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2006.08.18

シンプレクステクノロジー

 間接投資から直接投資への流れは止まることがなく、今後ますます、その裾野を広げることでしょう。しかし、だからといって、証券会社が良い投資先かと言えば、そうは思えません。手数料引き下げ競争など、モンキー同士の消耗戦の様相を示しており、繁忙貧乏になるのが目に見えています。

 
 そこで、視点をずらして、証券システムを作る企業はどうだろうかと考えました。ここで、登場するのは、シンプレクステクノロジーとトレーダーズ証券です。
 
 両者とも、証券システム、特にデリバディブ系を得意とする会社で、3月決算です。前年度実績はシンプレクスが、40%成長、トレーダーズが125%成長です。次期会社予想では、シンプレクスは40%成長(6末でPER44)、トレーダーズが125%成長(PER24)となっています。この数字だけ見ると、なぜ、トレーダーズのほうが割安なの、シンプレクスは、割高だね、となりそうです。
 
 ところが、話に続きがあります。先月末になって、トレーダーズは、突然に中間期経常利益で96%減の下方修正を発表しました。
 その最大の理由が、(1)取引システムのリプレイス時に不具合が生じ、顧客に迷惑をかけたこと。(2)他社と共同開発をおこなっていた取引システムが相手方の理由により開発継続困難となり、自社での開発継続は人的リソース等から困難なため、中止となったこと。だそうです。
 しかし、こんなリスクがあるのなら、安心して投資できなくなります。
 
 そこで、この業界の簡単な整理をします。
  一般にシステム会社は、コンサルと受注をとる大手、開発をする下請け、さらに孫請け、保守をおこなう末端と、下に行くほど利益が中抜きされ、エンジニアの質が落ちていく構造となっています。実際に作業を行うエンジニアは、全体像を知らされず、目の前の作業をやらされるというモチベーションの低い構造だそうです。
 しかし、シンプレクスは違います。もともと、ここは、ソロモンブラザーズ証券のエンジニアが独立した会社です。ソロモンでは、エンジニアがトレーダーと机を並べ、目の前にあるトレードで、市場の歪みを発見し、システムを作っていました。同じ人間が、昼はトレード、夜は保守をしていたそうです。その現場主義が受け継がれ、一人のエンジニアがコンサルから開発、保守まで一貫して担当するのだそうです。「保守はしない」というエンジニアは採らないのだそうです。
 シンプレクスでは、高給取りのエンジニアが、保守をしており、さらに、開発より保守のほうが利益率が高いという、業界の非常識を実現しています。これでは、システムに差がつくのが、理解できます。
 
 トレーダーズの失敗は、業界の旧態依然とした体質が表面化したものです。かといって、他の旧態企業が、シンプレクスを真似できるでしょうか。大手でスマートにコンサルをしているエリートが、これまで顎で使っていた保守エンジニアと、同じ報酬で同じ仕事ができるのでしょうか。身分制社会から、平等社会へ、変革できるのでしょうか。
 
 まだ、他にもシンプレクスの優位的特徴はあるのですが、省きます。経営指標の数字は、どれも見事なので、書きません。
 
 ここで、わかること。同じ業界であっても、シンプレクスの適度な成長は、信頼性と確実性の高いものであり、もう一方は、急成長であっても、信頼性と確実性の低いものだということです。PER水準の違いは、こうした違いを反映したものではないでしょうか。PERの低い高いは理由があるのです。
 
 シンプレクスは常に高PERです。しかし、部門で見るとチンプ企業としての存在感を十分に発揮もしており、この業界に楽観的なら、長期保有に値する企業です。
 逆にトレーダーズ証券は、ネガティブなことを書いてしまいました。私の中では、信頼度が低いのは確かです。トレーダーズ証券は、トレードでも収益を得ています。私は、これを収益源の分散というメリットとは受け取りません。むしろ、収益の不安定化というデメリットと考えます。これがある以上、四半期決算も、出てみるまで丁半博打であり、はっきり言って、ファンダ投資家が投資する対象ではないと思います。が、そんなに魅力がない企業ではありません。今回は、成長を急ぎすぎて転んでしまいましたが、SBI系との提携も決まっており、将来性があります。タイムマシン経営というコンセプトは、非常に成功率の高いものですし。中短期では、面白い場面もあるでしょう。

 業界とかPERだけで、企業はわからないものだと思います。

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