テイクアンドギヴ・ニーズ
テイクアンドギヴ・ニーズは、その名前の由来を「世の中のニーズをつかみ、そのニーズに当てはまる受け皿(サービスなど)を還元する。」と野尻社長が、その著書の中で書いています。その遺伝子を継承させるかのように、同社のウエディングプランナーは、専門技術屋ではなく、コスト管理まで要求される総合職として育てられています。そのプランナー達が、結婚準備カップルとのやり取りの中で、テイクしたニーズが、挙式費用融資であり、ブライダルエステなのでしょう。
だとすれば、エステ事業に携わるエステシャンも、技術提供だけを求められているわけではないでしょう。エステは、現代女性がリラックスしリフレッシュできる場であり、そこで放たれる女性客の本音ニーズをテイクしていくこと、そんな高感度アンテナこそが、総合生活産業企業への脱皮をしようとしている同社が、エステ事業に求めているものではないでしょうか。
そのようにギブした新事業を、また、ニーズをテイクする場としていくこと。
テイクアンドギヴ・ニーズが、そうした事業展開を指向しているのであれば、お金がたくさん要ります。というのは、例えば、事業だけを手っ取り早く広げるのなら、フランチャイズ化が一番ですが、そういう、マニュアル的ノウハウの伝達と、高感度アンテナを持った人材育成とは、対極にあるからです。キャッシュが先に、たくさん要ります。
ということで、テイクアンドギヴ・ニーズの資金調達スキームを見ていくことにしました。
テイクアンドギヴ・ニーズは、出店についてSPCスキームを採っています。建物SPCスキームは、省きます。(ただ、東京リースの出資分は、たったの5%で、借り入れが95%というレバレッジの高さには注目です。)で、一番複雑な土地購入SPCスキームを見てみます。
これは、テイクアンドギヴ・ニーズが自ら出資して匿名組合を作り不動産を所有(所有権ではないが)させて、その組合からテイクアンドギヴ・ニーズが、不動産を借りるというものです。一見、地代家賃が出ていくように見えますが、実際には、匿名組合はテイクアンドギヴ・ニーズの決算に含まれているため、出資割合分は、匿名組合収益として戻ってきます。そもそも、自己所有でも、減価償却費が出ていきますから、損益上は、オフでもオンでも、あまり変わらなかったはずです。要は、キャッシュフロー上の問題でした。前決算で見ると、バランスシート中の投資有価証券(大半が組合)は、208百万円(年初)から782百万円(年度末)、損益計算書の匿名組合収益は152百万円(年間)ですから、かなりのリターンです。
テイクアンドギヴ・ニーズは、SPC利用の理由を「スピード展開を可能に」と述べていますが、そうなのでしょうか。下記は、キャッシュフローの推移を抜粋しました。
- | 16年度 | 17年度 | 18年度 |
営業CF | 2155 | 4737 | 4277 |
有形固定資産購入 | △2019 | △3344 | △1324 |
敷金保証 | △839 | △974 | △1625 |
投資有価証券 | 0 | 0 | △437 |
財務CF | 7163 | △1733 | △1795 |
16年度までは、営業CFの儲けから維持的投資を引いた分を、固定資産購入に注ぎ込んだ形で、それでもお金が足らず、財務CFはプラス(つまり借金)でした。でも、17年度からは、固定資産を購入してもお金が余り(匿名組合も始めましたし)、借金を返す方向に転換しました。その結果、1四半期末には、長期借入金は20百万円にまで減っています。もう、返すべき借金はなく、金余りへと突入します。店舗増加による匿名組合への増資があるとしても、相当なキャッシュ滞留が見込まれます。そもそも、テイクアンドギヴ・ニーズは、資本がどんどん膨らんできているのですから、同じ比率で負債、つまり借金を増やすことも可能だったはずです。また、人材育成も必要なので、成長の適性速度もありますし、計画当初はともかく、今の状況では、SPC利用の必要性はあまり感じません。
SPC利用のメリットを他に考えてみますと、信託受益権は融資の担保とするのに、質権設定だけで可能、不動産所有権よりスムーズとか、不動産所得税4%などの流通税が不要だとか、管理手続きから解放されるとか、財務上の見た目の数字を改善するとか、あと、私の知らないメリットもあるのかもしれません。
どちらにしろ、テイクアンドギヴ・ニーズは、19年度からは、金余り企業に変貌します。文頭の心配は取り越し苦労で、キャッシュ調達より、キャッシュの使い道が課題だったのです。融資事業の原資に充てるのでしょうか。確かに、最初にキャッシュが必要な事業ですが、全部を自己資金でまかなうには効率が悪すぎます。貸付債券も証券化できますしね。
お金の使い道。今、公表されている事業は、かつての固定資産購入に匹敵するほど、お金を使うとは考えにくいです。おそらく、近い将来に、お金の使い道があるのではないでしょうか。さらに「スピード展開を可能に」というSPCの本当の意義は、そこにあるのではないでしょうか。そう思って、社長の著書を読み返してみました。すると夢として、ホテルへの進出が、書いてありました。なるほど、ウエディングもエステも旅行業も、全て、ホテルと親和性の高い事業です。
そこまでの夢を視野に入れるなら、SPCの最大のメリット、資金調達機能が意味を持ってきます。例えば、T&G匿名組合の出資分を、流通させることができます。REITのように上場は無理ですが(スキームを変えれば可能ですが)、一例としては、マザーズオークション(アイディーユーの池添社長は、不動産証券の流通に関して、おそらく、日本で一番、前向きなビジョンを持つ経営者ですし)に出品することは可能です。流通手段は他にもあります。上記の利回りなら、私も買いたいです。もっと、キャッシュが必要なら、増資に代る有力な資金調達手段になります。
ま、ホテルのことは仮定の話(なので、あまり信じないでください)ですが、金余りについては、差し迫った問題です。注目していきたいと思います。
さて、このように、成長とキャッシュを生み出す力、時代の感度と財務能力とが、高いレベルで両立しているところが、テイクアンドギヴ・ニーズの魅力です。私は、モンキー企業とはいえ、中期では、かなり「買い」だと思います。
テイクアンドギヴ・ニーズはハウスウエディングという、市場がなかった業界を、創り上げました。普通、市場創造企業は、ソニーが創って松下が儲ける、アップルが創ってマイクロソフトが儲ける、みたいに、ゴリラ(拙稿「ゴリラ企業の破壊力」参照)にならない限り、貧乏くじを引きがちです。しかし、3年で建築費を回収するという信じがたいビジネスプランで、儲けを積み上げていること、なかなか頑張っていると思います。
それにしても、匿名組合は、損益計算書に、損益が載るものの、バランスシートに負債は載らないので、いくらでも経営指標を見栄えよくすることができます。こんなことをされれば、経営分析が意味を失います。
最後に、テイクアンドギヴ・ニーズの直近個別バランスシートでは、貸倒引当金は7百万円もあります。一般債権の実績率ではなさそうですね。婚礼費用を踏み倒すなんて、どういうカップルなんでしょう。