バリュー投資至上主義を批判する
前回投稿「低PER相場に慣れっこに」に引き続き、バリュー投資至上主義への批判です(笑)。バリュー投資が悪いと言っているのではありません。お間違えのないように。
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Mr.バリューは、プロ野球のスカウトです。科学的スカウトを信条とし、統計を取り、身長別、体重別、体脂肪率別、等々、からプロ野球人として最も成功しているグループをさがしました。その結果、身長180cm以上、筋肉質、等々、のグループを選別し、今後は、その条件に該当する球児以外はスカウトしないこととしました。
Mr.ハンターは、プロ野球のスカウトです。長年の目利き力を活かし、スカウトは球児の隠れた才能を発掘することと心得ています。才能は、数値化することはできません。外形数値基準は、あくまで参考です。
さて、二人のスカウトの前に、イチローという高校球児が現れました。Mr.バリューは、「イチローは痩せ過ぎで、基準に合わない」と、初めから検討外でしたが、Mr.ハンターは、「プロに入って成長すれば筋肉質になるさ」と、将来性を見込みました。
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さて、どちらが、スカウトとして成功するでしょうか。
私は、大量採用ができるなら、確率的に、Mr.ハンターが、少数精鋭採用ならMr.ハンターが、それぞれ、優位だと思います。
違う例をあげます。
日本の子供達とアメリカの子供達を学力テストで比べれば、たいてい、日本の子供達が勝ります。しかし、ノーベル賞受賞者の人口比は、アメリカが圧倒しています。
優秀な個人が、必ず優秀なグループに所属しているとは限りません。
スクリーニング的バリュー投資を推奨する主張は、バリューグループの優秀さの証明までは、常に論理的です。ところが、そこから、突然に、「グループがそうなのだから、個別もそうなのだ」と、論理が飛躍してしまうのです。果たして、そうなのでしょうか。意味のない「安心」ではないでしょうか。
個別企業の分析が苦手な人なら、バリューを買っておくという安心も、まだ、わかります。
また、もし、私が大金持ちで、(流動性リスクもあるので)数百もの銘柄に投資できるなら、バリューグループに投資するでしょう。確率的にそれが正しいのです。しかし、少数精鋭主義を採るなら、個別企業の分析に時間をかけるなら、話は別です。確率の精度が低くなり、その分、目利きの力が活きてきます。
スクリーニング的バリュー投資論は、いつも、全体グルーピングからのアプローチです。個別の高パフォーマンス株から、所属グループを割り出すといった方法をとることは、なぜか、ありません。
それについて、名著「株式投資の未来」の中で、シーゲル博士は、彼の名付けた黄金銘柄(S&P500生き残り銘柄のうち上位20)のPERを、市場平均の少し上、と紹介しています。「中の上」PER、これは、私の実感(高PERはリスキー、しかし、低PERは凡庸)にもぴったりきます。高パフォーマンス株は、低PERにも高PERにも、存在するでしょうが、「中の上」PERが、一番、居心地が良さそうです。
これは、「中の上」PERグループのパフォーマンスが良いということではありません。おそらく、グループ別では、低PERが一番でしょう。「中の上」PERは、全体のパフォーマンスは、ほどほどだが、金の卵が、一番多く含まれているということなのです。グループと個別は、別なのです。
ちなみに、同著では、最適ポートフォリオを提示しています。その中で、バリュー戦略として、全体の10%強を充て、そのうち「低PER」には3分の1を充てるようにとしています。つまり、低PERグループには、3〜5%程度を充てるということです。同著は、大変に優れた名著であり、何度でも熟読すべき本ですが、こんなに分散が可能なのは、金持ち用のポートフォリオのような気がします。私も大金持ちなら、そうします。しかし、今の私などの場合には、バフェット式の集中投資のほうが、いいように思います。
私がこれほどまで、バリュー投資至上主義を批判するのは、個人投資家の最大の強みを、自ら捨ててしまっているように思うからです。バリュー投資至上主義の人は、「個人の企業分析なんてあまり意味がないから、《形式的》な割安株を買え。」と主張しますが、私は、個人でも、企業分析が可能であり、《実質的》な割安株が、発掘できると考えます。いや、個人こそが、制約がなく、《形式的》な割安株と、《実質的》な割安株の判別が、可能だとも考えています。
各論。「低PER」って指標、これは、割安感で安心を得るためのものなのに、企業の見解にすぎない「利益」をベースにしています。(安心できます?)
それなら、「事実」をベースにしたPFCFR(FCF=フリーキャシュフロー)のほうがいいです。繰り返しますが、私は、「安い株だけを買おう」という考えを批判しているだけで、「良い株をできるだけ安く買おう」と思っているので、バリュー分析はしますし、PFCFRは、とても気にしている指標です。
(ちなみに、PFCFRから見ると、PERでは割安の、マンション業界とか、不動産流動化などは、万年、赤字です。)
けれど、成長株を相手にするなら、静態的指標でなく、PEGや(修正した)動的PER(参照)も、参考にしてみたらどうでしょう。