前利益 |
03年 | 392,022 | 35,718 |
04年 | 566,560 | 355,870 |
05年 | 733,000 | 428,000 |
楽天証券やイートレード証券では、米国株が日本株のように買えます。米国株は1株単位で買えますし、100ドルを超えると株式分割してきますから、だいたいが1万円以下で買えます。
数字は万国共通ですから、業績を追いかけるのも、英語が苦手でも、可能です。英語に自信があれば会社のIRページでさがしたらいいと思いますが、自信がなければ、グーグルファイナンスで、代用可能でしょう。
日本のネット通販といえば、楽天ですが、最近は、株価の低調が目立っています。私も、楽天については、かなり悲観的です。多角化について、皆がやっているから自分も参入する、みたいなものばかりで、シナジーも感じられません。さっき、楽天のホームページから説明会を見てきたのですが、その内容のお粗末なこと。がっかりしました。楽天は、後追いでしか時代を追いかけられない旧体質のネット企業になってしまいましたね。(私も、よく利用はしているのですが)ネット時代のビジョンが、まったくありません。
日本の楽天と、世界をリードするアマゾン。アマゾンの時価総額のほうが2倍ぐらいなのですが、ビジョンの違いを考えると、この程度の差では済まないような気がします。
アマゾンは、いずれ、中国にもインドにもブラジル奥地にも進出するでしょう。売上げの6割近くが、いまだ北米からのものですから、まだまだ、これからです。取り扱う商品の種類も増え続けることでしょう。もちろん、先に書いたように、小売業は、踏み台に過ぎません。ライバル会社も、アマゾンのデータベースを使わざるを得なくなる日も近いかもしれません。
ただ、第二の種蒔き期と考えるので、中短期ではわかりません。買うとしたら押しめ買いでしょうか。